第84話 わがまま
ケイ先輩に気持ちを伝える、ということは決めた。
『いつ』についても、自分の中では決めてある。
けど……
「本当にいいのかな……?」
「ん? なんかわからないとこあった?」
「あ、ごめんなゆ、違うこと考えてた」
いけないいけない。
今は期末試験に向けての勉強中だった。
せっかくなゆがわからないところ教えてくれる、って時間とってくれてるんだし、集中しないと。
って思うんだけどね。
やっぱりどうしてもケイ先輩のことを考えてしまう。
「おねぇ?
なんか、全然集中できてないね?
一学期の期末みたくなっちゃうよ?」
「うぐ……」
わかってはいるんだけど……。
「ケイ先輩のこと?」
「うん……あ、いや、えと、違くて!」
「…………」
思わず頷いてしまったのを、なんとか誤魔化そうとしてみたものの。
なゆには通じるわけもなく。
「……違くないデス……」
「で?
何かあったの?」
ノートに走らせていたペンを置き、『じっくり話を聞くからちゃんと話しなさいモード』になゆが切り替わる。
とても親身に聞いてくれる反面、ちゃんと話すまでは絶対に譲らないありがたくも厄介なモードだ。
「えっと……」
そして、昨日の出来事を洗いざらい話すことになった。
◇
「え? 泣いたの!?」
話し終えるなり、なゆに驚かれた。
「うん……」
かくいう私自信が一番びっくりしたんだけどね。
「それでなんか気まずくなった、とか?」
「いや、そういうのは全然。
『頑張ったんだね』って頭撫でてくれた」
「……じゃあ、なんで上の空?」
「それは……」
再び私の眼が泳ぎだす。
けど、すーっとあらぬ方向を向きかけた顔を、なゆの両手がガシッと掴む。
「『それは』?」
にっこり、と笑顔だけど眼が笑ってない。
有無を言わさぬ圧があるよ……。
「私ってさ。
ケイ先輩のこと、好きなんだよね」
「うん?」
そんなこと知ってる、って顔で返される。
けれど変なチャチャを入れて来ないあたりさすがのなゆだ。
「この間、マキちゃんにも見てたらバレバレなレベルだよ、って言われたんだよ」
「だろうね」
……そんなにわかりやすいか、私……。
「ただ、ね。
告白とかは、『いつか』でいいかな、って思ってたんだ。
ほら、去年いろいろあってからまだ1年たってないわけだし」
去年のクリスマスに、ケイ先輩の友達が一個上の先輩に告白して、かなり酷い振られ方をした。
しかもその後、逆に憎しみを抱くまでになってしまった姿を、すぐ側で見ていたという。
直接ケイ先輩に何かがあったわけではないけれど、それなりに近くにいたからこそ、ケイ先輩は『人を好きになること』が怖くなった、と言う。
きっと、今でも心の傷として残っているんじゃないかな、と思うことがたまにある。
「だから、その『いつか』は、遠い未来でいいや、って思ってたんだ。
なんなら伝えなくてもいいかな、って。
それにね、『恋人』になりたいのか? って聞かれたら、きっとそれは『NO』ではないんだけど、じゃあ『YES』か? ってなるとそれはそれで違う気がして。
でもね……それでも、気持ちを伝えるくらいはしたいな、って思うようになったんだ。
きっかけは、スミカ先輩の舞台。
想いを伝えたくても伝えられなくて苦しんでる姿を見てたら、私はただあれこれ言い訳して伝えることから逃げてるだけなんじゃないかな、って。
まぁでも、それでもまだ『いつか』だったんだけどねー」
話をしながら、だんだんと自分の頭の中が整理されていくのを感じる。
なゆは私の言うことを丁寧にうなずきながら聞いてくれる。
「『いつか』は来そうなの?」
少し黙り込んでいると、なゆが聞いてくる。
「うん」
そうだ。
その、いつかが、眼の前に来ているんだ。
「卵焼きをね、美味しいって言ってくれたの」
「うん」
「それがね、すごく嬉しくて、思わず涙があふれるくらいに嬉しくて」
「うん」
「この気持ちを伝えたいって思った。
だから――
クリスマス会の日に、告白しようと思う。
ケイ先輩にとって、つらい思い出の日なのは知ってる。
けど、この先ずっと思い出して辛い気持ちになってほしくない。
それに、『人を好きになること』は本当は素敵なことなんだ、って、伝えたい。
応えて欲しいわけじゃなくて、ただ伝えるだけ伝えたいんだ。
まぁ、私のわがままなんだけどさ」
こぼれそうになる涙をぐっとこらえていると、なゆがそっと手を握ってくれる。
「おねぇの気持ち、伝わるといいね」
「うん、ありがとう」
「怖気づきそうになったら、後ろから蹴ってあげる」
「ええ!? 蹴るの!?
もう少し優しくしてよー」
「何いってんの、おねぇの場合それくらいしないと」
「ふふ、もうひどいなー」
握られた手からなゆの暖かさが伝わってくる。
ほんと、こんな心強いことはない!
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