第89話 ホワイトクリスマス
ガラガラッ
「お、やっと帰ってきた」
「トラ先輩、ただいまです」
部室に戻ると、ちょうどトラ先輩が玄関先にいた。
迎えにいったはずの私まで戻ってこないものだから、様子を見に来てくれる所だったらしい。
「んで、こんな寒いのに二人して何してたの?」
「えーっと……」
何をしてた、と聞かれると告白をしてました、としか言えないんだけど、もちろんそんなこと言えるわけもなく。
どうしたものかと思っていると、横からケイ先輩が助け舟を出してくれた。
「ちょうど流星群が見られたので、それを見てたんです」
「そうそう!
すっごくキレイでしたよー!」
「なんだよー、そういうのは俺らも呼べよなー」
「あら、トラ。
今からでも見られるんじゃないかしら?
そんなちょっとの時間で終わるものでもないでしょうし」
話し声を聞いてステラ先輩もやってきた。
「お、そかそか。
んじゃ、みんなで見にいこうぜ!」
というか、ステラ先輩だけじゃなくみんなぞろぞろと。
まぁ、そうだよね。
「それがですね。
急に雲が出てきちゃいまして……って、あー!
そうだそうだ、雪降ってきましたよ!!」
「おおー! 今年は遅かったなー!
積もりそう?」
「んー……そこまでではなさそうですねー」
ここら辺は、冬の間はそれなりに雪は降るのでそんなに珍しくもないんだけど、降れば降ったでやっぱりテンションはあがる。
今年初が、クリスマスに合わせて(厳密には2日ほど早いけど)ってのもまたポイントが高い。
「流星群も、雲の隙間から見えるかもしれないから、どっちにしろみんなで外に行きましょうか」
「はーい!」
ステラ先輩の言葉に全員が――
「あ、私は寒いのはパスで」
――伊織音先生を除く全員が素直に返事をする。
「はい、おねぇ」
コートしか来ていなかった私に、なゆがマフラーを手渡してくれた。
「ありがと。
気が利くね!」
「それはもう」
ちょっとレアな、なゆのドヤ顔付きで。
「ふふ、なにその顔」
「おねぇと同じ顔だよ?」
「違いない」
「ほんっと、星空姉妹は仲良しだなー」
なゆと軽く漫才をしているとスミカ先輩に茶化されてしまった。
「羨ましいですか―?
でも、なゆはあげませんよー?」
「いらないよ」
「え!? いらないんですか!?
なゆは可愛くないってことですか!?」
「いや、そ、そう言う意味じゃなくて!」
「なーんて、うそですよー」
「くっ! そうだとは思ったけどさ!
いいや、先行ってるね」
「はーい」
そうこうしている間にみんな出ていってしまって、部室には私となゆだけになっていた。
「おねぇ、苦しい……」
「あ! ごめん!」
スミカ先輩で遊んでた時に、ぎゅってしすぎた。
慌てて腕を離す。
「……ふぅ。
で?」
首をさすりながら、なゆが聞く。
「『で?』って何が?
……って聞き返すまでもないか」
「うん」
真剣な目で見るなゆを、同じように見つめ返す。
「言ったよ」
「先輩はなんて?」
「まだそう言う事考えられない、って」
「そっか」
「うん」
誰もいない部室は、とても静かだ。
外から聞こえるみんなの声が、TVから漏れているかのように思えてくる。
「でも、嫌いではない、って。
あとね……いつか誰かを好きになりたい、って。
それが私だったら嬉しいけど。
だから、このままアピール続けるって言っちゃった」
できるだけ明るく話しているつもりだけど、できているだろうか。
「……がんばったね」
「うん……」
優しく頭をなでてくれる。
同じ顔をした、私の大切な妹。
いつもそばにいて、支えてくれる。
「ちょっとだけ、ごめん……」
そう言って肩に顔を埋める。
ずっとずっとこらえてきたけれど、もう溢れてくる涙を抑えられそうになかった。
「…………」
何も言わずに、頭を撫で続けてくれる。
「辛くない?」
「うん」
「……そっか。
おねぇが大丈夫なら、いい」
「……ありがとう……」
「泣きたくなったら、いつでも言って」
「……ふふふ、ウチの妹は男前だぁ」
「もう、馬鹿なこと言ってるとはたくよ?」
「ごめんなさーい」
5分くらいそのままでいてから、二人で外に出た。
雪はぱらぱら舞っていたけど、雲の切れ間からは時たま流れ星が見えていた。
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