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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第10章 クリスマス
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第88話 いつか

 空に向かって手を伸ばす。

 お願い流れ星。

 もう一度、もう少しだけ私に勇気をください。


「すばるん……それって……」

「……はい。

 私の、特別な『好き』です」

 声が震える。

 きっと寒さだけではないはずだ。


「先輩と出会ったのは入学式の日だから、私のこの学校生活は先輩と一緒に始まりました」

 背中越しに感じる先輩が、少し強張っているように感じる。

 『好き』が『怖い』なんて、やっぱり寂しいと思う。

 だから、少しでもそうじゃないって思ってもらいたい。


「だから、と言っていいのかわからないですけど。

 私のここでの思い出にはいつもケイ先輩がいるんです。

 クールで、かっこよくて、いじわるで。

 でも、ふとした時に見せる可愛さだったり、おちゃめな所やちょっぴり弱い所だったり、そういう姿を見せてくれることがすごく嬉しくて。

 気がついたら、好きになってました」


 ふー、っと息を吐く。

 大丈夫、大丈夫。


「前に、先輩にとっての『なゆ』になりたい、って言ったことがあったと思います。

 なゆって、すごいんですよ。

 双子だから、っていうのもあるかもしれないんですけど、そばにいるだけで安心するんです。

 なにか大変なことがあっても、なゆがいれば元気になれるんです。


 私は、先輩にとってそんな存在になりたいな、って思うんです。

 でも、一つだけ。

 安心もして欲しいですけど、ドキドキもしてくれると嬉しいです」


 背中を合わせたまま、話し続ける。

 目線の先では、こぐま座流星群が降り続けている。

 がんばれ、大丈夫だよ、って言ってくれているかのようだ。


「ケイ先輩が、まだ『怖い』っていうのはわかっているつもりです。

 だから、今返事をください、とは言いません。

 いつか。

 もし先輩が『好き』を『怖く』なくなった時。

 その時に私を選んでくれるといいな、って。

 それまで、好きでいさせてください」


 全部、言えた……。

 心臓の音がバクバクと激しく鳴っている。

 耳の横にあるかのようだ。


「……ありがとう。

 いつか……いつか、かぁ」

「え、ダメですか?」

「ああ、いや、違う違う。

 『いつか』がいつになるかわからないのに……すばるんは、それでもいいの?」

「はい」

「すばるんのことは、もちろん嫌いなわけないんだけど、それが恋愛感情かどうかってことはまだ今は考えられなくて。

 そんな私なのに、本当にいいの?」

「はい」

「それに……私もすばるんも女だよ?」

「はい」

 迷いなく答える。


 それは、もうずっと考えていたことだ。

 『いつか』が来るかなんてわからないし、来ないかもしれない。

 もちろん、いつまでも来ないままなんて寂しいのはやだな、と思うけど。

 性別だって、なんの障害にもならない。

 

「そんな色々ひっくるめて。

 私の『想い』に変わりはないですよ」


「……あーもー、情けない先輩でごめん……」

「そんなことないです!

 そういう先輩だから、好きになったんです!」

「……あ、ありがと……」

「それに」

「『それに?』」

「その『いつか』ができるだけ早く来るよう、いっぱいアピールしちゃいます!」

「すばるん……強いね」

「……先輩のせい? おかげ? ですよ。

 恋する乙女は強いのです」

 言っててだんだん恥ずかしくなってきたけれど、いまさらだ。

 というか、だんだん吹っ切れてきた気がする。

「ふふ、そっか」

「そうです」

 笑う先輩の背中から力が抜ける。

 寄りかかる重みが増し、厚手のコートごしに熱が伝わってくるかのようだ。


 見上げた空には、いつの間にか雲がかかり、流れ星を見ることはできなくなっていた。

 私が気持ちを伝える所を、見届けてくれたのだろうか。

 折角だからみんなにも見せたかったけど。

「ん? 何かが……?」

 一瞬目の前をちらっと何かが横切った気がした。

 もしかして、本当に星が落ちて……くるわけないか。

 てことはこれ――

「雪だ……」

「……どおりで、冷えるわけね。

 部屋に、戻りましょうか」

「そうですね」


 椅子代わりの丸い台から降りると、先輩が横に並ぶ。

「手、つないでいいですか?」

「……寒いからね」

 すっかり冷えてしまった手を繋いで部室に戻る。

 たったの数歩の距離なのが、とても残念だった。


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