サバイバル 4日目後編~一人じゃない~
キマイラとの距離は30mくらいでその姿を見た途端まるで金縛りにあったかのように体が動かなくなった。だがそのおかげでよく観察することはできた。
キマイラはジャングルに入っていくところだったが歩き方がおかしい。
左前足を庇う様に歩いている?
それでもアフリカゾウほどのその巨体は木々をなぎ倒しながらゆっくりジャングルの中に消えていった。
なぜこの数日間野生動物にほとんど遭遇しないのか疑問に思っていたが原因はこいつかもしれない。
皆狩られるか隠れるなり逃げるなりして姿を消しているのだろう。
キマイラが見えなくなってからしばらくして、ようやく体が自由に動かせるようになる。それでも様子を伺いながら慎重に残骸に近づく。
残骸は一軒分しかなくこれがミティナの家だったみたいだ。
掘っ立て小屋のような作りだったみたいで今の俺でも中を調べる為、瓦礫をどかすのに苦労しなかった。
残骸の中で使えそうな物は、
麻織物のような生地の大人サイズの衣服1着と子供サイズ1着、
干し肉2切れ、
2ℓペットボトル程の様々な木の実が半分ほど入った籠、
縦横20㎝ほどの布、
折れて短くなった槍が見つかった。
干し肉があるという事はエルフも肉を食うのか?
縦横20㎝ほどの布には左から、つるがぐるぐる巻きにされた木、二つ並んだ檻、三日月、バツ印が描かれ所々に文字も書かれている。
ミティナはここで家族と暮らしていたのだろうがその家族の姿がどこにも見当たらない。おそらく逃げれたのだろう。最悪の事態にはなってなくて良かった。
ミティナの元に戻ると安堵した表情で迎えてくれる。少し迷ったが状況を言葉で説明できないので、ミティナを背負い残骸の場所まで連れていく。
自分の家の有様を見て背中にいるミティナはショックを受けただろう。
首に回された腕に力が入り苦しくなる。
ミティナは耐えているんだろう。
泣きたい気持ちを、家族を呼びたい気持ちを。
今ここで大声を上げれば、自分の家をこんなにした奴が戻ってくるかもしれないから。
少しでもミティナを落ち着かせる為瓦礫の中や残骸の周りを見せ、どこにも家族の姿がないことを確認させる。
ミティナ「ラバタセフヘマシコバ・・・」
ミティナが落ち着いたのを見て瓦礫から見つけ出したものを回収し、俺の作った寝床まで戻ることにした。
寝床に着いたのは夕方頃、帰ってくる途中雨が降り出し二人ともずぶ濡れだ。
屋根の下に潜り込みミティナをゆっくり降ろした後、上だけ全部脱ぎ荷物を確認する。
絵と文字の描かれた布だけは濡らさないよう懐に入れていたためほとんど無事だ。
ほかの荷物は水を吸ってしまっているが問題ない。
衣服は乾かせば俺とミティナの着替えになる。
食料はあと一日は持つ。
折れた槍の先端は刃として鋭い打製石器が括り付けられていてこのままナイフとして使える。
期待は外れ、よくない状況に変わりはないが収穫はあったと考えよう。それに、ミティナの家族と合流できれば状況は良くなるはずだ。
俺はミティナに少しでも元気になってもらおうと干し肉を取り出し振り向く。
そこには一糸まとわぬ姿のミティナが濡れた長い髪を絞っているところだった。
春行「すまん!」
慌てて背を向ける俺は不覚にもエルフの少女にときめいてしまった。そのまま俯いていると肩をつつかれ手だけが顔の横に差し出される。
やっぱりエルフも肉食うんだな、と思いながら干し肉を手渡すとミティナはそのまま俺と背中合わせに座る。
肌が触れ合っているところがとても暖かい。
冷たい木に背中を預け、雨にひたすら打たれ続けていたあの夜とは大違いだ。
一人じゃない、今はそれだけでも心が満たされていく。
ミティナはどう思ってくれてるんだろう。俺はそんなことを考えながら干し肉を頬張った。
夜になり手元も見えないほど辺りは暗く、雨も降り続いている。寝床にしている地面は周りより高くなっているため雨水は流れ込まず、屋根もしっかり作ったので雨漏りもない。
それでも気温は下がり震えるほど寒くなる。俺とミティナは濡れた服を着ることもできず身を寄せ合って厳しい夜を過ごしていた。
ミティナ「ヤヤ・・ララ・・・」
縮こまって震えているミティナはずっと何かを呟いている。
ミティナの不安をくみ取れず、励ましの言葉を伝えることもできない事に苛立ちと悔しさが込み上げてくる。
今の俺にできることは、ミティナを抱きしめ優しく頭を撫で続けてあげる事だけだった・・・。