6・守るつもりが守られてしまいました
大事なご主人様であるベアトリスちゃんを理不尽にいじめる毒親マクシミリアン。
こいつの靴の上で私は盛大に放尿した。
非力な子猫じゃなければ体によじのぼって顔を思いっきり引っ掻いてやる所だった。
「あっ……」
「な?!」
私の行動に気づいたらしいベアトリスちゃんが小さく声を上げる。
少し遅れてからマクシミリアンも自分が何をされたか気づいたようだ。
無様に大声を出しながら慌てていた。それを愉快に思えたのは一瞬だった。
「……この、馬鹿猫!!」
「みゅん!」
思いっきり靴から振り落とされて私は床に落っこちる。猫だというのに情けない。
マクシミリアンは怒りで顔を真っ赤にして私を睨みつけていた。
先程までの気取った氷みたいな態度が嘘のようだ。
自分のことに関してはそこまで感情的になれるんですねー。ガキか。
「私の靴を汚すとは、この畜生が……死ね!!」
あ、やべ。
私の前に男の爪先が迫る。成人男性の全体重で蹴られたら子猫の体なんてひとたまりもない。
死んだら絶対祟ってやる。七代祟るなんて言わない。七代分お前に集中して祟ってやる。私は執念深いんだ。
そう念じながら私は死を覚悟した。だけどそれは訪れなかった。
けれど、代わりに。
「……っ、」
「ベアトリス?!」
マクシミリアンと私の間に割って入ったベアトリスちゃんの顔が蹴られる。
私よりは当然大きいが華奢な少女の体は成人男の力に耐えきれず、軽く吹っ飛んだ。
「んなぁ!みゅおん!!」
「っ、よかった、元気そうね……」
「にゅあん!みゅあん……」
「全くあなたは、お転婆なんだから……」
でも、優しい子。そう私を抱きしめてベアトリスちゃんは笑う。
少女の柔らかな頬は痛々しく腫れて、そのピンク色の唇の端からは血が零れている。
ごめんなさい、ごめんなさいベアトリスちゃん。
私のせいで。
私は彼女に撫でられながらいつまでもなき続けた。