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エヴォルダー  作者: 法相
管理局
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実戦演習

ノベルアップでも言いましたが、この小ネタだけはどうしてもいれたかったんです。

 午前十時、会議室に呼び出されて灰沢さんに案内してもらいつつ色んな書類を渡される。

 ちなみにゼロは眠い、ということで隅っこで寝ていた。


「君がここのことを口外しないということを保証してもらう書類だ。それと福利厚生や給料に関することもね。昨日は口頭での契約だったからね、改めて契約書としてかたちにさせてもらった。面倒だとは思うがご協力を」

「わかりました」


 書類に目を通して行き、わからないところはちょくちょく質問しつつ着実に一枚ずつ進めていく。

 そして最後の一枚、これに関しては思いの外面白いことが書いてあった。


『エヴォルダー・ゼロは新城剣に所有権があるものとする』


 この一文は俺にはともかくこの管理局という組織にとっては大いに問題があるものではないだろうか。

 なにせゼロと合体できる人間は俺だけだが、ゼロの存在そのものは管理局には意地でも手元に置いておきたいもののはずだ。それが所有権を簡単に俺に渡すと言うのはいささか疑問が残る。

 それについて聞くと灰沢さんは「当然だろう」と返した。

 いや何が当然なのかさっぱりなんだけど。


「エヴォルダーは生きているんだ。パートナーとして認めた人間の元には素直にいてくれるかもしれないがそれ以外の人物には必ずしも好意的とは限らない。それこそ脱走でもされたらコトだ」

「ああ、つまり相棒の手元に置いて監視しやすいようにしたいんですね」

「悪いがその通りだ。君たちが仲介して研究させてもらえるようお願いしたい」

「なるほど。ですがこの所有権て言葉はあんまり好かんです」

「申し訳ないけど、そこは形式上に仕方ないことだから飲み込んでくれ」


 本当に申し訳なさそうに謝ってくれるので、いたたまれない気持ちになってしまう。

 でもこうやって俺みたいなガキにちゃんと対応してくれるあたり、この人は大人なんだなと一人納得する。

 こうして俺は最後の書類にサインを入れ、作業は終了した。


「ご苦労様。今日はこれで新城くんの主だったことは終わりだね」

「え? これだけですか?」

「ああ。まず君にはここに慣れてもらうことが第一だからね。今日はこれからどうするんだい?」

「正直これだけで終わると思ってなかったので……一姫さんに今から声かけて訓練でもします」

「お、もう彼女とは馴染めたんだね。よかった」

「ですね。向こうの押しが強いのもあったと思いますけど……」


 俺もあれくらい積極的に……は無理だな。あんな明るい俺は気持ち悪い。

 とりあえず一姫さんにショートメールを送ると、十数秒ほどで返事がきた。いや早すぎるだろ。

 内容はオーケーということと、会議室まで迎えにくるから待っていてくれとのことだった。


「……彼女返信早いんだね」

「俺も初連絡なんで正直ビビってます。それじゃゼロも起こさないと……」

『うぅ……ゼロフェニックスカッコいい……我モ飛びたイ……』


 ゼロフェニックスってなんだ、相棒よ。

 それから数分後に一姫さんが来て、俺は灰沢さんにお礼を述べてゼロと共に会議室を出て行った。



「すいませんね、迎え来てもらって」

「いいのよ。ところでゼロくん眠そうだけど大丈夫なの?」

「うん、今さっきまで寝てたから……よくわからん寝言言ってたけど」

『我なんか言っテタ?』


 本人に記憶がないのなら深くは言うまいが、飛びたい願望を持っているようだと告げておく。

 それを聞くとシンザンの方がゼロをからかうように『飛びたいんだ〜?』とか言ってる。ゼロの方も素直に『そウだな』と答えているので二人の仲は良好なようだ。

 うん、仲良きことはいいことだ。


「飛びたい、かぁ。シンザンと合体したら私も少しは飛べるけどねぇ」

「飛べるんですか!?」

「どっちかて言うと跳ねる方の飛ぶだけどね。跳躍して背中の羽でコントロールする感じ」


 へぇ、と素直に感心する。

 飛べるとか跳べるでも、空中で自在に動けるのは十分すぎるアドバンテージだろう。

 と、そうこう話をしているうちに広い演習場のような場所に着いた。

 雑に広いから暴れても大した騒ぎにはならないだろう。


「それじゃあ始めましょうか。シンザン、セットアップ!」

『装着!』

「ゼロ、変身!」

『承知』


 すぐさま一姫さんとシンザンは合体し準備を終え、俺たちもすぐに合体する。

 そして数瞬だけ静寂が流れ、俺の身体は吹っ飛ばされた。

 盛大な勢いで後方へ飛ばされるが、地面を転んで威力を逃して起き上がる。


「いきなりですか!?」

「当然。これ、要は実戦演習なんだから本番と似たような空気にしなくちゃね」


 そういう彼女の声は、弾んでいた。

 そう言われればそうですね、としかこちらも言えないな。刀使ってない時点で本気ではないんだろうし。


「ゼロ、本気で行くぞ! それくらい力量は向こうが上だ!」

『わかってイル。だがスグにガス欠にナラヌよウに立ち回レ!』


 ゼロの声に「了解!」と答え真正面から殴りにいく。

 だが俺の拳は全て寸前で回避され、一向に当たる気配はない。ならばとフェイントを交えた拳も読まれていたのか簡単にいなされてしまった。

 力量、実戦経験の差、両方が如実に現れている。

 だったらまだ使ったことない武装でいくか。背中についているブースター、未知数だが試すにはいい機会だ。

 背後に下がり、バク転。すぐに起き上がり、点火させた。


 瞬間、身体に猛烈なGがかかった。


「にゃにぃいいいいい!?」


 猛烈な速さで身体は前方に進んでいくが完全に無防備で……


「隙だらけよぉ!」


 見事な蹴りを腹にくらい、そのまま何回か転がった後に合体が強制的に解除されて金網に直撃した。

 こうして初の実戦練習は一方的なまでにボコボコにされる結果とあいなった。


「……これ使い所考えないとダメだな」

『かなリ身体痛イ。オイヘッポコ剣もっと上手クやれ』

「へっぽこ言うな!? いや実際にへっぽこだったか……」

「ごめん剣くん! ゼロくん! あまりにも打ち込みやすかったからつい!」

『戦闘ごとになるとすぐに一姫ちゃんは熱くなるんだから……』


 軽い口喧嘩する俺たちにすぐに追いついて謝罪する一姫さんと、そんな彼女にちょっとだけ呆れてるようなシンザン。


「だ、大丈夫ですよ。とりあえず俺は背中のブースターに頼る前にもっと鍛えます……」

『全部かわされていたシナ。地力ガ全ク違う』


 現状では全くもって勝てる気はしない。というかこんな人と渡り合ってたあのカラスの姉ちゃん、やっぱりすごい実力者だったんだな。


「ああ、あの娘はやばいわね。あれ、私より間違いなく強いもん」

「え、それ認めちゃうんですか?」

「相手の実力を知って、自分の実力も知ってれば勝算は上がるものよ。現状だと逆立ちしてようやく勝ちの目見えるくらいかしら」


 ケラケラとおかしそうに笑いながら彼女は言うけど。


『……逞しイナ、この女』

『一姫ちゃんはあんまり考えてないだけだよ』


 そういうシンザンは少しだけ、一姫さんのお姉さんのように見えた。

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