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完全階級国立魔法学園  作者: 葛葉蹈鞴
3/3

3話・プログラム

この帰り道を、誰かと歩くなんて想像していなかった。

俺の隣には、俺にひっついてくるいつもうるさい陽華が大人しく、周りをキョロキョロしながら、警戒するように歩いている。

ここがクロス市であることに驚いていると同時に、高華の人間が歩いていいのか不安なのだろう。


クロス市もまた、国に存在する、階級に分けられた市である。クロス→ヤーン→ドール→クロプ。この四つの市の最高位、それがクロス市だ。

これもまた家の階級で住める土地が変わる。好んでクロプ市に住むやからはいない。クロプ市はほとんど無法地帯。操りたければ力で操れ。そういう場所だ。そこに住むのは主に下、一般。一般は真ん中のドール市に住むことが多いが、金銭的な面で住めない人間もいる。その多くがクロプ市に住んでいる。

ドール市に住む多くは中間、高華階級。ヤーン市には、市準〜貴族。クロス市には貴族〜国家管理者階級。

いわば、クロス市は高級住宅街なのだ。


「ね、ねぇ、本当にこっちでいいの?私高華のバッジだからすんごい見られてるんだけど。なんで尊くんクロス市に家があるの高華でしょあなた!!」

「るっせ。」


黙れという代わりに鼻をちぎれるほどきつくつねる。痛い!と喚く陽華に視線が集まり、どんどん背が丸まっていく。次第に、最初の時に戻った。常にこのテンションでいてくれたらとても有難いのに、それが有り得ないのがとても悲しい。


大通りから外れた薄暗く狭い路地を通り、クロス市の外れに存在する俺の普段使う家ではなく、来客専用の別荘に到着する。


「わぁ、私の家とは大違いだわ……。あなた本当に高華階級?!」

「国直々で決められている階級に俺が介入出来るとでも?」


そんなもの、介入出来るのはマリオネアル王国国王と同等の階級を持つものか、他国の国王だけだ。実際のところ、やる方法はいくらでもある。一番手っ取り早いのは国王の暗殺。そんなこと、何が何でも起きないが。


とりあえず陽華は適当なところに座らせる。一応客だし、紅茶くらいは出すべきなのだろうか……。正直、人をこの家に招くのは初めてなため、あいにく何も無い。ただ自分が【普段】使っている家に招くのは嫌だから、近い家で済ませたのだ。


「まぁ、いいか。」

「いや何がいいのよお茶くらい出しなさいよ!あなたがつれてきたんでしょ?!」

「悪い、ここ使わないから何も無い。俺が飲んでない奴でいいなら水筒があるぞ」


ほれ、と、差し出すと顔を赤らめてぷいっとそっぽを向いてしまった。なにか悪いことをしたのだろうか。

しばらく来なかったせいで少し埃っぽくなってしまった家の天井を見ながら、聞きたかったことを、率直に聞いた。


「なぁ、なんで中学に上がってから成績が伸びたんだ?」

「え?」

「お前のその底なしの体力と学力が気になったんだ。体育の時調べてたのはそれ。」

「何そんなこと?努力よ、ど・りょ・く!」

「具体的には?」

「え?」

「具体的には?」


具体的に、という言葉に頭を抱えて唸る陽華。深く考えずあそこまで出来るとは、到底思えない。面倒臭がりの俺がやろうとしたら、確実に三日坊主でおわる。


「強いていえば、親を見返したかったのかな。」

「親?」

「そう。勉強運動魔法全部ダメ。親から怒られるわ欲しいものは買ってもらえないわで、将来賢者級魔術師になるっていっても、あんたには無理よって言われ続けて。火がついたのはそれから。私でもやれば出来るんだって、私が何も出来ないと思ってる親を見返してやりたくて。」

「ふーん。」

「なによ!聞いといて興味無さそうに!」


興味がない訳では無い。ただ、人間の行動源全てが欲だということが、分かってしまった。

愛されたい、認められたい、強くなりたい、あれが欲しいこれが欲しい。全部人間が起こす初歩的欲求。

陽華の場合は、親を見返したい、賢者級魔術師になりたい。これが行動源ともいえる。


「君はすごいな、それだけの事でそんなに本気になれたのか。」

「それだけって、なによ。私にはとても大切なことだったのよ!」


「あ、それより尊くんはどうなのよ!」

「どう、とは?」

「尊くんだって私と同じ、いえそれ以上の能力の持ち主じゃない!尊くんはどうしてそんなになったのよ!」


どうして、か。考えたこともなかった。いや、考える必要がなかった。俺は生まれてこの方、努力をしたことがない。

誰かに求められることはあっても、それは難なくこなせる内容だった。

ただそのぶん、どんどんどんどん仕事が増える。そうすると、必然的にバレてはいけないことも増えるのだ。

彼女は、それを突いてくる。


「……それに、あのプログラム魔法、一体どうやって。だってあれはっ…は……んっ……?!。」


「ん、俺のこと……知りたい?」


幻滅。それは人と人とを切り離すのに最も都合のいい感情手段。相手を最低なものだと考えれば、誰でも相手から離れていく。

俺はその幻滅方法1として、たった今陽華にキスをした。女たらしは女がだいたい嫌う。俺は容姿も大して良くないし、俗に言うキモオタ体型。筋肉質ではないし、何もしていない。自然な体型だ。

つまり、キモイヤツに無理やりキスをされる、嫌がる、幻滅という結論に至るはずだ。






……はずなのに。






なぜ今俺の目の前にいる陽華は、口元を抑え顔を赤らめているのか。

俺と視線を合わせず、そっぽを向いて涙目に赤面。これは要するに、恥ずかしいのか。なぜ、俺が考えていた頬を叩いてここから出ていく選択肢が出てこないのか。こいつはいつも俺の予想の斜め上を行く。


「なんで、赤くなってんだ?嫌がるところだろ?」

「うぇっ?!い、いや、そっ、そそその!」


何を慌てふためくのか、訳が分からない。いや、急ににキスされて慌てない方がおかしいか。ただ、赤くなる理由が、ない。


「な、何でこんなこと……。」

「幻滅した?俺のこと、嫌になってくれた?」

「えっ、いや、べ、別に…」

「なんでだよ……。」

「っていうか!プログラム魔法!なんで!」

「君は俺にキスされても平然としてるから、こういうのは効かなさそうだな。失敗した。ただ、なぜ知りたい?」

「なぜって、プログラム魔法は超高度な技術!使えるのは世界にたった数人だけ!なんであなたが使えるのよ!あなた何者?!」


なぜ使えるか。それは俺にもわからない。初めは魔法を使うにはプログラム魔法しかないと思っていたのだ。それ以外の魔法の組み方なんて、ないと思っていた。

……ただ、俺が何者か、それを知ってしまえば、彼女は……。


「何者か。その質問に答えることは出来ない。お前は俺のプログラム魔法について知りたいんだろ?俺が何者かわかってしまえば君は俺と関わりたくなくなるだろう。そうすれば、プログラム魔法について知れなくなるぞ?」

「別にいいもん!教えて!」

「またキスするぞ?」

「あぅ……。」


キス。そのたった2文字を喋るだけで、彼女はゆでダコのように真っ赤になってしまった。キスは他国では挨拶程度のものだと聞くが、この国では気がうのか。

確かにファーストキスは女性にとっては大切だろうが、口と口を合わせるだけのもの。何が恥ずかしいのだか。


「そっそそそ、そういえば、尊くんの目って綺麗だよね!」

「は?」


目が綺麗、そんなこと初めて言われた。今までは暗い色で死んでる目だとか、死んだ魚の目だとか、さんざん言われてきたが、綺麗とは、初めて言われた。


「初めて言われたな……。素直に、受け取っとくよ。ありがとう。そしてもう帰れ。」

「えー!プログラム魔法教え……。」


言葉が途切れた。陽華の目の向かう先は、外。俺も続いて外を見ると、ひどい土砂降り。これは、歩いて帰るには危険、ゲリラ豪雨だ。ここは台風の目のそばなのか?嵐の真っ只中なのか?異様なほど吹き荒れる雨風に、ため息が漏れる。


「……そんなに、俺のこと知りたい?」

「え、そりゃあ、知りたいよ?」

「なら、ひとつだけ、教えてやるよ。」


ー00天候制御・光


空に大きなプログラム魔法を描き、消す。これだけで、先ほど嵐のようだった雨風はやみ、快晴になったのだ。


「俺はこの国のプログラム管理者であり、世界有数のプログラム魔法術師。お前にも、魔法をかけた。俺のことを話したら……。」


手を使い、首元を掻き切る仕草をする。すぐ顔を青くする彼女は、なんとなく面白い。


「……うぅ、ヘマしたらこわいけど……、わかった!これは私と尊くんだけの内緒ね!雨やんだし帰るわ、じゃあね!」


ドタドタと、うるさい足音を響かせ、ガチャ、とドアの音がして、足音が遠ざかる。

もう、いなくなったようだ。


「こんなの、初めてだ。」


どうして彼女にこんなにも惹かれたのか。自分の秘密を話したのか。


「ヒトって……こんな暖かかったっけ……。」


長らく触れていなかった人の暖かみに触れ、なんとなく、心が、暖かくなった気がした。

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