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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第10章 クリスマス
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第83話 タイミング

「と、いう感じなんですけど、ご都合どうですか?」

 翌日のお昼、部室でご飯を食べていると珍しくケイ先輩が顔を出してくれた。

 個人的にはもっとちょくちょく来てほしいなぁ、なんて思っちゃうけど、生徒会のお仕事も忙しいだろうしそこまでわがままは言えない。

 こうして、たまに顔を出してくれるだけで十分なのだ。


 そんなナイスなタイミングで現れたケイ先輩に、昨日決まったばかりの『天体観測部クリスマス会』についてのお誘いをしたところだ。

「23日だったら……うん、大丈夫、何もないわ」

「よかったですー!」

 ……ん?

 23日『だったら』?

 え、てことは、クリスマスは予定がある……の??

「あの、クリスマスは何かあるん……ですか?」

 う、緊張してちょっと詰まってしまった。

「ふふ、実はデートが……」

「え!?!?!?」

「ないわよ、そんな予定。

 って、驚きすぎ、ちょっと失礼じゃないのー?」

 少しふてくされた感じで言う先輩は可愛い……じゃなくて。

 そりゃ驚くに決まってる。

 なんでか、って聞かれても言えないけど。

「ごめんなさい……」

「ああもう、冗談よ。

 怒ってるわけじゃないからそんな顔しないの」

 う、なんかかえって困らせちゃった……。

 って、これで更に落ち込んだら余計心配かけちゃう。

「えと……で、なにかご予定なのですか?」

「ああ、うん。

 毎年ね、家族で過ごすことになってるのよ。

 特に父がね、やたら張り切っちゃって……」

「確か大学の先生でしたっけ?」

「そ。

 なんかね、この時期忙しいはずなのに、毎年これだけは! って言っちゃってねー。

 家のイルミネーションとかまでやりたがってて、さすがにソレは止めたんだけど。

 そんなわけだから、さすがにそれを放っていったら一生文句言われそうで」

 困ったものよ、なんて言いながらもちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 お仕事忙しくて、なかなかゆっくり話せない、って前に言ってたもんなぁ。

「伊織音先生も見回りで23日しかあいてない、って言ってたので、ちょうどよかった感じですね」

「そうかもね」


ピコン


 そんな話をしていると、ちょうど、トラ先輩とステラ先輩からも返事が来て23日ならOKとのことだった。

 24、25は二人っきりで過ごすのだそうで……いやぁ、冬だというのにお熱いことです。

「ふふ、ほんとにベストな日取りだったみたいね」

「ほんとですね!」


「ところで、ケイ先輩」

 話が一段落した所で、折角先輩が来てくれたのでもう一つお願いを。

 ちょうど、と言ったら怒られちゃうけど。

 マキちゃんたち三人娘は、今日は学食へ行くと言っていたので二人っきりだしね。

「あのですね。

 ちょっとお願いが……」

「ん? なぁに?

 テスト勉強見て欲しいの?」

「あ、それもありますけど、それじゃなくてですね」

 というか、テストの話はワスレタイ……。

「あの、この卵焼き食べてみてもらえますか?」


 今日はちゃんと早起きできたので、お弁当の卵焼きは私作。

 しかも、自分的に会心の出来、と思うくらい焼き目もきれいだし巻きも崩れていない一品(お母さんにも褒められた)。

 いつか食べてもらえたら、と思ってはいたけれど。

 どうせ食べてもらうなら、自分でも良くできたと思うものを食べてもらいたい。

 かなり悩んだけれど、さっき一口食べてみて我ながらすごく美味しかったし。

 ってことで、すっごくドキドキしながら切り出してみたのだ。


「よくわからないけど、食べたらいいの?

 なんか変なものが入ってる、とかではないわよね?」

「大丈夫です。

 ちゃんと美味しいはずです、たぶん」

 ふわっとした物言いになってしまって、少し不思議そうに見られてしまった。

「まぁいいわ。

 すばるんが変ないたずらすることもないだろうし。

 じゃあ、いただきます」

 スッとお箸が伸びて、私のお弁当箱から卵焼きをつまむ。

 ゆっくりと口に運んで……って、凝視してたら食べにくいよね。

 気になりつつも、目線をそらす。

 その間にも、私の卵焼きがケイ先輩の口に入り……。


ごくん


 飲み込む音が聞こえた気がした。

「あら、この卵焼き美味しいわね。

 すばるんの家はすこし甘めなのねー」

 どう? と聞く前に美味しいと言ってもらえた。

 あ、どうしよう。

 すごく嬉しい……。

「ちょ、ちょっとすばるん??

 何、どうしたの!?」

「え??」


 気がついたら、涙が一筋こぼれていた。

「へ!?

 なにこれ!?」

「そんなの、こっちが聞きたいわよ。

 何がどうしたの?」

 そっとハンカチで涙をぬぐってくれる。

 まさか自分が嬉しすぎて泣くことになるとは思わなかった。

「いえ、あの、実は……その卵焼き、私が作ったんです。

 自分ではすごく良くできたな、って思ってて。

 お母さんも褒めてくれて。

 あ、母もお世辞を言うような人じゃないのでちゃんと美味しいんだと思ってはいたんですけど、それでもやっぱり家族の贔屓目があるんじゃないか、って思ってて。

 でも、ケイ先輩が食べて美味しいって言ってくれて、それで、その、すごく嬉しくて……」

 自分でもだんだん何が言いたいのかわからなくなってきてしまった。

 話しながらどんどん涙がボロボロこぼれてくるし。

 ケイ先輩は、ちょっとだけ困った顔をしながらも話を聞いてくれて。

「すごく頑張ったのね」

 なんて言いながら頭をなでてくれて。

 そしたら余計に涙が出てきちゃって。


 ああもう。

 大好きな人に美味しいって言ってもらえることって、こんなにも嬉しいんだなぁ、ってことがよくわかった。

 そして。

 本当に、本当に、ケイ先輩のことが自分の中でとても大きくなっていることを改めて思い知った。

 マキちゃんにも即答されるくらい、周りにもバレバレみたいだしね。


 きっと。

 今日ケイ先輩がお昼に来てくれたことも。

 今日の卵焼きがこれまでで一番の出来だったことも。

 今日のお昼に他に誰も部室に来なかったのも。

 そういうタイミングだったのだと思う。


 だから。

 この気持をちゃんと伝えよう、と。

 伝えたい! と。

 そう、思った。


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