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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第9章 生徒会選挙
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第74話 一週間

今回はスミカ視点のお話です。

「ただいまー」

「あらおかえり、今日も早いのね。

 生徒会はまだお休みなの?」

「うん、今はやることなくてー」


 あれからすでに6日。

 明日には推薦を受けるかどうか答えを出さないといけない。

 けど、未だにボクの気持ちは決まらない。


トントントン

ガチャッ


「…………ふーー!」


ボスン


 2階の自分の部屋に戻るなり、着替えもせずにベッドに突っ伏す。

 選挙、選挙かー。

 ずっと考えてるけど、やっぱりわからない。

 生徒会長にはケイがなる。

 ボクはその隣でお手伝い。

 何も変わらない、今までもこれからも同じ。


 ボクのいるべき場所はケイの隣で。

 ボクが当選してもケイは手伝ってくれる、って言ってたから、そういう意味では『隣』であることは同じなんだけど。

 それは、ボクがケイの横にいるのではなく、ケイがボクの横にいてくれる、ということで。

 同じようだけど……なにか違う。


 あーー!! もー!!!

 枕に顔を埋めながら声をあげる。

 足をバタバタさせて……たら、お母さんに怒られてしまった。


「すみかー!

 うるさいわよー!」

「ごめんなさーーーい!」




 ……ボクはどうしたいんだろう?

 小さい頃からケイの横にいた。

 けど、もしかして、ただ後ろをついて歩いていただけなんじゃないか?

 すっと手を引かれて、ただ後ろを歩いているだけだったんじゃないか?

 ふとそんな考えが浮かんでくる。

 なんて、昔からなんとなくはわかっていた。

 ……ずっと、気づかないふりをしていただけだ。


『あなたの作る学校も面白そう』


 か。

 ……ボクは、どうしたいんだろう。

 どんな学校にしたい? って言われても、そんなこと考えたこともない。

 それは、ケイの横にいたい、ではダメなのかな?


 ……ダメなんだろうな。

 たぶんだけど、ケイは『横においで』って言っているんだろう。

 それは期待されている、ってことなんだと思うし……嬉しいけれど、逆にいえば、後ろをちょこちょこついていっているだけじゃダメだって言われているんだとも思う。


 横、かぁ。

 それはどういうことなのかな。

 友達として? ライバルとして? それとも――


『180人もの仔猫ちゃんの声は無視するには大きいんじゃない?』


 確かに、仔猫ちゃんたちは可愛い。

 というか、仔猫ちゃんたちに関わらず、女の子はみんな可愛い。


 ファンだって言ってくれるのは純粋に嬉しいし、好意を向けられて嫌な人なんていないだろう。

 とはいっても、じゃあお付き合いしてください、と言われてもそれはまたそれ。

 ボクはよく女の子に告白されるけど、可愛いからといって、そうしたいとまでは思わない。

 そもそも『付き合う』っていうのがどういうものなのかもわからないし。

 デート、なんて、別に付き合わなくたってできるでしょ?

 一緒に買い物に行くくらいならいくらだって『付き合う』けど、そういうことじゃないんだよね?


 あ、でも。

 それが、ケイなら?


 …………!?


 いやいやいやいや。

 まてまてまてまて。


 今、何を考えた?

 ボクと? ケイが?


 ありえないありえない。


“……本当に?”


 もちろん、当たり前じゃないか。

 小さい頃からいつも一緒で、今更そんな……。

 それに……


 今、ケイが見ているのは、ボクじゃないって、知ってるじゃないか。

 1年前、すみれ先輩の事があって、人と向き合う事にひどく臆病になっていた、あのケイが。


 今見ているのは、ボクじゃ、ない……。


 やっと、変わり始めてきたんだ。

 やっと、前を向けるようになってきたんだ。


 そう、それで。


 ボクは。

 それが、そのきっかけが。

 ボクじゃなかったことが。

 悲しかったんだ……。


「あああああああああああああああ!!!!」

 急に涙が溢れてきた。

 溢れて溢れて止まらなくなってきた。

 声が漏れる。

 喉が痛い。

 なんで?

 ダメだよ、また怒られちゃう。

 なんでこんなに悲しいの?


「スミカ! いい加減にしなさい!」

 ほら、お母さんが来ちゃった。

「あ……う……」

 なにか言わなきゃ、と思って顔を上げるけど、なにも言葉にならない。

 自分でもわかる、ひどい顔をしている。

 溢れる涙はちっとも止まる気配はない。

「ご、ごめ……なさ……」

 自分ではどうしようもなくて、また枕に顔をうずめてしまう。

 ゆっくりとお母さんが近づいてくる気配がする。

「…………」

 もっと怒られるかと思ったけど、お母さんはそっと横に座って頭を撫でてくれた。

「あああ………あああああああああ!!!」

 それが余計に悲しくて、暖かくて……。

 何も聞かないでいてくれる事が、すごく嬉しくて、けれど悲しいことには変わりがなくて。

 泣いて泣いて、泣いて泣いて。

 ずっとフタをしていた気持ちにようやく向き合うことができた。


 ボクは、ケイがどうしようもなく好きだ。

 

 小さい頃からずっと一緒にいた。

 これからもずっと一緒だと信じて疑わなかった。


 ボクは、ずっとずっとケイが好きだった。


 でも……。

 フタをして、閉じ込めている間に。

 その想いはもう届かないものになってしまっていた……。


 ごめんね『ボク』、臆病でごめん……。


 その日。

 ボクの初恋は、気づいたと同時に、失恋となった……。




 ああスピカ。

 ボクはキミの気持ちがよくわかるよ。

 デネボラへの一つの愛を選べずに愛を振りまいて。

 最後の最後に気づいた時にはもう遅くて。

 一番大事な愛を失ってしまう。

 ボクたちは本当に臆病だった。

 遠い遠い彼方の遠い遠いキミを、こんなにも近くに感じるよ。


 ああスピカ。

 ボクたちは、ボクは……どうしたらいい?

 キミは王様になった。

 じゃあボクは?




 ――翌日。

「推薦、受けます」

 ボクは、ケイの隣に立っていたい。

 手を引かれることなく、自分の足で。

 ボクも、前に進もう。


いつも応援ありがとうございます。

気に入っていただけたら、評価やブックマークをお願いします。


やっとこの話が書けました。

実を言うと、第二部はスミカのお話でもあるのです(もちろん主人公はすばるですが)。

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