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異世界サバイバル~コンビニなし水道なしチートなし~  作者: トタリ
第一章 空を駆ける災害
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サバイバル 2、3日目~自分との闘い~

 両手を正面に突き出し意識を掌に集中する。ゆっくり深呼吸し、自然に思い浮かんだワードを唱える。


春行「ドーーーーン!」


 ジャングルに溶け込むような緑色の鳥たちがいきなりの奇声に驚き慌ただしく飛び去り、再び静寂が訪れる。


 急な坂を下りきり、少し休憩していた俺は数多の異世界転生、又は転送系小説の主人公のように何かしら異能の力が備わっている可能性を思い立ち、試してみたが自分でもビックリするぐらいデカイ声が出ただけだった。

 空腹と脱水状態で思考がおかしくなっているのかもしれない。早急に水を確保するため、俺は谷を目指して歩き出す。


 谷に向かって歩いている途中で、まるでモーニングスターのように棘の付いた拳くらいの大きさの木の実を見つけた。

 昨日の麻痺毒を持つ木のように危険な植物の可能性もあるが、異世界の動植物の知識がない以上積極的に試していかないと食料の確保は難しい。

 俺は木の実の外郭を棘に注意しながら石で砕き中身を取り出してみる。無臭でピンポン玉ほどの大きさの実を少しかじってよく味わう。

 味はピーナッツみたいで、舌が痺れるような感覚もない。飲み込んだ後、念のためしばらく体に異常がないか様子を見ることにする。

 更に3個、周辺に落ちている木の実から身を取り出し計4個をポケットにしまう。これが食料になってくれることを願いながら再び谷を目指す。


 予想通り谷に差し掛かったところで水の流れる音が聞こえてくる。駆け出したい気持ちを抑えながら、慎重に川に近づく。

 小川の流れは速く、透き通ったきれいな水だ。これなら直に飲んでも平気そうだ。

 手ですくわず顔を水につけ直接飲むと、干からびた体が潤っていくのが分かる。今まで飲んだどんな飲料水よりも美味しく感じる。

 

 無事に水の確保ができた俺は小川の近くの倒木に腰掛け、先ほど拾った木の実を頬張りながら次の計画を立てることにする。摂取してから数時間たったが体に異常はないのでこの実を食料とみてもいいだろう。

 これで水と3個しかないが食料は手に入った。次は体を休めるための寝床だな。寝床には屋根も必要になってくる。

 この二日間降らなかったがこれだけ植物が生い茂っているという事は、ここの気候は雨が多い可能性が高い。雨対策をしなければ安心して休息をとる事ができない上、低体温症で命を落とす可能性もある。

 小川の下流に向かって移動しつつ食料と建材、寝床を作れる場所を探すことにしよう。

 俺は木の実をもう一つ頬張って立ち上がり歩き出した。


 最悪な予想が的中してしまった。探索を開始してから雲行きが怪しくなり始め、しばらくすると雨が降り出してきたのだ。

 ドシャ降りの中歩き続ける気力もなく木の根元に座り込んでいた。今では日も落ち月明りもなく辺りは真っ暗で何も見えない。近くで見つけた、丁度肩幅ほどの大きな葉を頭に載せてはいるがほとんど効果はない。

 体はずぶ濡れで震えが止まらず、とても眠れたもんじゃない。杉のような木に背中を預け、膝を抱えてただひたすら寒さに耐える夜を過ごす。

 

 一日中歩き続けているため肉体はとっくに限界を超え、降り続く雨に精神も追い詰められていく。俺はこのまま一人で誰も知らないこんな場所で死ぬのだろうか・・・。

 強い孤独感に襲われ発狂しそうになる。こんな状況になっても誰も助けに来てはくれない。この世界にも神様はいないらしい。たった一人で、自分だけの力でこの絶望的な状況を乗り切るしかない。

 せめて空腹を紛らわそうと残り2個の木の実を腹に入れる。あとは雨が上がるのを、太陽が昇るのを震えながら待つことしかできなかった。


 気が付けば雨は上がり太陽が昇り始めていた。

 待ち望んでいたはずなのになんの感情も湧いてこない。

 着ているもの全てを念入りに絞りゆっくりと立ち上がる。立ち眩みに耐えながらフラフラとした足取りで探索を再開する。もう食料は無く、じっとしていても仕方がない。

 小川に小魚が泳いでいるのが見えたので石を投げる。簡単にかわされどこかに隠れてしまった。今の俺には捕まえることも調理することもできないからあきらめるしかない。

 寝不足と疲労で頭が回らないが、この環境で生きていくにはまともな屋根のある寝床が必須という事は嫌というほど思い知らされた。


 『死ぬまでは出来ない事なんてない。』


この言葉を何度も頭で繰り返し、足を進める。


 小川を辿って行くと少し大きめの川と合流した。その近くに少し高くなっている平坦で寝床を作るのに適した場所があった。近くに生えている、直径30㎝ほどの木に立てかける形で屋根を作ろう。


 まず枠を作るために長くて頑丈な木材を集める。丁度いい枝や木を見つけても切るものがないので自分の力で折るしかない。今の俺にはかなりの重労働だ。

 しかし、木材を集めている途中で、あのモーニングスターのような木の実を見つける事ができた。この木の実をモーニングスターみたいなピーナッツといことで”モニピー”と名付ける。

 寝床の近くにこれがあるのはありがたい。

 取り合えず今は5個のモニピーを確保しておく。

 

 十分な木材を確保したので次はこれを結ぶための紐が必要だ。これにはもう当てがある。

 小指ほどの太さの黄緑色のつるを使う。簡単に手に入れることができ2日目の急な坂を下りるときに何度か使用し耐久性も実証済み。


 つるの長さを調節するために角のある石でつるを切っている俺の姿は、まるで旧石器時代の原始人みたいだった。


 畳3枚分ほどの長方形の枠が出来上がる。この枠に大学ノートのように細めの枝を括り付けていく。

 出来上がった骨組みを木に立てかけしっかりと地面に固定する。

 最後に昨日の夜、雨よけに使った葉をたくさん集め芯の部分に切り込みを入れ下の段から重ねながらウロコのようにひっかけていく。


 やっとの思いで屋根ができた。苦労した分しっかりした作りになっているはずだ。

 最後に屋根の下を掃除し寝床が完成する。

 太陽はすでに沈み始めている。今は夕方くらいだろうか。まだ乾ききっていない学ランを脱ぎ捨て屋根の下に倒れるように寝転ぶ。寝返りをうっても余裕のあるくらい広いスペースがあるからかなり快適だ。

 もう雨に怯えなくていいと安心し気持ちが軽くなったとたん睡魔に襲われ、俺の意識が途切れるのに1分もかからなかった。

 


 

 

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