4・ベアトリスちゃんはピアノを弾き続けます
ベアトリスちゃんの弾くピアノの音が聴こえる。
最近彼女は家にいる時はピアノを弾いている時が多い。
それには理由がある。
先日ベアトリスちゃんのお母さん付きのメイドが来て、頼みごとをしてきたのだ。
ベアトリスちゃんのお母さんは今はすっかりベッドから起き上がれなくなっている。
唯一の楽しみは遠くから聞こえる娘のピアノの音色だけ。
だから彼女を慰める為にもっと頻繁に弾いて欲しいと。
お母さん大好きなベアトリスちゃんは当然快諾した。
それから彼女は毎日、五時間ぐらいピアノの前に座っている。
ずっと連続で弾き続けている訳ではないけれど、ベアトリスちゃんはピアノ以外にも習い事を沢山しているから大変そうだ。
そのせいで私と遊んでくれる時間も少なくなった。
けれどメイドにお願いをされた後ベアトリスちゃんはとても喜んでいたからクレームは言えない。
『ねえ、ベロア私嬉しいの。私にもお母様を喜ばせることが出来るなんて!』
いい子だ。こんな天使みたいな女の子が数年後は悪役令嬢になるなんて全く想像できない。
ただ、毎日五時間はちょっとやり過ぎじゃないかなと思う。
私が転生前に住んでいた土地でこれをやったら絶対隣近所から苦情が来ると思う。
そもそも最初は一、二時間程度だった演奏時間がここまで延びたのは理由がある。
最初にピアノを弾いて欲しいと頼んできたメイドが、その後もっと演奏時間を長くして欲しいと注文をつけてきたのだ。
ベアトリスちゃんのお母さんからのお願いだと言って。
だから現在この屋敷は、陽が落ちるまでは大抵ピアノの音色が響いている。
でもベアトリスちゃんのお母さんは、娘が自分の為に長時間ピアノを弾き続けるのを喜ぶような人だっけ?
そんなことを思いながら私はベアトリスちゃんのベッドでうとうとと微睡んだ。