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9・この世界にはキーボードが存在しません

 私はベアトリスちゃんを始め、この世界の人間の言葉は大体わかる。

 文字に関してはよく聞く言葉の組み合わせなら『なんとなくわかる』程度だけれど。

 例えるなら英語は苦手だけれどテストは赤点をギリギリ回避してきた人間が英語圏で暮らす様なものだと思ってくれていい。

 ただ転生後の私は子猫なのでそのレベルでも今まで全く困ることはなかった。

 ベアトリスちゃんを始め屋敷の人間は猫相手に複雑な話題を振ったりしないし、何よりこちらの返事が鳴き声での意思表示で済むのが楽だ。

 ヒアリングに関しては毎日ベアトリスちゃんについてまわって会話を聞いている内にメキメキと能力が上がっていった。

 今なら字幕と吹き替えなしの洋画を余裕で楽しめる域に達しているといってもいい。

 ただ、文字を書くことに関しては……。


「あっ、駄目よベロア。本で爪とぎをしては!」


 違うんです。爪とぎじゃなくて、爪で字を書けるか試していたんです。

 でも確かに本に書かれている文字を爪でなぞっている姿は悪戯をしているように見えるかもしれない。

 人語を話せない私が、ベアトリスちゃんのお母さんに我が娘の現状を伝える為に選んだ手段。

 それは手紙を書いて彼女によんでもらう事。 

 思いついた時はこれしかないとなったのだが、実際行動に移そうとするとこれが難しい。

 まず猫の手、いや前脚ではペンが持てない。

 ベアトリスちゃんが勉強中トイレに行った隙にダメ元で試してみたことはある。

 結果ペンを支えに後ろ脚だけで立とうとした時点ですっ転んでインク壺に体当たりしてしまい机の上と自分が真っ黒になった。


「インクが耳の中や目に入ったらどうするの!」と私を叱って以来、ベアトリスちゃんは使う時以外はインク壺を必ずしまう様になった。


 これは完全な失策である。インクが入手できなければ文字を書くことができない。

 しかし不幸中の幸いで、その時の騒動に紛れて入手した紙を一枚ベッドの下に隠してある。 

 あとはこれに文字を書くことが出来ればいい。しかしインクがない。

 いや待てよ、昔、紙を文字の形に凹ませているお洒落な名刺を貰ったことが有る。あれにはインクが使われてなかった。

 ……爪で、紙を何回も深く引っ掻くことで似たような感じにならないだろうか。

 そう思いついた私は今日、ベアトリスちゃんが部屋を空けている時にそれをこっそり実践しようとしたのだが。

 子猫の細く柔らかい爪では期待したような結果にならず、違う紙で試そうと思いベッドに置いてあった読みかけの本を引っ掻いていたのだ。

 結果は変わらなかったが。


「もう、最近すっかり悪戯好きになったわね」


 私を抱き上げてベアトリスちゃんが言う。確かにインクを零したり本を引っ掻かいているのがバレたり最近の私はかなりの駄目猫だ。

 そもそもベアトリスちゃんの本に爪で文字が書けたとして、お母さんの元にどうやって持っていくのだ。

 うーん、かなり煮詰まっているのかもしれない。もしくは考えが足りなかったのか。


「にゅうう……」


 少し気分が落ち込んでしまった私は情けない声を上げる。

 字が、字が書けるようになりたい。もしくは人間の言葉が話せるようになりたい。

 それが難しいなら、私の言葉がわかる人間に会いたい。ベアトリスちゃんの味方になってくれそうな人がいい。

 そんな都合のいい話はないか。

 私の頭を撫でながらベアトリスちゃんは「ひとりぼっちだとやっぱり退屈なのかしら」と呟いた。

 


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