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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第9章 生徒会選挙
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第75話 前日

 ――立候補受付期限前日。

 その放課後、いつものように生徒会室にケイ先輩に会いに…………じゃなくて、なゆを迎えに行く途中、ふと掲示板に貼ってあるポスターが目に入る。

 立ち止まって見るまでもなく、ここ数日ずっと見ているものだ。


『生徒会長選挙 立候補者、推薦者は期限までに生徒会室へ』


「選挙、選挙かー」

 つい口に出してしまう。

 昨日の夜なゆに話を聞いたところ、今のところケイ先輩以外に候補者は出ていないとのこと。

 スミカ先輩もまだ推薦を受けるかどうかは回答してないらしい。

 それどころか、あれ以来生徒会室に来ていないとか。

 食堂とかで見かけるので、学校には来てるみたいだけど。

 昨日廊下から外を眺めている所に通りかかったけど、なんとなく思い悩んでいるようだったし、まだ決めきれていないのかな。

 もういっそのこと、二人でやったらいいのに!

 って、そうもいかないか。


「おねえ、どうしたのそんな所で?」

「あれ? なゆ。

 早いね」

 掲示板前で立ち止まっていたら、お迎えに行くはずの人が来てしまった。

「選挙が始まるまではあんまりやることないから。

 受付だけだから一人で大丈夫よ、ってケイ先輩が」

「んー、そっかぁ」

 となると、私が行くのも変だよねぇ。

 なゆとも合流したから、お迎えって理由(口実)もないし。

 残念……。

「――言ってたんだけど、細々とした作業はあるはずだから、おねえ行ってお手伝いお願いできる?」

「え? え??」

「私は、ちょっと欲しい本があるから本屋行きたいし。

 よろしく」

「……うん、ありがとう!」

 今日は会えないかな、なんて思ってた所だったので、そのドヤ顔は見なかったことにしてあげよう。

 まったくもう。



コンコン

ガラガラッ


「こんにちは~」

「ふ~んふふふ~~♪

 ……す、すばるん!?」

 生徒会室のドアを開けると、ケイ先輩がファイルの整理をしていた。

 ……鼻歌を歌いながら。

「聞いた……??」

「えーっと……」

 顔を赤くしてる先輩かわいいなぁ、とか思いつつ、どうやってごまかそうか考えてみたものの……

「はい……」

 無理だった。


「ああああ、もう、どうしてこうすばるんはタイミングが悪いかなぁ」

 給湯室でお湯を沸かしている間に、先輩に睨まれる。

 といっても、本当に怒っているわけではないのでなんだか可愛いなぁ、としか思えないけど。

「えー? そんなことないですよ?

 てか、先輩って歌上手なんですねー」

 もうちょっと聞きたかったなぁ、なんて言ったら本当に怒られそうだから言わないけど。

「もう良いでしょ、その話は。

 どうせ誰も来ないと思って油断してたわ……」

 普通は立候補者なんていない、って言ってたしね。

「そういえば、ここの所トラ先輩たち見ないですけど、やっぱり3年生は忙しいんですかねぇ」

「そうねぇ。

 受験する人たちは大変そうよね」

「やっぱりそうなんですね~」

「でも、トラ先輩とステラ先輩は内部進学って言ってたから、そこまでではないはずよ。

 というかね、そもそも3年生は選挙には関わらないのよ」

「そうなんですか?」

「もう引退する側だからね。

 新しい会長が決まり次第、引継して退任式を行っておしまい」

「そうなんですねー」

 引退、かぁ。

 わかっていたことではあるけど、なんだか寂しいな。


「あの……」

「ん?」

「……スミカ先輩は、来てないんでしたっけ?」

「ええ……あれから一回も」

 ちょっと寂しそうな、なんとも言えない表情のケイ先輩。

 なんとなく触れちゃだめかな、なんて思ってたけど。

「スミカなりに考えている、ってことなのだと思うから……」

「先輩……」

 思わず手を握ってしまう。

 こういう時、なゆならきっとこうするだろう、って思ったら勝手に動いていた。

「すばるん……ちょっと、話を聞いてくれる?」

「はい」


 温かい紅茶を手に、椅子に座る。

 先輩は横だ。

 両手にカップを持って、一口飲んでから話し始める。

「私とスミカが幼馴染なのは言ったわよね」

「はい」

 確かお泊り会の時だったかな。

 病院も同じだった、とか言ってた気がする。

「あの子ね、ああ見えて小さい頃はすごく人見知りだったのよ」

「え!? あのスミカ先輩が!?」

「ふふ、びっくりでしょ?

 私の後ろに隠れながらずっとついて回っていたのよ」

「想像もつかないですね……」

 やぁ仔猫ちゃん、とか言いながら道行く女の子にキャーキャー言われている姿からは程遠い。

「ね。

 どこに行くのも一緒、私が何かするとすぐに真似して。

 何でも一緒にやったのよ」

 ケイ先輩はどこか遠くを見るかのように前を向いたまま話を続ける。

「でも、すぐに飽きちゃうのよね、スミカは。

 結構器用だから、ちょっとの練習で出来るようになっちゃうんだけど、出来るようになるとやめちゃうの。

 器用貧乏なだけで、一つのことを極めようとしている人には敵わないから、とか言っちゃってね」

 私は逆に不器用だから、なんでもできちゃう、ってのはなんとも想像できない。

 出来る人は出来る人で大変なんだなぁ……。

「でもね。

 本人が気づいているかどうかは、わかんないけど。

 本当の理由は違うのよ」

「本当の理由、ですか?」

「あの子ね。

 私より上手にできるようになると、やめちゃうのよ。

 なんでもそう」

「…………」

 なんて言っていいかわからず、お茶を口にする。

 いつの間にか温くなっていた……。

「そうこうしているうちにね、気がつくとあんな(・・・)感じになっていてね。

 人にも物にもコトにも、距離を置いているような感じがして。

 この間の舞台の主人公みたいに、みんなの中にいるのに一人ぼっち、みたいな……」

「そんなことっ……そんなこと……」

 ない、って言い切れるほど、私はスミカ先輩を知らない。

 だからって気休めを言うのも何かが違う気がした。

「私があの子の可能性にフタをしてしまっていたのかな、って……」

「ケイ先輩……」


 先輩は両手でカップを包むように持ってまま、前を向いている。

 一体何が見えているんだろう。

 そこには私の知らない時間が流れているんだろうな、と思うとちょっぴり寂しいけど、それがケイ先輩とスミカ先輩の過ごしてきた時間なんだろう。

 少しの間そうしていたかと思うと、一口お茶を飲んでこっちを見る。

 いつもの、でも、ちょっとだけ寂しそうな笑顔だ。

「ふふ、ごめんね。

 ちょっとしんみりしちゃって」

「い、いえ」

「だからね、成り行きとはいえあの子が自分から舞台にあがって、そのせいで生徒会長へ推薦されて。

 その上で、ちゃんと自分で考えているのがなんだか嬉しいのよ。

 私の後ろをついてくるんじゃなく、横に立って一緒に歩いてくれてるのが、ね」

「なんだかステキですね」

「そう?」


 幼馴染、かぁ。

 双子の姉妹(私となゆ)とは似ているけどやっぱり違う、そんな関係。


「はい、ちょっと……羨ましいです」

「ええ? なにそれ、ふふ」




 ――翌日。

 スミカ先輩が来て、推薦を受ける、といって帰ったそうだ。


いつも応援ありがとうございます♪

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今回のお話は、前回のお話と対になっています。

スミカのケイへの想いとは違いますが、お互いにお互いを思い合う関係はいいですよね。

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