僅かな憩い
「ふぃー……最近は剣くんだいぶ強くなったわねぇ」
部屋に戻り、常温のスポーツドリンクを飲み干し一姫は呟く。それにシンザンも「そうだね」と納得してベッドに降りる。
本人は硬い身体を気にしているのかフカフカのベッドがお気に入りらしい。
一姫はそんな相棒を可愛いなぁと思いつつスマフォを打ちながら送信、会話につなげた。
「正直なとこ素質は平々凡々なんだけど、ゼロくんとの適性が異常に高いのかな、合体した状態ならけっこうな強さになったね」
『剣くんはそれにまして努力家だもんね。合体してなくても体術的な能力ももう並の人じゃ相手にならないんじゃないかな』
うん、と一姫はうなずく。
素質が平々凡々であっても可能な限りを努力で埋めようとする剣の姿勢を、一姫は好ましく思っていた。
生身での試合であれば当然ながらまだまだ一姫の方が何手も先を行っているのだが、最初の一から十は成長したと見れるほどの成長だった。
「正直もっと早く会えてたらなぁと思うな。それだったら組み手ももっと強くなってたかもしれないのに」
『こればかりは巡り合わせだからしょうがないよ。でも一姫ちゃんがそういうこと言う日が来るなんて思わなかったな』
「そうかしら?」
『だって私と会った時には家族の前ではすごく機嫌悪かったじゃない』
「いやぁその辺は、ねぇ?」
苦笑しつつ一姫は実家のことを思い出す。
一姫の実家、都宮家はいわゆる普通の家庭とは違った。
昔はお国を守るために育った士族だったということで、この時代になっても変なプライドが高かった。
(金もないくせに学校のママ友と張り合うために無駄に高い調度品買ったり、家系アピールするし、完璧を強要するし、他の子と遊ぶなとか言ってひたすら剣の稽古……それで逃げ出して山で出会ったのがシンザンなわけだけど)
一姫自身もその才能に恵まれていたため、今の身体能力を得ることができた。そして天性の才能で相手の才能というか素質をなんとなくだが感じることもできた。
その目で見た剣はまさに才覚に関しては凡才であった。エヴォルダーとの適性がなければ本格的にその辺にいる大勢の一人になっていたかもしれない。
しかし一姫にとっては嬉しいことに、その予想は外れた。
ないものを努力で埋める姿勢、そして今だした結果を考えれば自分の目が節穴であったのではないかとすら感じた。
「それに反応もいちいち可愛いからついつい弄りたくなるというか、かまいたくなっちゃうのよねぇ」
『うわぁ剣くんかわいそう』
「シンザンひどくない? 私がいじめてるみたいじゃん」
『本人が望んでないのにいじるのはいじめになるから程度は考えなよ。剣くん努力家ではあるけど真面目すぎて冗談通じないんだから』
グゥの音も出なくなる一姫であった。
初めて会って以来長い時間をシンザンとともに過ごしているが、稀にだがシンザンに姉のように叱られる日がある。まるで本当の姉妹のようだとすら感じれるほどだ。
「ごめんなさい」
『わかればよろしい……ん?』
「……変な音、聞こえるわね」
耳をすませば微かにだが音が聞こえ、施設が震える。
地震ではなく、もっと人為的で脅威となるもの。
「……こりゃ内通者いるわねぇ」
『予想通りって言えば予想通りだけどね』
「シンザン、セットアップ!」
一姫とシンザンは意識を切り替え、すぐに合体し部屋を飛び出た。