謎と憩い
事件から数週間後、戦麗華とはアレ以降出会していない。それどころかエヴォルダーの事件もなりを潜めている。
「事件がないことはいいことだけど、組織があるって言うのをちらつかされたら嫌でも考えちゃうわね」
「一姫さんにしては珍しいことだね」
『剣くんは違うの?』
シンザンの問いに首を横に振って答える。
俺だって気にはなる。けれども下手に考えすぎると俺はバカだからつまづくだけだし。
むしろ考えることは別にある。
視線をゼロの方へ移し、一姫さんとシンザンも「ああ」と頷いた。
『なんだ我の方を見て』
「いや、お前も大概不思議だなと思ってな」
『局面に合わせて形態を変える同族なんて私も知らないもんねー』
ゼロのこの間の水中形態、俺たちはマリナー(一姫さん命名)と呼んでいる。
これにはエヴォルダーであるシンザンも目を丸くさせるような案件だ。少なくとも彼女(俺が勝手に思ってるだけ)には経験のない出来事だ。
留置所に捕まっている八咫鐘のエヴォルダーにも話を聞いたが、そんな同族にはあったことがないという。
八咫鐘の方も戦麗華について聞いてみたが、答えてくれることはなかった。本当に知らなくて答えなかったのか、知っていて答えなかったのかは怪しいところだけど。
「過去の犯罪リストを見ても載ってないてことは本当に経歴なし。戦麗華については灰沢さんが調べてくれてるけど、詳しい情報は一切わかっていないし」
「エヴォルダー自体が未知の存在なわけだから、詳しいギミックもわかるわけないんだよなぁ」
こんな時に自意識過剰な天才科学者でもいてくれればいいのだが、そんなものが都合よく現れるわけもない。
「困ったなぁ……」
「そういうものよね、現実って。はー宮本武蔵とかそういうヒーローみたいな味方がいればいいのにねぇ」
「いませんよそんなん」
『ものすごい即答だね、剣くん』
「気に障ったなら謝るけど……」
「そんなことはないわよ。私もシンザンもね」
素直に謝りつつ、上を向く。俺だって男だ、昔はヒーローっていうものにたまに想いをはせていた時もある。
でも俺は現実でヒーローなんて見たことない。世の中で似たようなことを思っている人はいっぱいいそうだけど、俺がヒーローを信じることはないだろう。
『おい剣、顔が暗いぞどうした。この二人が今のことを気にするような性格だというのは知ってるだろうに。そのすぐに勝手に落ち込む癖我はやめた方がいい気がするぞ』
「ん、すまん……そんな凹んでたかな」
「けっこう暗かったのは違いないわね。ほんとに気にしてないから安心して」
一姫さんも気を使ってくれたのか俺の頭をポンポンと撫でる。
『相談くらいは我にもしろ。我が異質なのだとしてもここにいる我は我なのだし』
「ん、二人ともありがとう……」
少し気恥ずかしいが、素直に謝辞を述べる。
「どういたしまして。それじゃ今日はこの辺で切り上げましょうか」