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知念実希人『魔弾の射手』読了


 久しぶりの更新になります。前回の森博嗣『すべてがFになる』から連続のミステリー作品です。


 普段あまりミステリーを読まない私がなぜこういったチョイスになったかというと、私自身が次に投稿しようと思っている作品がエンタメミステリーだからです。


 しかし、エンタメといってもあくまでミステリーだろうというイメージからこの二作はずいぶんと外れていましたね。決して良い意味でも悪い意味でもなく。何が、というと、キャラクターが非常に「現代的」です。そんなに最新の作品ではないのですが、昨今のラノベの原点となるようなキャラクターの造型があるように思います。特にこの『魔弾の射手』においてはキャラクター同士のやり取りに関してもそれっぽさがぷんぷんとしています。




 それでは本作に関しての感想ですが、まずはミステリーの本旨であるトリックについて。この作品は大まかに二段階構成になっていると考えた方が良いでしょうね。犯人も二人いますし、トリックも二つに関連性がなく独立しています。物語全体に関わる『魔弾の射手』事件と、物語の前半の挿話である『四階病棟の幽霊』事件とです。


 『四階病棟の幽霊』事件は簡単でした。廃病院の作りといい、登場人物の行動といい、全体がトリックのために作られたような感じがしていたので、確信をもって読むことができました。これは他の読者も分かったという方が多いのではないでしょうか。この部分をどう評価するかですが、個人的には、ここは作者が意図的に分かりやすく作ったのではないか、と推測しています。不作為的な(実際には作為的な)読者優位、つまり一人称の視点からは分からないけれど、読者は分かっている、という状況を作り出すことによって、読者を引き込むという狙いの下に作られているように思います。ですので、簡単ですがこれはこれでいいいんじゃないかなーと思います。物語全体としてどのように作用しているかは後半に述べますが。


 『魔弾の射手』事件はトリックの肝である医学の知識がないと解けませんね。まあ、それはいいでしょう。医療ミステリーを謳っているのですから、医学がトリックに関わってくるほうが自然と言えば自然なのですから。しかし、トリックが現実的かというとこれはちょっと無理があるような気がします。あんまり派手なネタバレにならない程度に書きますが、まず一つとして、被害者が揃って死亡直前に同じ人物に電話をかけていたという情報を隠す形で物語を展開したのは無理があるのではないでしょうか。そのことを伝えると犯人が分かってしまうからという意図は分かるのですが、同じ場所からの連続転落事件があれば死者の携帯電話の通信記録は調査するでしょうから、そのことが触れられていないのは不自然だと思います。また、トリックに確実性がありません。「魔弾」の正体は良かったと思いますが、作中で犯人が三度目の犯行時に確実に「魔弾」が突き刺さると確信する情報を得た描写がありません。作中では描写されていますが、その時犯人はその場にいなかったですからね。そして何より、この「魔弾」では、確実に転落事故を起こすことはできません。引き戸を引いた瞬間に「魔弾」が炸裂するので後方に倒れて時計塔から転落する、というのはいいでしょう。しかし、今回のトリックでは犯人は犠牲者の状況を知ることできないので、どのタイミングで「魔弾」を炸裂させれば後方に倒れてくれるのか推し量ることは困難です。少しでもタイミングがずれればその場に崩れ落ちたり前方に突っ伏す形になったりで不発に終わりますからね。扉の開く音をタイミングにしたとしてもさすがにちょっと無理があるような。


 あと、本筋のトリックとは関係ないですが、犯人の動機に関わる部分の解明がちょっと雑過ぎますかね。知り合いの知り合いに尋ねていったらわかりましたって、そんな重大なことが知り合いの知り合いにまで流れているって状態がすでにおかしい。まあ、ここはさっきも言ったように本筋とは関係がないのであんまり追及しても仕方ないんですけれど。


 次に、トリックに関連しない小説としての評価をいくつか。


 まず一つとして、「展開ありき」すぎると感じます。せっかくキャラクターを個性を表に出して行動させているのに、展開につられて動きすぎるために読んでいるほうは「ええっ」と驚くような不可解な動きを見せることが多いです。ぱっと覚えているところで言えば、


①幽霊に怯えている小鳥遊が鷹央に言われてあんまりあっさりと「この人が信用しろと言っているんだ。それなら、……僕はそうするべきだ!」と幽霊に立ち向かう決意をする。


 まあ、このあたりはシリーズもので前日譚にあたる部分があるらしいので、そこを読んでいない私だから感じたのかもしれませんが。


②由梨が小鳥遊をあんまりにもあっさりと信用しすぎ


 母親と叔父が殺されるという状況なのに、由梨はいともたやすく小鳥遊を信用します。読者からすれば狂言回しの小鳥遊が悪行を働いているというのはまずないと判るので不思議に感じないかもしれませんが、由梨の視点からすれば犯人が誰か分からない状況である以上、疑心暗鬼になっていて、小鳥遊が信用を勝ち取るのにもっと苦労する展開のほうが自然です。最終的に異性としての情が湧くところまでいくのであればなおさらのこと、小鳥遊が由梨からの信頼を勝ち取る部分をもっと深く深く描写したほうが良いのかな、と思います。


③由梨が実の父の甲斐原を信用するのが突然すぎる


 ずっと自分たちを見捨てたと嫌い続けていた実の父を、犯人をぶん殴ってくれたから、というだけであっさりと親子としての情を取り戻すのはどうなのかなー、と思います。エピローグで一緒に暮らすまでにはいかないというのは自然なところだと思うので、犯人が判明したところでも抱き合うところまでいかないほうが自然だったように思います。②と合わせてですが、どうも由梨が展開に流されるだけの「ご都合キャラ」になってしまっているように感じました。


 こういった部分のせいで全体的に読者の心理が登場人物の心理についていけずに戸惑ってしまう部分が多いように思いました。


 次に、全体の構成についてですが、個人的にはもう少し前半の『四階病棟の幽霊』事件と『魔弾の射手』事件を絡めてほしかったなあ、と思います。前半を解決したことによって後半の解決に役立った部分というと、監視カメラを入手できたという部分だけです。


 あと、全体としても「時計塔」「廃病院」「過去の連続投身自殺」などといった作中で出てきた要素を最後のトリックに絡ませてほしかったなと思いますね。先ほどの『四階病棟の幽霊』事件といい、作中に出てきた小道具やサブストーリーをもっと作品全体にからませていくことが出来たんではないかな、と感じます。


 最後に、登場人物たちの個性が強いんだから、それをもっとトリックの解明に絡ませて活躍させられたんじゃないかな、とも思います。


 良かった点としては、きちんと勧善懲悪を描いて、犯人が最後に主人公サイドの掌で転がってくれたのでスッキリしたというところ、お約束のような軽いテンポがげんなりしない程度に挟まって読みやすくなっているなっているところ、とかですかね。こうやってしか書かないとすごい辛口評価になってしまったようで申し訳ないですが、決して駄作だとは言っていませんからね。




 感想は以上です。個人的にはミステリーを読み込んでる読者から見てこの作品がどういう位置づけになっているのかな、というのが気になりますね。多分あんまり本を読み込んでいないライト層を向けて書いた作品でしょうから。いや、勘違いしないでくださいね「ライト層向き」って全然悪いことじゃないんですよ。今の時代「ライトノベル」が主流なように「ライト層向き」ってめちゃくちゃ売れるための条件なんですから。ただ、「ライト層も満足させるけど、読み込んでる人からしてもすごい」ってのであればより一層すごいよなあ、ってだけです。


 毎度偉そうに失礼しました。 チャンチャン

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