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異世界サバイバル~コンビニなし水道なしチートなし~  作者: トタリ
第一章 空を駆ける災害
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サバイバル 5日目~暖かな火~

 胸を小突かれる感触で目が覚める。

 雨は上がり辺りはすっかり明るくなっていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。

 再び胸を小突かれる。

 見下ろすと恥ずかしそうに頬を染め、ジト目で俺を睨んでいるミティナの顔が目の前にある。


ミティナ「ロスシシタア・・ヤマニヘン・・・。」


 たぶん、放してくれ的なことを言ったのだろう。

 解放されたミティナは服を着始める。

 昨晩の行動は仕方なかったとはいえ少し気まずい。

 気持ちを切り替え俺も服を着ようと思ったがまだ乾ききっていない。だが、麻織物の衣服はもうほとんど乾いていたので上下ともにこっちに着替える。サイズは少し大きめでも湿った服を着ているよりは快適だった。

 いよいよ古代人のような様相だ。

 家族の服を着ている俺を見てミティナは複雑そうな表情を浮かべ目を逸らす。勝手に服を借りたのはまずかっただろうか。それでもミティナは服を取り上げようとはしてこなかった。

 

 朝食に二人で木の実を分け合った後、今後の計画を考える。

 ミティナの家族を探すべきだが昨日足を怪我したばかりのミティナを連れ回すのは良くない。

 唯一の手掛かりである絵と文字の書かれた布をミティナに見てもらったが首を横に振って心当たりは無い様子。俺だけで探すという手もあるが非効率的だし何より長時間ミティナを一人にできない。

 なら次に優先するべきは火の確保、もう凍える夜を過ごすのはごめんだ。それに虫対策も必要だった。

 雨が降り出すと虫たちが屋根の下に逃げ込んできてあちこち虫に噛まれて痒い。それはミティナも一緒だろう。


 弓錐式で火を起こそうと思っているが昨日の雨のせいで乾燥した火きり棒と火きり板を探すのは難しそうだ。とりあえず屋根の下で乾燥させようと思い寝床の周りに落ちている使えそうな木々を拾い集める。

 その様子を見ていたミティナも俺の真似をして木々を集めだす。

 右足を庇いながら歩く姿を見て、屋根の下で大人しくしているよう伝えたが首を横に振って作業を止めようとしない。頑固な性格だ。


 丁度いい枝を発見したので屋根づくりにも使ったつるで弓を作る。折れた槍の先を使って木を削り、火きり棒と火きり板も作る。

 濡れた服と作った道具や焚き付け用の薪を日の当たる所で乾燥させている間に寝床の隅に大きめの石で直径1mほどの円を作る。ここなら屋根や柱の木に火が燃え移ることはないだろう。


 道具が乾燥するのを待っている間にクリピーを拾いに行く。

 今日は落ちている実を全部で7個拾って帰った。

 

 ミティナには留守番してもらったがずっと薪を集めていたみたいで寝るスペースを圧迫するくらいの量が積んであった。

 積みすぎても下の方の木が乾燥しづらいだけなんだが自分の頑張りをドヤ顔でアピールしてくるので頭を撫でて褒めると満足した表情になる。

 何だこの可愛い生き物は・・・。


 昼食をとり焚き付け用の薪を石で作った円の中に円錐状に並べ、火口に3枚ほど丸めたポケットティッシュを用意し火おこしの準備は整った。あとは忍耐力の勝負になる。

 火きり板を足で押さえ板のくぼみに弓を絡めた火きり棒をセットする。川岸で拾った手のひらサイズの平たい石で火きり棒を押さえ、のこぎりで切るように弓を左右に動かす。

 しばらくすると煙が立ち始める。ここで更に力を籠め摩擦を強くする。

 煙の量が増えてきたので、出来た火種をすぐに火口に移し息を吹きかける。

 いけたと思ったが、火口は燃えなかった。

 もう一度チャレンジしてみるがまた失敗してしまった。

 ジャングルは湿度が高いため火をつけるのは至難の業だ。過去にキャンプで2,3回経験した程度の俺では苦戦は必須だった。


 疲れた腕を休めていると不思議そうな顔で様子を見ていたミティナが、今度は自分がしようか?という風に自分を指さす。

 なんとか自力で歩けるようにはなっているが、ミティナにはなるべく安静にしていてもらいたい。

 俺は首を振って断り、火おこしを再開する。

 一人で凍えていた夜や昨日震えていたミティナを思い出し自分を奮い立たせる。

 もうあんな思いはしたくないし、させない!


 徐々に煙が立ち始めたので摩擦を強くしていく。煙の量が増し、すぐに火種を火口に入れる。祈るように息を吹きかけ続けると火口は勢いよく燃え始めた。

 火口を焚き付けの中に入れると火がゆっくり燃え移る。

 薪を足しながらその様子を見ていると、ただのたき火だというのに涙が出そうなほど感動してしまった。


 火おこしに成功し安堵と疲労で力が抜け座り込む。するといきなり背中に衝撃を受ける。

 ミティナが後ろから抱き着いてきたようだ。

 

ミティナ「ヌドシンハルユキ!ハルユキロラライハシミラヨスフタセハコバメ!」


 元気が無かったミティナが今は喜んでくれている。これだけでも頑張ったかいがあった。


 これでもう寒い思いをしなくて済むし煙は虫よけになり魚を捕まえて調理することもでき、生活の水準が飛躍的に上がる。


 火を手に入れた次は食料を充実させたい。この5日間ほぼ木の実ばかりでスタミナのつく食事を摂れていない。

 近くの川には魚が泳いでた。あれをどうにかして捕まえられないか考えているとミティナがいきなり何かに跳びつく。足が治っていないのに無茶をして・・・。

 何事かと近づくとミティナは目の前に捕まえたもの差し出してきた。

 それはどこかで見た魔女の手のような虫だった。そのまま顔に張り付かれると体内に卵を産み付けられそうだ。


ミティナ「トケハレケウワフバノ!」


 ミティナはその虫を枝で躊躇なく串刺しにし、たき火で炙りだす。

 まさか食べる気なのか?

 手のひらサイズの虫が火であぶられ蠢く姿は食欲を減退させる。

 やがて動かなくなり灰色だった表面が真っ黒になると火から離す。見た目は完全に焼死体の手だ。

 ミティナは指、もとい足を一本食い千切ると次は俺の番と差し出してくる。

 ためらいながらも受け取り、恐る恐る口に運ぶ。

 サクとした食感の次にホクホクの身が現れる。外殻は苦いが中身はカニの足ような味で意外と美味しかった。

 ミティナとたき火を囲んで摂る食事は、この先の不安を一時忘れさせてくれた。


 食後に薪をくべ、火の調子を見ていると肩に重みを感じる。

 見るとミティナがもたれ掛かり寝息をたてていた。


春行「今日はその足で良く頑張ったな。」

 

 俺は体育座りをしていた足を崩し、ミティナの頭が膝の上に来るよう寝かせ労う様にしばらく撫で続けた。


 気付けば日は沈み辺りが暗くなり始めたので薪を多めにくべ俺も眠りについた。

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