瞬きの戦い前編
――疾い。
花奏の抱いた感情はその一つに尽きた。
交差する剣撃は刀は折れずとも、最初に立ち会った時からは格段に腕前が上昇していた。
花奏は元々一振りの刀でも手数を武器にする相手もそれを上回る速さで返り討ちにしていた。一姫の二刀流とて初戦では対応できていたのだ。
幾度目かの鈍い金属のぶつかり合う音。
『花奏、奴さん見ないうちに随分と強くなったな』
相棒である黒鉄も一姫の強さをしっかりと理解しており、それに短く相槌を打つ。
「本当に、疾い」
全力でやっているにも関わらず、次第に花奏は余裕がなくなり大きく弾いてなんとか距離を取る。
空中のため踏ん張る必要もなく想定以上に距離をとれた。
(この成長速度は模擬戦、とは違うな。剣くんとの特訓っていうのはかなり実戦に近かったんだろうな!)
ほんの数瞬の間にそこまで考え、翼をたなびかせ勢いよく旋回し一姫の頭をかち割らんとばかりに叩きつけにいく。
一姫もいち早く反応し、二刀を交差させて受け止めた。
だが花奏の一撃はまさに豪剣であり、そのまま一姫は地面へと叩き落とされた。
『完璧には入らなかったな』
「黒鉄、彼女が強いのはわかっていたことじゃないか。驚くことはない」
『いや、少なくとも最初の戦いの時程度の実力であれば今の一刀で終わっていた。気を抜くなよ』
わかっているよ。と返し地面を見る。
土煙が思った以上に舞い上がっているが、すでに立ち上がっている彼女に称賛の思いを胸に浮かべた。
構えをとったのが見え、花奏もそれに応戦するべく突きの構えを取り……同時に翔んだ。
※
「やっぱ強いわねあの娘」
『限界まで頑張ってるんだけどね。正直厳しいよ』
シンザンの返事に「だよねぇ」と一姫ももらす。
手元にある二本の刀を見れば、先ほどの一撃を受け止めたせいで大きくヒビが入っていた。
いや、そもそもこの対戦は一姫に分が悪い。
いかに攻撃を続け様に放っても、惜しいところまでは行くのだが花奏の本能とでも言うべきか完全には攻撃が通らないず、力も花奏が上。
正直に言って一姫は最初に花奏と戦った時よりもはるかに強くなったと自負している。
剣との訓練は花奏の推測どおり模擬戦どころではなく、実戦に非常に近いものとなっていた。一姫自身もシードラゴンズにとった不覚を猛省し、気を引き締めなおして訓練に熱が入り飛躍的に実力が伸びた。
「超えられないのは……紅さん、とんでもなく相性がいいのね」
『反応反射速度、どれもが私たちの上っていうことはそういうことでしょ。私たちも極端に悪くはないけどね』
やれることをやって今の実力差、ほんの紙一重。されど紙一重。
これ以上のことを望めないし、望む気もない。
「シンザン、勝つわよ」
『もちろん。早く剣くんたちを援護しに行かなきゃだしね』
援護にこない以上剣が誰かと戦っているのは事実だ。そしてその相手もエグゼと想定はついている。
「シンザン、悪いけど一本折れるかも」
『問題なし、必要経費だよ』
「ありがと。んじゃ、行くよ」
改めて構え直し、視線を花奏に向ける。
上は花奏、下は自分。実にわかりやすい構図だ。
しっかりと地に足を踏みしめ……跳んだ。