7・貴族とは孤独なものなのですか?
私を庇ってベアトリスちゃんが父親に顔を蹴られた後。
加害者であるマクシミリアンは娘に暴力を振るってしまったことに慌てたのか使用人を呼びつけるとすぐに部屋から出て行った。
代わりに呼ばれたメイドたちは大慌てでベアトリスちゃんの怪我の治療をしてくれた。
数日間は少し腫れるかもしれないとのことだった。
その日からベアトリスちゃんはピアノを弾くことを止めてしまった。
顔の怪我が痛いのかなと思ったけれど、夜以外はベッドで休むこともなく身だしなみをちゃんとして椅子に座っていた。
偶に本を読んでいたりしていたけれど、読書がしたいから部屋に居るというわけでもないようだった。
ベアトリスちゃんを放っておけない私は部屋でゴロゴロしつつ定期的に彼女の足にじゃれついたり抱き上げて貰って膝で寝たりしていた。
「貴女がいると、退屈がすぐに消えてしまうわね」
そう私の頭を撫でて笑うベアトリスちゃんは可愛かったけれど手当をされた頬が痛々しかった。
三日目の夜、ベッドで寝ていた私は真夜中に目を覚ました。
猫なので眠っていても数時間おきに目は覚めるのだが、今回は原因があった。
一緒に寝ていたベアトリスちゃんが漏らす嗚咽が聞こえたのだ。
声をできるだけ抑えようとしているみたいだけれど同じベッドでしかも私は耳のいい猫だからすぐに気づいてしまった。
すぐに身を起こして慰めようとしたが、夜中にこっそり泣くなんて猫とはいえ誰にも知られたくないことなのかもしれない。
そう思った私は寝た振りをして様子を見ることにした。
「にぇっ?!」
しかしそう思った所、強い力で体を引き寄せられる。犯人は判っているベアトリスちゃんだ。
「……ベロア、私のベロア。貴女だけだね、いつも一緒にいてくれるのは……」
そう私の名前を呟きながら彼女は私の後頭部に顔を押し付ける。
いつもの彼女らしからぬ乱暴さだが私は抵抗しなかった。
「ベロア、私、ずっと待っていたの。お父様や、お母様が……一度でもお見舞いに来てくれないかって……」
だけどやっぱり誰もこなかった。
そう血を吐くような声で言うとベアトリスちゃんは私の頭を涙で濡らした。
貴族には貴族の暮らしがある。毎日一緒の食卓でご飯を食べたりなんてしないのかもしれない。
でもマクシミリアンが言っていた通り、同じ屋敷に親子で暮らしているのに。
どうしてベアトリスちゃんの怪我を誰も心配してくれないのだろう。
私は彼女が泣き疲れて寝付いても眠ることが出来なかった。