事件の匂い
剣と一姫の特訓が行われているのと同時刻、街の廃工場にて事件が起こった。
麻薬密売の現場を取り押さえるために屈強な警官たちが扉を蹴破り、突入した時にそれは起こった。
「警察か……」
「先生、頼みますぜ! お前ら、先生が抑えてくださってるうちにずらかるぞ!」
どこかやさぐれたような男と、その雇い主である小太りの男。背後には他の商人や顧客がいてすぐに逃げ出そうとしている。
警官たちはすぐに追いかけようとするが、突如落下してきた物体によって阻まれる。
落ちてきたものは、金属の外装を被ったバッタだった。
「まさか、エヴォルダー!?」
隊長である男はエヴォルダーのことを名前だけは聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。
「相棒……いくぞ。変身」
『了解だよ、兄貴!』
男の言葉と共にバッタは分解されて男に装着されていく。
「! 全員撃て!」
部下たちに指示を下し、警官たちも発砲する。
連続した銃声が鳴り響き、弾丸は狂いなく男、八咫鐘志郎に向かって放たれる。
「……嘘だろ」
全員が持っている弾丸を撃ち尽くした。
総勢十数人はいる警官の拳銃を全てだ。いくらか外れているとしても個人という敵に対してはオーバーキルの火力だ。
しかし、それほどの銃弾を志郎は全くもって意に介していなかった。
むしろ彼はつまらなさそうにため息を吐く。全くのノーダメージ、信じられなかった。
「はぁ……お前ら、大したことないな。面倒だからとっとと終わらせるぞ」
バッタの脚を模した脚部パーツが可動し、それに合わせて志郎は飛び上がった。
一分後、現場はズタボロになり、動けなくなった警官たちが転がっていた。