不死鳥
そんなゼロの言葉に、俺は……
「謝るなんか必要ないぞ。ゼロ。俺はお前に会えてよかったと思ってるんだから」
思ったままの言葉を口にした。
この反応は想定外だったのか、ゼロも少し間の抜けた声で返した。
『剣……本気で言ってるのか?』
「ったりめーだろ。まぁ掌の上で転がされていたっていうのは正直癪に触るけど、それだけだ」
灰沢さんのいう通りそれだけの理由で俺が狙われたのなら、俺の人生の岐路はそこだったのだろう。
ただただ自堕落に無意味に生きていた俺。かなりの強引さで流し込まれたけれども、そのおかげで一姫さんとゼロに出会い、花奏とも再会することはなかった。
「以上を以て俺はゼロを恨むなんてことはないし、ここまで戦ってくれてる相棒にそんな不埒な気持ちを抱くなんぞない」
『剣……我をそこまで信頼してくれていることに、心からの感謝を』
心なしか声が震えているように感じる。でも今は何も言わないでおこう。
「ふむ、そこは普通に怒ったりする物だと思ったのだが……」
『私も同意見だ。だが……花奏くんが気に入っていたのはそういうところなのかな』
クックック、と短い笑いをこぼすエグゼに、灰沢さんは「かもしれないな」と変わらずに対応する。
「うん、やはり君は面白い。君にその気があれば私と組まないかとスカウトしたいところだが、そんなつもりは毛頭ないだろう?」
「当たり前だろ? 良い方向に導いてくれたって意味で感謝はしてるけど、利用してくれてたことを許すかどうかはまた別問題だ。それに灰沢さんがなんで内通者やってるかも聞いてないしな」
「ははは、そうだな。私の理由は戦いながら教えようか」
『いいのかい志郎? もう目的は達しているだろうに』
「なぬ!?」
『いや考えれば当たり前だろう落ち着け、剣。灰沢は我らの敵だ』
ゼロに諭され確かに、とすぐに気持ちを切り替える。
灰沢さんが内通者でそれを隠すことが無くなったということは、目的は達成されたと考えるのが自然だ。
だからすぐにでもここを抜け出すのが灰沢さんにとってはベストな判断であるはずで、俺と戦う必要なんて全くない。
「なに、基本的に世の中は悪役の思ったように動く物なんだが……それを乱すことをできた努力賞みたいなものだ。それにそのまま逃してくれるほど彼も下にいる都宮くんも甘くはないさ」
「よくわかってらっしゃる!」
当然のことだ。そのまま見逃す必要はないし、相手の変身を待ってやる必要もない。
全力で踏み出して灰沢さんを捉えるために手を伸ばす。
しかし、その一撃に彼はたったの半歩動いただけでいなした。
驚愕する俺をよそに背中に蹴りを入れられ前に転んだ。
「良くも悪くも君は直線的だ。軌道を逸らすのはそんなに苦はないよ。多少は痛むがね……」
『志郎! 早く私を纏いなさい!』
「わかっているさ。エグゼ、ウェイクアップ」
俺が立ち上がるほんの数瞬、後方から灰沢さんが合体するのがわかった。
振り向けば、手には黒い刀身の西洋剣を握っており、紅の翼と翡翠のバイザーをつけた不死鳥と思わせんばかりのエヴォルダー合体者、灰沢志郎が立っていた。
「さぁてと……君や都宮くんの急成長は素直に認めよう。けれど……」
剣を振り、とんでもない風圧が俺たちの身体を襲う。
「まだ『俺』には遠い」




