2・悲しみの向こうへとたどり着かせません
この世界が、クソゲー……いや乙女ゲーで有名な「イケメン略奪ファンタジー☆」と同じ世界だと分かったのはベアトリスちゃんに拾われてから三日後のことだった。
屋敷に遊びに来たベアトリスちゃんの幼馴染の男の子の顔を見て「あっ、前世で寝取ったことある!!」と気づいたのだ。
イケメン略奪ファンタジー、通称イケFとはタイトルに書かれている通り、既にいい雰囲気になっている男女からヒロインがイケメンを略奪する乙女ゲーだ。
男性向けエロゲを作っているメーカーが女性向け全年齢に進出しようとして大ゴケした怪作である。
性的な要素はそこまでないがジャンルとしては精神的寝取りゲーになる。
更に複数同時攻略可能な為ヒロインがプレイヤーから極悪ビッチ呼ばわり不可避、また人物紹介では清楚でやや天然な善人扱いというヒロイン設定と外道な行動の大幅な齟齬。
そして寝取り目的でプレイした者さえドン引きさせたのは、ヒロインにパートナーを奪われた女性たちの末路だ。
よくて旅に出る、もしくはシスターになる。悪いと死ぬ。もっと悪いと売られる。
そして今私の飼い主になっているベアトリスちゃんはヒロインの義理の姉になる。
彼女が十七歳の頃に父親が新しい妹だといって災厄ビッチを連れてくるので出会うのは数年先だ。
ゲーム内に出てくる彼女は性格のきついお嬢様でヒロインに対しても非常に風当たりが強い。
母親が病死した後、家庭内唯一の女性としてちやほやされてきたせいと人物紹介には書いてあった。
なのでプレイヤーからの評判もかなり別れるキャラクターだ。
ヒロインに対し攻撃的なので悲惨な末路を辿ってもそこまで後味が悪くないという意見。
だけど突然妹になった知らない女が婚約者や自分の父親や兄に媚びまくって姫化したら気に入らなくて当然だという意見。
悲惨な末路がスチルと専用BGMつきで複数あるから実際のヒロインは彼女ではという意見。
そう、ベアトリスちゃんには本当に悲惨な終わりしかない。
婚約者を奪われて二人の目の前で飛び降り自殺、父親とヒロインの結婚式に刃物を持って乱入し逆に殺される。
兄ルートだとヒロインの代わりに誘拐されて何かを注射され虚ろな表情のスチルが出て、そのまま行方不明になる。
うん、全年齢で用意する内容じゃない。
それに今の幼いベアトリスちゃんは天使と間違えてしまったぐらい可愛くて性格もいい娘だ。
何より私の大切なご主人様だ。ビッチヒロインの恋愛に巻き込まれてバッドエンドを迎えていい筈はない。
猫の体と寿命でできることには限りがあるかもしれないけど、やってやるにゃん!!
「にぅぅ…みょん!!」
私は気合を込めて鳴いた。うっかりしっぽもおったててしまった。
「あら、どうしたのベロア。お腹が空いたのかしら。おやつ食べる?」
そしてベアトリスちゃんから貰ったおやつを食べた。
ベロアというなんとなくお洒落でハイソな名前は彼女がつけてくれたものだ。
お察しの通り毎日滅茶苦茶甘やかされ可愛がって貰っている。
うん、金持ちの美少女の飼い猫はこの世で最高の身分なんだ。
寿命尽きるまでぜってぇこの立場を維持するにゃんよ。