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エヴォルダー  作者: 法相
管理局
13/41

一姫の実力

 ゼロの先導によりたどり着いた場所は港だった。

 そこにある一つの寂れた大きな貨物倉庫。


「ここか……」

「そうみたいね。ゼロくんお手柄よ」

『うム、モット褒めロ』


 褒められたのがよほど嬉しいのかゼロは尻尾をふっている。いや本当にお手柄だよ。

 ひとしきりゼロを褒めたところで『そこまでにしようか』とシンザンからの一声を受け、俺たちは倉庫に足を進めた。

 さて、バッタ型のエヴォルダー使いがどんな奴なのか……警官が言うには荒れてる感じと言っていたが……


「考えても仕方ないわよ。行きましょう。すでに向こうが合体してるかもだし、私たちも。シンザン、セットアップ」

『装着!』

「ゼロ、変身」

『承知』


 二人揃って合体し、俺たちは倉庫の扉を蹴破った。

 中に入れば見るからに堅気じゃない人間がまぁわらわらと……ほとんどの奴らが動揺しているようで幸いだけど。

 けれどその中で異色さを放っている人間が一人いた。

 荒んだ目のコートを着た男。この男だけが冷静で、その傍には証言のあったバッタ型のエヴォルダーがいた。


「管理局よ! 大人しくお縄につきなさい!」

「……管理局、か。いいな……お前らは。安定した身分を持っているようで」


 何言ってんだこいつ。

 いや確かに公僕は安定したイメージあるけど、実際はそうでもないことの方が多いだろうし。


「かたや俺は……はぁ、こんな社会のダニの傭兵みたいなもんだ。やってらんねえな……」

「雇主の前で言うか普通?」


 周りでは「先生ひどい!」とか「ショックで寝込んじまいます!」などと騒いでるけど、本人は特に気にしていないようでマイペースに相棒であるエヴォルダーに触れた。


「相棒、変身だ」

「させるかぁ!」


 こういうのは先手必勝、突撃をしかける。なにも素直に合体を待ってやる必要はない。


「……経験が浅い小僧が」


 だが俺の拳が届く刹那に合体が終わり、俺の拳は手のひらで受け止められていた。

 瞬間、男と共に身体が上へと飛んでいた。


「なに!?」

「剣くん!」

「まずは一人、だ」


 足場のない空中を男は蹴り、俺は地面へと叩きつけられた。


「次は、お前だ女」

「って、終わるかぁ! まだ一撃だぞクソが!」

「……タフだな。これが若さってやつか……」


 タフなのと若さは決してイコールではないと思うけど、すでに何度も一姫さんにボコされている後だ。

 ゼロの装甲のおかげでダメージだって最小限だ。痛いことにはかわらないけど、まだまだ全然動ける。


「剣くん、盛り上がってるところ悪いけど私にやらせてもらえない?」

「え?」


 やる気十分になっていたところに一姫さんから止められる。


「……女、俺と疾風を舐めてるのか? 女が俺を止められるとでも?」

「そっちこそ私を舐めてるのかしら。男なら挑戦くらい受け止めなさいよ」


 明らかにあの男を挑発している。

 ゴーグルの下の顔はまぁほくそ笑んでること……それだけの自信があるわけだ。


「ああ、それとも……女に負けるのが怖いのかしら?」


 その一言に、男の気配が変わった。


「そうよね、こんな堅気じゃない連中の中にいても「相手は女だったから本気出せなかった」とか「二対一だから負けた」とか言い訳いっぱいあるもんねぇ。自分より格下じゃないとお相手できない三流ならしょうがないわねぇ」


 ジェスチャーを交えて、煽る煽る……沸点が低いやつならこの時点でキレてそうだ。

 男も苛立ちを隠せないようで乱暴に足元を踏みつけ、コンクリを粉砕した。


「……俺が三流かどうか、確かめてみろ」

「そうこなくちゃ。私は都宮一姫、相棒はシンザン」

「八咫鐘志郎、相棒は疾風はやて」


 苛立ちを隠すことなく男も名乗り返す。

 ……すでに俺が間に入れる空気じゃないのは明らかだ。

 となると俺がやるべきは……


「剣くん、輩どもの制圧をよろしく。殺さない程度にね」

「わかりました。一姫さん、気をつけて」


 軽く拳を合わせ、俺たちは同時にそれぞれの仕事を開始した。


「いざ! いざ! 尋常に……勝負!」



 初動はまさに一瞬だった。

 鍛え抜かれた一姫の踏み込みと、八咫鐘の強化された飛び蹴りが真正面からぶつかり合う。


(この女……! 刀の峰で俺の蹴りを受け止めた!)


 結果は互角で、八咫鐘に衝撃が走る。

 だが八咫鐘は今までこの蹴りの一撃だけでほとんどの戦いに決着をつけていた。それを受け止めた以上、一姫は口だけではない。


「力は少しアンタが上か。シンザン」

『うん。悪いけど、早めに決着をつけさせてもらうよ、同族くん』


 普段の二人を知るものからすれば信じられないほどの冷徹な声。

 二本の刀が無造作に振るわれ、八咫鐘は後退させられる。


「疾風! やるぞ!」

『そうだね兄貴、この二人に出し惜しみなんてしてる場合じゃない!』


 脚部のバネが可動し、高く跳び上がり、そのまま反転して何もない場所を『蹴った』。

 その瞬間にバネが再び動き先ほどと同様、地面を蹴ったかのような勢いに加えさらなる反動によって『加速』した。

 その攻撃を紙一重で一姫はかわし、八咫鐘は再度跳ぶ。


「今の攻撃もかわすか……だがこれはどうだ!」


 言葉と共にその脚力を活かし、縦横無尽に飛び跳ねる。


『俺の能力で足場は空中にでも作り出せる! これで制空権は俺たちが奪った!』

「どこからでも加速し、攻撃を仕掛けることができる……当たれば最初の比じゃない」


 跳べば跳ぶほど速く、そして強い攻撃を出せる。

 そうやって最大限まで加速し、一姫の背後から飛び蹴りが繰り出された。



「甘いわよ」



 振り返り様の刀の剣先が八咫鐘の足に触れ、軌道が上へと『逸らされた』。


「『何!?』」


 冷静さを失い、足場を作ることもできずに八咫鐘と疾風は天井へ直撃し、突き抜けて屋根へとその身をさらされる。


「クソっ!? あの女……!」

『兄貴、大丈夫!?』


 疾風の声に「問題ありだな」と返す。一姫の戦力を甘くみすぎていた、などと言う気はなかったが、ここまでとも思っていなかった。

 そう考えているうちに羽音が聞こえ、視線を向ければ二刀を構えた一姫がクワガタの羽で飛んで佇んでいた。


「さっきの聞いた限りだと、空気を足場として固定することのできる能力っていうとこかしら。剣くんを妙に強く叩きつけれたカラクリはそれだったかぁ」

『でもカラクリがわかればそれまでだね。一姫ちゃんはあなた達の動きを見切れるから、もう勝ち目はないよ』

「まだ」


 だ、と言い切る前に風が吹き、直後に喉元に剣先が突きつけられていた。


「悪いけど、これ以上やるなら相応の傷を残させてもらうことになるわよ。例えば……」


 足を斬り落としたりとか、と呟く。

 本気だ、と八咫鐘は確信した。やると言ったらやる、その凄みを感じた。


「……完敗だ。すまねぇ相棒」

『いいよ。兄貴の命の方が大事だし……出直しだね』

「うんうん。ここでちゃんと認められるのはいいことよ。それじゃ合体を解除してもらおうかしら」


 ニコニコと微笑む一姫に対してため息を吐き、八咫鐘は合体を解除して拘束された。


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