プロローグ
暇な時にぼちぼち進めます
のんびり待っててください
初投稿
築35年2階建て木造アパートの202号室。
僕の城になって約一年が経ったこの部屋には
小さなキッチンと三畳のダイニング
そして六畳のリビングとトイレしかない。
親の仕事は製造系メーカーの中堅サラリーマンで、
昇進に必要な海外転勤を受けた父に連れられ
7歳の僕は中国の地方都市に親子3人で移り住んだ。
日本とは勝手が違う生活にも幸い小さかった為
早めに馴染み不便はあれど、不自由なく
中学卒業まで滞在し、日本に帰国した。
高校は中国に行く前に住んでいた地元の学校に進み
普通科に通い始めたのだが、僕は体格があまり
良くなくて、162cm55kgの小柄な身体は
プロレスごっこの格好の餌らしく高校時代は
あまり思い出したくない思い出でいっぱいである。
そんな事もあって、大学進学に合わせて人間関係の
リセットも兼ねた親元を離れ一人暮らし。
九州の某国立大に進学して冒頭の安アパートで
暮らし始めたのが今年の4月———。
バイトを終えて疲れた身体を引き摺りながら
錆びた階段を軋ませながら登り鍵を取り出し
玄関をくぐり用を足そうとトイレのドアを開けると
見渡す限りの山脈と草原が広がっていた。
――――――――――――――――――――――
「……は?」
いやいや…うん。………は?えっ?はあ?
便座が無いぞ!?
ヤバい!抜けるような青い空をバックにした山脈も
匂い立つような青々とした草原もアレだけど
……まずは尿意がヤバい!
もう出す気マンマンだったからこの状況は
不意打ち過ぎるだろう!
膀胱は一気にレッドゾーンでアラートが鳴り響く。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!
ここでするか?いや幻覚だとしたら床がヤバい。
………キッチンは流石にな…。
コンビニまで行くには耐えられない確信があるぞ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
あーーー!もう知るか!!
草原です!はい!草原なんだからいいよね!
出さなきゃ何も考えられん!
二、三歩進んだ所でやれば幻覚かどうかわかるだろ。
普通こんな場合は慎重に慎重を重ねて
様子を伺うべきであろうし、ましてや
トイレを開けたら草原とか警戒以外しないだろう。
だが背に腹は変えられない時と場合があるんです。
「ふぃ〜〜〜〜」
間一髪で、19歳男子大学生の尊厳は守られたのだ。
トイレに飛び込み急いで用を足した僕が振り返ると
ドアの枠だけが草原のど真ん中に突き立っていて
枠の中は見慣れたキッチンとダイニングテーブルが
見えている。
「…疲れてるんだ、きっと。」
寝て起きたら全てなかった事になってるはず
床が掃除しなきゃならないかもしれないが
甘んじて受けようではないか。
ドア枠をくぐり扉を閉めると僕はおもむろに
ドアノブの下に椅子を噛ませて開かないようにした。
「さあ明日も1限から授業だな、寝るか。」
誰もいない部屋で自分に言い聞かせるように
独り言を呟きながらベッドに飛び込み
頭から掛け布団を被って朝が来るのを待った。
続きは近日中に。