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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第10章 クリスマス
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第87話 告白

 天体観測部室のある屋上には、椅子代わりの丸い木の台がいくつか置いてある。

 大きさは、詰めれば4人座れなくもないくらい。

 円形なので、みんな外側を向いて座る感じになるんだけどね。

 『天体観測用』に用意されたものなので、並んでおしゃべりするというよりは、座って一緒に上を見上げるためのもの、といった感じだ。


 その一つに先輩が座って空を見ていた。

 部室のドアが開く音が聞こえたみたいで、ちらっとこっちを振り向いたけれど、また同じ姿勢に戻る。

「ケイ先輩、上着着ないと風邪引いちゃいますよ?」

 座ったままの先輩にコートをかけてあげる。

「ありがと。

 ……すばるんが持ってたところが、体温で暖かい……」

 肩にかけたままのコートをかき寄せて、少し丸くなる。

 一体どのくらいの時間ここにいたんだろう。

 空には雲ひとつなく、そのせいで余計に冷え込みが厳しい。


 振り向ことはなく、けれど無視するわけでもなく。

 そんな所に立ってないで座ったら、と声が聞こえてくるようだ。

 空を見上げたままの先輩の後ろに腰を掛けて、背中を合わせる。

 周りに遮るものもなく、街の中心部から少し離れた小高い丘の上にあるこの学校からは、本当に星空がキレイに見える。

「星、見てたんですか?」

「うん……」

 背中越しに先輩を感じる。

「きれいですね」

「そうだね」

 短い会話がぽつぽつと続く。

 沈黙の方が長いくらいだけど、居心地の悪さはない。


「もう、1年かぁ……」

 ぽつり、とケイ先輩がこぼす。


『何がですか?』


と、聞きそうになったところで危うく思いとどまる。


 ケイ先輩の友達が一個上の先輩に告白してかなり酷い振られ方をし、その後、逆に憎しみを抱くまでになってしまったという、あの出来事。

 それが、1年前のクリスマス。


「なゆちゃんから聞いたよ。

 クリスマスをいい思い出にしてほしい、って、すばるんが企画してくれたんだってね」

 ……なゆ、そんなこと言ったのか……。

「え、と。

 ま、まぁそういうことも考えてなくもなかった、というかなんといいますか……」

 うう、どう答えたらいいんだろう……。

「ふふ、ありがとうね」

「あ、いえ、はい……」




『怖気づきそうになったら、後ろから蹴ってあげる』

『ええ!? 蹴るの!?

 もう少し優しくしてよー』

『何いってんの、おねぇの場合それくらいしないと』

『ふふ、もうひどいなー』




 ふと、この間話したことが思い起こされる。

 なるほど。

 ちょっと怖気づいてたの、なゆにはお見通しだったわけか。

 ほんと、いい妹だよ……。


「まだね、よくわからないんだ。

 人を好きになる、ってどういうことなのか。

 私も、好きになった人を憎むようになっちゃうのかな、って怖くもあって。

 最初から誰も好きにならない方がいいのかな、とかも考えたりもした」


 二人で空を見上げたまま。

 ケイ先輩がゆっくりと話す。


「でも。

 トラ先輩も、ステラ先輩も、すみかも、なゆちゃんも、もちろんすばるんも。

 クラスの友達も、学校の先生も、両親も。

 みんなみんな素敵で。

 みんなみんな優しくて。


 今だって怖いけれど。

 けど、私も誰かを好きになりたい、って。

 そう思える1年だった、と……思う」


 再び訪れる沈黙。

 先輩は今どんな顔をしているんだろう。

 私は今、どんな顔をしているんだろう。

 見つめる星空が僅かににじむ。

 上を見ているおかげで、こぼれ落ちなくてよかった。


「あ……」

「ん?」

「流れ星!」

 目の端にスッと流れ落ちる光の筋。

 一瞬、私の目からこぼれ落ちたのかと思ったけど、そうではなかった。

「また! ていうかいっぱい!!」

 見上げる空に、次々と星が流れ落ちる。

「そういえば、今日あたりこぐま座流星群が見られるとか、朝のニュースで言ってたわね」

「そうなんですねー」

「……知ってて企画したんじゃないの?」

「……えっと、そういうことにしておいてください」

「ふふふ、すばるんらしい」

「えへへ」


 一つくらい掴めないかな? と思って手を伸ばす。

 ぐっと握る手のひらには、もちろん何もないんだけれど。

 その流れ星に、背中を押された気がした。


「ねぇ、ケイ先輩」

「なぁに? すばるん」

「私……ケイ先輩のことが、好きです」


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