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「感情」から書く脚本術ノート⑤CHAPTER4「キャラクター」

大事な部分ですのでちょっと長くなりますがご勘弁を。


誰もが使うキャラクター作成法が「フランケンシュタイン法」。性別、年齢、身長、性格、などの特徴を繋ぎ合わせてキャラクターを作る。ただし、これだけでは意外と作中でキャラクターは生き生きと動いてくれない。キャラクターに関して重要なのは、作者がキャラクターについてよく知っていることではない。キャラクターと読者の心の絆を作ることだ。


キャラクター造型のためには以下の5つの質問を考えると良い

1⃣主役について

 主役は、物語で最も学び、最も変化する人にするのが基本。転じて言えば、物語の中で最も大変な目に合う人、でもある。

 主役は、以下の4タイプに分類される

(1)英雄タイプ

 読者に対して優位であり、読者から尊敬される。自分の行動に自信を持っており、葛藤は少ない。

 例としては、スパイダーマン、シャーロック・ホームズ

(2)普通の人タイプ

 読者に対して対等であり、読者から共感される。障害や迷いといったものを乗り越えるために苦悩することが多い。特徴がなくなり、魅力がなくなってしまう恐れもあるので、他のタイプの主人公よりもユニークで複雑な人格にしたほうが良い。

 例としては、『E.T.』のエリオット

(3)負け犬タイプ

 読者に対して下位であり、読者から同情され、応援される。基本的に運が悪い。

 例としては、ロッキー

(4)罪深き者タイプ

 読者と正反対の位置に立ち、物事をわざと悪い方向に運んでいく。一見すると非道徳であったり、人間の負の部分が強く出ていたりする。読者が好きになれるよう、それを越えた魅力を備えていることが大切。

 例としては、『ゴッド・ファーザー』のコルレオーネ

なお、全ての主役に大切な特徴は次の二つ

・価値観…もっとも個性が表れる部分

・欠点…親しみを生み、読者が感情移入しやすくなる


2⃣ 欲求・目標

 それぞれのキャラクターがどのような欲求や目標を持っているかは物語のエンジンとなる。逆に言えば、キャラクターが持っているはずの欲求や目標とずれた行動をすると、如何にもご都合主義の作り話っぽくなってしまう。欲求・目標に沿った行動をさせていれば、物語は自然に展開していってくれる。


3⃣ 動機・必要性

 行動への理解を持たせ、読者の腑に落ちるようにする。動機・必要性は感情移入し、応援する価値のあるものにすることが大切。なお、欲求・目標と動機・必要性は違うほうが面白い脚本にしやすい。例としてあげると、『羊たちの沈黙』のクラリスは、バッファロー・ビル事件を解決したいという欲求・目標を持っているが、本当の動機・必要性は過去のトラウマを克服して変わろうとすることにある。この二つの違いに気づかせるストーリーはキャラクターの葛藤や成長を描きやすくさせ、面白くなりやすい。


4⃣ 失敗したらどうなるか(代償)

 失敗してもノーリスクの状態よりも、失敗したら代償を払わなくてはいけない状況のほうが読者に緊張感を与えることができ、物語にのめり込みやすくさせることが可能。

 なお、代償は「世界が悪の手に落ちる」や「戦争が勃発する」のような大きなものでも良いが、個人的な人間関係の代償も一緒に設定しておくと、読者は感情移入しやすい。『ディープインパクト』では、主人公たちの目標は「地球を救うこと」であるが、それぞれの家族や大事な人との絆をピックアップすることで、「大事な人を守りたい」という身近で誰もが持っている目標が設定され、感情移入がしやすくなっている。

 リスクは高ければ高いほど良い。「ロープギリギリにしがみついたキャラクターを作れ」。


5⃣どのように変わるのか(アーク)

 物語である以上、主要キャラクターは話の前後で変わっていなくてはいけない。オーソドックスな変化としては、「内面的欲求の達成」、「自虐的欠点の克服」、「自分の問題点への悟り」、「能力があるのに発揮できない状況から発揮できる状況へ」、「人生の重大なことに気づく」などが挙げられる。

 ただし、変化については、急ぎすぎず、大げさすぎず、嘘くさくない、を心掛けないといけない。ここが不自然な脚本は三文芝居とみなされる。


キャラクターと読者の絆をつなぐ方法

 キャラクターの変化(アーク)が必要なのは前述のとおりだが、そのためにはそのキャラクターがどんなキャラクターかを読者に知ってもらう必要がある。そして重要なのは、この見せ方である。重要なのは、「語るな、見せろ」という点だ。キャラクターが「自分はこういう人間だ」と自己紹介するのは不自然になる。基本は、作中のシーンで読者が気づけるような仕掛けを施していく。

 キャラクターのプロフィールができたら、それぞれの特徴の隣にどのようなシーンでそれを読者に気づいてもらうか、を書いておくと良い。この手法は「2行の対応表」と呼ばれる。1行目にキャラクターについて作者が知っていることを、2行目に読者への見せ方を書いておくのだ。

 キャラクターの人格や個性をページ上で見せる6つの手法を紹介しておく。


1⃣ 人物紹介と名前

 最もよく使われるのが、紹介形式。誰かから語り部へとその人物を紹介させるのだ。名前が与える印象も忘れてはいけない。名前はそのキャラクターの特徴を表した名前をつけよう。

2⃣ 対比

 対比は読者が一発で分かる強力な手法である。以下の3つの手法に分類できる。

①内面的対比

 葛藤とも言う。キャラクターがAかBかで迷った末にどちらを取るかというのは、そのキャラクターの特徴がよく表れる。

②他者との対比

 他者に囲まれた状態で一人だけ違う行動を取れば、それは読者への強力な個性のアピールになる。

3⃣ 語り部以外のキャラクター

 他者の噂話でそのキャラクターの情報を読者に仕入れさせることができる。キャラクターの登場前から読者に興味を抱かせることが可能になり、その人物の登場をワクワクして待たせることが可能。『羊たちの沈黙』では、オープニングでクラリスに向かってクロフォードがレクター博士のその異常性と危険性を伝えることで、登場前から自然とレクター博士に強い関心を抱くように仕組まれている。

 また、他者にどう思われているかもそのキャラクターの個性を伝える。周囲の人物が慎重になっていれば気難しい人物だと分かるだろう。

4⃣ 台詞

 重要なので、後のチャプターで詳しく説明する。

5⃣ 行動、反応、決断

 基本的だが、特にプレッシャーを感じたり追い込まれたりした時にその人物の本当の姿が出るというのは知っておいたほうが良い。究極の選択を突き付けられたキャラクターは印象に残りやすいし、そこで意外な動きを見せれば普段の姿と本当の姿の違いを意識させられる。

6⃣ 身振り、象徴、小道具

 癖などの身振り、趣味や興味といった嗜好、その人物を代表するアイテム、もキャラクターの個性を印象付けるのに役立つ。


 次にキャラクターと読者の絆を繋ぐ他の手法だが、一言でいえば読者に「コイツはこれからどうなるんだろう」と思わせれば良い。

 一つは、読者が認識できる感情、共感と同情を与えることである。共感と同情は混同されがちだが、違うものだと認識しておくこと。共感は同等の者に対して抱く感情だが、同情は自分より劣る者にでも抱くことができる。

 次に、魅了する、ということ。独創的である、意外性がある、欠点がある、バックスートーリーがある、過去の亡霊(それによって現在の行動を左右されてしまうもの)に縛られている、などがある。なお、欠点は「何を怖がっているか」を考えると良い。インディ・ジョーンズは蛇が怖いという欠点を抱えていることで、脚本に面白みを加えている。

 最後に、神秘性を見せる方法がある。キャラクターに謎めいた部分があれば、読者はそのキャラクターが気になる。なんかよくわからんが凄い奴っぽいぞ、何か大事な秘密を抱えているぞ、といったキャラクターは読者の心理に強く残り、惹きつける。

 なお、読者の心を掴むのは、ゆっくりではいけない。特に主人公は、即座に読者と心の絆を築かなければいけない。その手法を以下に並べる。

1⃣ 犠牲

・不当不正義、不公平の対象におく

・予期せぬ不運に見舞われる

・身体的、心理的不利な状況におかれる、健康や経済に問題を抱えている

・過去に深い傷を抱えている

・弱みを見せる

・裏切りにあう

・本当のことを知っているのに、周囲に信じてもらえない

・見捨てられる

・除け者にされる、拒絶される

・孤独で周囲から関心をもたれない

・失敗し、後悔する

・怪我をする

・危機に瀕する

2⃣ 人間味

・困っている人を助ける

・子どもが好き、子どもに好かれる

・動物が好き、動物に好かれる

・心境の変化が生まれる、誰かを許すことができる

・命がけである、自己犠牲を厭わない

・倫理的、道徳であり、頼れる

・誰かを強く愛している

・みんなに好かれている

・独りでいるときに本当の人間味あふれる姿を見せる

・優しい振る舞いを見せる

3⃣ 資質

・カリスマがある、リーダーシップがある

・憧れられる職業についている

・勇気がある

・情熱がある

・高い能力や専門性がある

・賢い、頭が回る

・ユーモアがある

・純真である

・高い身体能力を持つ

・粘り強さがある

・変わっている


 最後に、映画の実例として『恋愛小説家』の主人公、メルヴィン・ユドールを紹介しておく。ユドールは口は悪いし、人間嫌いだし、周囲から嫌われているし、オープニングでは犬をダストシューターに投げ入れてしまうといった行動までとる。それでも、ユドールが氏がなぜ観客を惹きつけるのか、そこに隠された手法の一部をここで紹介する。

・鍵をかけたか5回もチェックし、必ず新品の石鹸で手を洗う

 →不安症、潔癖症(心理的障害)を持つ

・62冊もの小説を出版する売れっ子の小説家である

 →高い能力と専門性、憧れの職業

・脅されてパニックを起こし犬を預かってしまう

 →弱さの表れ

・外出中足元のタイルの割れ目が踏めない

 →心理的障害、弱さが日常生活にまで影響している

・預かった犬に「うちに入るのはお前が始めてだ」と打ち明ける

 →孤独

・なぜか犬に好かれるし、数日預かったら意外なほどその犬を好きになる

 →動物好き、動物に好かれる

・店を休んだキャロルの元へ行き、息子のために名医を手配する

 →人助け

・強盗に襲われたサイモンへ中華スープを差し入れる

 →親切

・キャロルへの「まともな人間になりたいと思ったんだ」という打ち明け

 →心理的変化、変わりたいという願望の表れ

・ボルチモアでキャロルを怒らせ、口もきいてもらえなくなる

 →失敗、後悔

・サイモンに後押しされ、キャロルへ告白に行く

 →友人の助け、周囲から好かれている

・キャロルの素晴らしさを知っている自分が誇らしいという告白、キス

 →勇気と変化の表れ

・自宅の鍵をかけ忘れていた、タイルの割れ目が踏めるようになった

 →望んでいた変化への微かだがはっきりとした象徴


 以上のように、ユドールに惹きつけられる手法がわずか2時間強の中でふんだんに、かつ自然に使われていることが分かる。このようにして、ユドールは嫌われ者ながら見る者に愛される魅力的なキャラクターになったのである。


 

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