限界突破
「つぅ!」
屋上の出入り口にまで派手に吹き飛ばされ、扉が破壊される。
戦闘開始からわずか数分にも満たない時点で改めて相手との戦力差を思い知る。
(とはいえ、エグゼの奴が俺に合わせてるからか幾分かはやりやすい)
「敵さんさては体調不良か」
『阿呆、お前が強くなってるんだ。自分に自信を持て』
ゼロからの言葉に「サンキュ」と返す。
軽口を叩ける程度には、まだ余裕がある。
『ふむ、中々の成長速度だ。私が知る限りで最も短期間で成長しているようだ。いやはや……少々見くびりすぎていたか』
「もっと見縊ってくれて良いんだぜ? その方が勝機はあるから、な!」
立ち上がると同時にブースターを全開、一直線で最短にエグゼへ拳を向ける。
渾身の一撃であるそれをエグゼは左手で受け止め、右手で俺の体勢を崩すように引っ張る。
その勢いに乗っかり、回し蹴りを放つ。
曲芸まがいの蹴りではあるが、エグゼは面食らったのかその蹴りは顔を掠めた。
『剣ぃ! ここから行くぞ!』
「応!」
反動を利用して二回目の回し蹴り。
二回目はもらうものかと寸前のところで避けられる。だがそこで終わりではない。
流れるように裏拳、正拳突き、手刀。攻撃の手を休めることなく手数を増やしていく。
もっと速く、もっと速く!
今まで培ってきた物を全て出しきれ。出し切って目の前にいる壁を崩せ。
(この青年、気のせいじゃなくて『速く』なっている! これは面白い!)
『私を超えていけるかな、青年!』
「超えるんだよ! ゼロと一緒になぁ!」
神経が研ぎすまされていき、一撃に加える力と速さをさらに洗練させていく。
このチャンスを逃せば勝機がないのはわかっている。だから休む暇もない、押し切る以外の方法なんてない。
『まだいけるぞ剣! 一姫たちに鍛えられた我らはこんなものではない!』
吠えるゼロ。
俺もそれに呼応するようにさらに攻撃速度を上げる。
『まだ、先があるのか君たちは……!』
「『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』」
俺たちの声に呼応するように右の爪が黄金色に輝き、エグゼの胸元をえぐった。
『があっ!?』
最初とは逆に、エグゼは大きく後退し何度か転んで膝をつく。
一撃をまともに入れただけだが、エグゼとしては想定外もいいところだろう。
なにせ前回は一方的に俺たちを屠ったのだ。実力差は互いにわかっていたとゆってもいい。
『……伸び代があるのはわかっていたが、想像以上の伸びだ。やるじゃないか新城剣くん』
胸元の傷を押さえながら立ち上がるエグゼ。
だがそこで見えたのは、俺の想定外のものだった。
『馬鹿な……『空洞』だと……!?』
俺の驚愕を代わりにゼロが呟いた。
エグゼの装甲の下には、何もなかった。装着者がいない。
エヴォルダーの最大の特性である人間との合体、それがない。
つまりエグゼは『エヴォルダー』としての力だけで俺たちをいいように翻弄していたのだ。
『正直これは想定外だよ。君はいい、実にいい』
そんな俺たちの驚愕をよそにエグゼは心底楽しそうにしている。
『エグゼ、どうやらてこずっているようだな』
背後からの声。
誰だ、とは言わない。聞き覚えもあるし、なんなら俺と一姫さんの中で一番怪しいと思った人の声だったのだから。
振り向き、飄々としているその姿は普段通りではあるが、いささか目つきが鋭くなっているように思う。
「おや、あまり驚いていないようだね、剣くん」
ニッと笑いながら灰沢さんは返した。




