思い描くは、ヒーロー
(しかしなんというか……とんだ非日常に巻き込まれたもんだな)
剣は静かにため息を吐きつつ、目の前の光景に頭を痛める。
(両方とんでもない美人、っていうのとこのライガーと一緒のやつが二匹……二体? どっちでもいいけど情報処理が追いつかん)
ただわかっているのは一難さってまた一難ということだけ。
ついていない、というか呪われてるんじゃないかとすら思える事態。
ただ共に━━剣はまだよく知らないが━━エヴォルダーを呼んでいるということは、戦闘で何かしらのサポートを行う存在であることを推測し、そしてそれは正解であったことをすぐに知る。
「シンザン、セットアップ!」
一姫は勢いよく叫ぶ。
「……纏われ、黒鉄くろがね」
女は静かに告げる。
彼女たちの言葉と同時にクワガタ型エヴォルダー・シンザン、カラス型エヴォルダー・黒鉄の身体が分解され、彼女たちに『装着』された。
甲虫らしい兜、鎧、肩当と具足、そして二振りの日本刀を構えている一姫。
一方で金属質の羽根に胸当て、レガースや籠手といった装備に剣に向けていた日本刀を女は構えていた。
ただし、装甲を纏っていると言っても見るからに軽装の類であったが。
「はいぃ!?」
あまりの光景に思わず剣も驚愕の声を出す。
理解不可能な現象が相次ぎ、戸惑いはさらに隠せなくなった。そんな彼をよそに、二人の女は睨み合い……同時に斬りかかった。
短い感覚で金属のぶつかり合う音が聞こえるが、剣の目には一切映っていない。
それほどまでに速い剣劇を、剣とそう歳も変わらないような女性が振るっているのだった。
(速い! 私の二刀流に一本の刀で追いつくなんて!)
(できる……いくら小回りが効くとはいえど、この速さは並じゃない)
互いに刃を交え、大よその戦闘力を把握する。
二人の戦闘力はほぼ互角。
(いや、違う……! あの一姫って人が徐々にだけど押され始めてる!)
相変わらず剣には太刀筋は見えない。
けれども一姫に余裕がなくなってきているのだけは目に見えてわかった。
しかしどうやればこの状況を打破できるかもわからない。
少なくとも一般人がどうこうできる世界でないのは明らかだった。近寄ろうものならば即座に細切れにされてしまう。
(逃げるっていうのが一番の選択肢なんだろうけど、却下)
どうせ顔も割れてしまっている以上、追々なにかしらあるだろう。
もうすでに抜け出せないのは明白な事実だった。
『……我二触レヨ』
そんな時に声が聞こえた。
頭に直接響き渡るような声はいささか渋かった。
「じゃなくってもしかして……」
視線を横にいたライガーに向ける。
バッチリと目があった。好きだとかそういうわけではないのだが、しっかりはっきり視線が交わったのはばっちりわかった。
「え。お前喋れんの? というか動けたの?」
『ソコ二イル者ドモト一緒ヨ。動ケヌ道理ガナイ』
言われてみればそうであるが、と納得する。
「まぁ何はともあれ、力を貸してくれるってことでいい?」
『無論。我二触レ、己ガ望ム言葉デ我ヲ纏ウガヨイ』
己が望む言葉、と考える。
(そういえば今戦闘中の二人も纏うのに言った言葉は別々だった。だったら俺は)
脳裏には自分の憧れのヒーローが浮かぶ。
仮面を被り、騎士のように誇りたかい仮面ナイトという特撮ヒーローが。
そして迷うことなくライガーに触れ、ライガーの名前が頭に浮かびその名と共に叫んだ。
「ゼロ、変身!」