12・服を着ろ、話はそれからです
「うわっ、レックスが人間になった!!」
「……にゃおん」
いや、正確には獣人です。
私はそう説明したが当然猫の言葉がオーウェンに伝わる筈はなかった。
獣人の仔狼レックスが突然人間の姿になった。
結果、少年少女が互いの可愛いペットをお披露目し合うという微笑ましい空間が一気に混乱に陥る。
それはそうだ。子犬みたいな生き物が消えたと思ったら獣耳の生えた美少年が突如現れたのだから。
それはほんの少し前の会話がきっかけだった。
籠から解放され嬉しさ全開のレックスにびしょびしょになるぐらい舐められながら私は彼に聞いたのだ。
『ねえ、アンタって人間の姿になれる?』
『なれるよ!みてて!!』
元気のいい返事と共にレックスが発光した。なれるか聞いただけで今なって欲しいわけではない。そう説明する間もなかった。
眩しさに閉じた目を開いた後、そこにはオーウェンより少し背の高い狼耳の生えた少年が立っていた。
真っ裸で。
「キャアアアアアア!!」
ベアトリスちゃんが悲鳴を上げる。そりゃそうだろう。
箱入りお嬢様が自分と同年代らしき少年の裸なんて見慣れている筈がないのだから。
レックスの下半身が毛深いお陰で着ぐるみを腰のあたりまで脱いだ人っぽくなっているが上半身はツルッツルだ。
そりゃあ初心なベアトリスちゃんは真っ赤になる。
「いやああああ!!無礼者!!」
「あはは、オーウェンのつがいのメス、げんきいっぱい!すっごいうるさい!!」
『ベアトリスちゃんをメス呼ばわりするなバカ犬!!』
無礼なレックスの言葉に私は毛を逆立てて抗議をする。
すると彼は私の前にしゃがみ込み、そのまま私の脇の下に手を回して抱き上げてきた。
「あ、ベロア。ボクね、ニンゲンになれたでしょ?ほめて!ほめて!」
銀色の獣耳をピコピコと揺らしながらレックスが大声で言う。
思わずその動きに合わせて前脚を動かしながら私も言い返した。
『その前に、服を……服を着ろーーーー!!』
子供とはいえ裸の胸に私の体を密着させるな!!
恐慌状態のベアトリスちゃんと一緒に私も叫んだ。
「え?でもボクの服なんてこの部屋にあるの?あっ、オーウェンからはがせばいいか!」
「は?レックスお前、よりにもよって俺から追剥を?!ショックだ!!」
『飼い主相手に犯罪はやめなさい!!』
私がレックスに元の姿に戻れと命令すればいいことに気づくまで子供部屋が静かになることはなかった。