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異世界サバイバル~コンビニなし水道なしチートなし~  作者: トタリ
異世界サバイバル外伝~親の願いは世界を越えて~
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~大切なあなたの為に~

エルフの里にも人間の里にも受け入れてもらえなかった私たちは、いつも通り3人での生活を送っていた。 


昼頃、家でミティナのスカートの裾を直していると狩りに出ていたダーナスが血相変えて帰ってきた。


エルティア「ダーナス、今ミティナがお昼寝してるからあまり大きな音を立てないで。」


ダーナス「そんな事言ってる場合じゃないぞ。」


エルティア「何かあったの?」


ダーナス「狩りの途中で空飛ぶ怪物を見かけた。頭上を通った一瞬しか見えなかったけどかなり大きかった。ジャングルの動物たちはあいつに怯えてたんだ。」


 このジャングルは主によって守られていたはずだった。その怪物が好き勝手しているということは、主に何かあったのかもしれない。

 今のジャングルに家族3人で暮らしていくのは、とても危険な状況になってしまった。そこで、ダーナスは人間の村に、私とミティナはエルフの里に行って、もう一度私たちを受け入れてもらえないか、頼みに行くことにした。


 家の近くを流れる川の上流に向かって進むと、夕方頃にはエルフの里が見えてきた。

 ミティナを連れて里に入ると外にいたエルフ達にすぐに注目された。ここでは黒髪のミティナは目立ってしまう。

 好意的な目を向けている者はだれ一人としていなかったが、かまわず里長の家をまっすぐ目指す。


 ドアをノックすると里長であるコルドアが入れ、と一言返事をくれる。

 家に入ると私はすぐに深々と頭を下げ里長に嘆願する。


エルティア「コルドア様、ジャングルに空飛ぶ怪物が現れました。私たちだけではいつか殺されてしまいます。どうか私たち家族を受け入れてくれないでしょうか?」


コルドア「答えは前と同じだ。我々エルフの血に刻まれた人間への恨みは深い。受け入れたとしても、今より辛い生活を送ることになるだろう。」


エルティア「それでもこの子とダーナスの命が助かるなら私は・・・。」


 ミティナは状況が理解できず私の側で泣きそうになっている。

 それを見たコルドアはしばらく考え込んだ後、口を開く。


コルドア「・・・・聖域に行くといい。きっとそこで主様は傷ついたお体を癒しているはずだ。主様と共にその怪物を追い出せば、きっと皆は快く里に受け入れてくれる。それだけ里の皆も奴に怯えているからな。」


 怪物を追い出せなんて条件、私たちに死ねと言っているようなものだ。それでも、私とダーナスとジャングルの主が協力すれば実現できるかもしれない。

 でもこんなこと、私だけで決める事なんてできなかった。


エルティア「少し考えさせてください。」


 日が沈み始めていたのでコルドアはその日だけ、私とミティナを家に泊めてくれた。

 

 次の日の早朝、コルドアにお礼をいって里を出た後、私たちの家に戻りダーナスと合流した。

 歩き疲れたミティナは家に着いて早々眠ってしまった。

 ミティナを起こさないよう私とダーナスは家の外でお互いの成果を報告する。


ダーナス「俺の方は前と一緒でダメだった。それにここは危ないから森の中に移った方がいい、と言っても聞き入れてもらえなかった。あれじゃあ怪物に襲わてしまう。」


エルティア「私の方も受け入れてはもらえなかったわ。でも、ジャングルの主と一緒に怪物を追い出せば受け入れるって言われたの。」


ダーナス「そんな事できるのか?」


エルティア「とりあえず聖地に行って主に会ってみましょう。」


 ミティナを一人にすることはできないため、ダーナスは家に残り、私一人で聖地に向かうことになった。

 日帰りはできないので入念に準備をして次の日の朝に家を出発した。


 聖地はこのジャングルで一番高い山にあり、エルフの里に伝わる伝説によると、約2000年も前に人類に追い詰められた他種族を救う為、その場所で異世界人が召喚されたらしい。


 小川を辿り高い山を目指し急な坂を上り、2日掛けて召喚の儀式が行われたと言われる場所に辿り着いた。

 草木が切り開かれたような場所に今まで見たこともない姿の、大きな動物が身を丸めるようにして眠っていた。

 翼がないので飛べるようには見えない、つまりあの動物が主なのだろう。

 ここに来て私は焦る。ダーナスが着けている腕輪無しで意思の疎通はできるのだろうか。


主「そこにいるのは誰だ?」


 起き上がった主と目が合う。

 腕輪が無くても言葉は通じるみたいだ。


エルティア「私はエルフのエルティアと申します。主様にお願いが、いえ。主様と一緒に空を飛ぶ怪物を倒したいと思い、ここまで来ました。」


主「空を飛ぶ怪物?グリフォンの事か。お前のような娘に何ができるのだ?」


 主は私の目の前まで来ると見下ろしながら聞いてきた。

 見上げるほど大きさに恐怖を覚える。この主ですらグリフォンと呼ばれる怪物を追い払えないでいるのだ。


エルティア「私は治癒魔法が使えます。それに私だけでなくダーナスも協力してくれます。彼は人間ですが狩りの知識はきっとグリフォンとの戦いで役に立ちます。」


 主は少しの間私の目を覗き込んだ後、背を向けて距離をとり唐突に光に包まれる。

 光が消えると、そこには頭に獣の耳と腰に蛇の尻尾を生やし、布面積の少ないきわどい服を着た女性が堂々と立っていた。


カイーラ「奴には手を焼いていたからな、その申し出を受けよう。私はカイーラ・シメル。カイーラ様と呼べ。」


 4日後に戻ると家は自然に溶け込むよう枝や葉をかぶせてカモフラージュされていた。

 家の中に入るとミティナが胸に飛び込んでくる。随分寂しい思いをさせてしまった。

 会えなかった分、めいっぱい抱きしめて頭を撫でてあげる。


ダーナス「どうだった?」


 ダーナスは心配そうに聞いてきた。


エルティア「協力してくれるって。今はあの三日月の岩で待っててもらってるわ。」


ダーナス「そうか、じゃあ早速作戦会議だな。俺もすぐに行くよ。」


 出かける支度を始めたダーナスを見てミティナが不安そうな顔を向けてくる。


ミティナ「またどこかに行くの?」


 ミティナをなるべく危ないことから遠ざけたいが、そうすると一人にしてしまう機会が増えてしまうだろう。


エルティア「これからママたちは皆でもっと楽しく暮らせように頑張るから、ミティナも少しの間だけ寂しいの我慢してくれる?」


ミティナ「・・・・うん。」


 ミティナは渋々頷いてくれた。

 

 ミティナを家に残しダーナスと共に三日月型の岩へと向かう。

 そこには大きな動物の姿で待っていたカイーラがいた。

 

ダーナス「この方がジャングルの主様・・・・。」


 ダーナスはカイーラの姿に恐れを抱いているように見える。


カイーラ「その男が人間の協力者か?」


エルティア「はい、この人はダーナス、人間の猟師で私の夫です。」


カイーラ「・・・・なるほど。何故、私とグルフォン退治をしたいのか大体察した。随分と過酷な運命になってしまったものだな。」


 そう言いながらカイーラは人の姿へと変身する。

 それを見たダーナスは驚きの表情を浮かべた後、目のやり場に困るように視線をさまよわせる。

 ダーナスが照れていると分かると私の胸にモヤッとした感情が込み上げてきた。


ダーナス「それが本当の姿なのですか?」


カイーラ「違う。お前が私の姿に怯えていたから話しやすくしてやったのだ。」


エルティア「カイーラ様、他の姿にはなれないんですか?ダーナスがいやらしい目でカイーラ様を見ています。」


ダーナス「な!そんな事・・・・。」


カイーラ「この姿は私の本質を人型にしたものだ。もし私に触れようものなら男の象徴を切り刻んでやろう。」


エルティア「それだと私が困ります!」


ダーナス「なあ、早く本題に入らないか?」


 赤面したダーナスの提案で作戦会議を始める。


カイーラ「グリフォンは魔力を持った野生動物にすぎん。地上にさえいれば喉笛を食い千切ってやれるのだがな。」


エルティア「空を飛べるから行動範囲が広すぎて寝床も特定できなさそうですね。」


ダーナス「グリフォンを地上に引きずり下ろせる罠を設置して迎え撃つのが良さそうだな。」


エルティア「そんな事できるの?」


ダーナス「エルティアが聖地に言ってる間に、考え付いた事だけど試してみる価値は十分ある。」


カイーラ「私が奴と地上で戦う事ができれば十分勝機はある。男、その案とはなんだ?」


 ダーナスの案は木とつるを使って、丸太を回転させる大きな装置を作りグリフォンを地上に叩き落すというものだった。

 グリフォンを丸太の当たる範囲まで誘導する事、発動させるタイミング、これらが奇跡的に上手くいかないといけない作戦である。

 他に案が浮かばなかった私たちは成功率の限りなく低い作戦に命を賭けなければいけなかった。


 作戦が決まれば後は決戦に向け準備するのみである。

 木材を加工するなどの力仕事はダーナスとカイーラが、装置をくみ上げるためのつるを私が担当して作ることになった。


 作業を始めて数日が経ち罠作りが順調に進んでいたある日のことである。

 私は集めたつるを家に持ち帰り、棘や葉を取り除いて紐として整えていく作業をミティナと一緒にしていた。


エルティア「イタッ。」


 不注意で棘が引っかかり右手を怪我してしまった。

 血が出ているのを見てミティナが心配そうに寄ってきて傷口を両手で覆ってくれる。


ミティナ「ママ、大丈夫?」


エルティア「ちょっと引っかけちゃっただけだから大丈夫よ。」


 この数日間、罠作りと最低限の食料確保しかしてこなかったため、家には薬草のストックがなかった。仕方がないので布でも巻いて我慢しようと思っていたら、痛みが消えていくのが分かる。

 ミティナが覆っていた手を離すと私の右手の傷は完全に塞がっていた。

 

エルティア「ミティナ、魔法が使えるようになったの?」


ミティナ「少し前から小さな傷だったら治せるようになってたよ。ママたち忙しそうだったから言えなかったの。」


 私はミティナの頭を優しくなでて褒めてあげる。


エルティア「ありがとう、ミティナ。薬草もなしで治癒魔法が使えるなんて私以上に立派な魔法使いになれるわね。」


 ミティナがエルフの里に受け入れられれば、この才能を伸び伸びと育てる事ができる。ミティナの魔法はたくさんの人の役に立つはずだ。

 娘の明るい未来を想像すると、疲れた体に元気が戻ってくる。


 作業を再開する前に魔法を使えるようになったミティナに、言っておく事があった。


エルティア「ミティナ、魔法は人間の前では使っちゃだめよ。」


ミティナ「なんで?」


エルティア「魔法を見せた人間とは、仲良くなれなくなっちゃうの。」


ミティナ「パパも?」


エルティア「パパは・・・・いつか見せても大丈夫になる時が来るかもね。」


ミティナ「そっか、その時までもっとすごいことできるように頑張るね。」


 エルフの掟について分かりやすく説明すると、ミティナは納得してくれた。


 その日から更に数日後、遂に罠が完成し後はグリフォンをおびき寄せるだけになった。

 でも私とダーナスは今、罠を設置した場所ではなく聖地に来ていた。


ダーナス「ここでいったい何をするんだ?」


 黙ってついてきてくれたダーナスがここに来て疑問を口にする。


エルティア「聖地はね、2000年くらい前に私たちのご先祖様を救ってくれた異世界人が召喚された場所って言われているの。あなたにとっては人類を衰退させた張本人だけどね。」


ダーナス「2000年前の事なんてどうとも思わんがどうして俺とここに来たんだ?」


エルティア「願掛けかな。たくさんの種族が救われるきっかけになった場所だから、私たち家族くらい救ってくれないかなと思ってね。」


ダーナス「そっか、じゃあ全身全霊で拝んどかないとな。」


 ダーナスはそう言うと開けた場所の中央にある平たい岩に近づき頭を深々と下げる。

 私もそれに続く。


 ミティナは今までの人生のほとんどを私たちが作った狭い家で過ごしてきました。あの子にはたくさんの人と関わって、いずれ恋人を作って、自由で幸せな人生を歩んでほしい。

 どうか私の、私たちの宝物を救ってください。


 私が顔を上げてもダーナスはしばらく拝み続けていた。

 そんな姿に呆れながら聞いてみる。


エルティア「そんなに何を願ってるの?」


ダーナス「決まってるだろ。ミティナの幸せだ。」


 顔を上げまっすぐに私を見て断言するダーナスの姿は私と初めて会ったあの時と何も変わっていなかった。


 願いを奇跡に託し、私たちは決戦へと向かう。



 作戦は決行された。

 カイーラがグリフォンを誘導し罠を作動させ、奇跡的に作動した装置はグリフォンに命中した。

 グリフォンは地上に落ちカイーラが襲い掛かり作戦は成功したと思った。

 しかし、カイーラの体よりはるかに大きなグリフォンはカイーラを弾き飛ばし罠を作動させた私たちに襲い掛かった。


 そのあと何が起こったのか分からない。意識が朦朧とし立ち上がろうとしても体が動かなかった。


 ダーナスは?


 隣にいたはずの夫を探すが視界がぼやけて見つける事ができない。

 ふいに左手を誰かが握っていることに気付く。


 なんだ近くにいたんだ。


 私は冷たくなった夫の手を弱い力で握り返し薄れていく意識の中でただ願った。


 ミティナ、私たちが居なくても幸せに生きてね・・・・。 




 パパとママが一緒に出掛けてからもう4日が経つ。

 帰りを待っていると、突然どこかに引っ掛けたわけでもないのに、ママが直してくれたスカートの裾が破れた。

 何だか嫌な予感がした私はスカートをはき替えた後、家から出てパパとママを迎えに行くことにした。

 確かいつも川の下流に向かって行ってたな。


 一人で寂しくなったからじゃないぞ、と心の中で強がりながら私は下流を目指した。

本編の4日目につながります。

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