番外編4 1年前の文化祭
今回は番外編です。
番外編になると、この二人が書きたくなりますね♪
それは今からおよそ1年前の話。
秋の足音が聞こえてくるこの時期、校内は私立流星大付属女子校学園祭、通称『流星祭』の準備で賑わっていた。
どこもかしこも慌ただしい雰囲気が満ち、普段とは違う空気が学校中を支配していた。
ここ、生徒会室もそんな喧騒に包まれた場所の一つだ。
「よく学び、よく遊べ」の校風の元、イベントごとの多いこの学校。
ただでさえ忙しい生徒会にとっても、年間で1,2を争う大きなイベント。
各クラスから選出された文化祭実行委員と手を合わせ、毎日夜遅くまで明かりが消えることはなかった。
「じゃ、行ってきまーす」
「行ってきますね」
「うん、よろしくお願いね」
生徒会室より二人の生徒が出てくる。
今日はパンフレットの表紙の撮影日だ。
文化祭のパンフレットとはいえ、学園長のツテでスポンサーが付くため非常に本格的なシロモノで、プロのカメラマンによって撮影されるのが恒例となっていた。
同時に、モデルは学園の生徒であることも恒例であり、その年によって自薦なり推薦なりで決定する。
今年のモデルは、2年生の根本エレクトラと同じく2年生のアレサンドラ・ステラである。
金髪と銀髪の二人は、校内では知らぬ人はいないほどの有名人であり、外国の血を濃く受けた容姿により満場一致で決まったのだ。
二人が並んで校門までやってくると、1台の高級車が止まっていた。
横には執事と思わしき初老の男性が立っている。
「じぃ、お待たせ」
「お世話になりますわ、セバスさん」
根本家執事の『瀬田』である。
ステラとも親交のある間柄ではあるが、元来いたずら好きである彼は初対面時に『セバスチャン』と名乗っており、今現在でもその本名は明かされていない。
『明かされていない』というか、本人は告げたつもりでいるので(その上でセバスと呼んでいると思っているので)、何かがない限りは伝わることはないだろう。
実際、その勘違いは、エレクトラが『じぃ』と呼んでいることもあってか、真実が告げられるまでもう1年の時を要することになるのだった。
「ほっほ、お嬢様方をお待ちする時間はあっという間ですからお気になさらず」
「もう、セバスさんってば」
「……ステラ、これ、まじで言ってるから……」
「そ、そうなの!?」
「ほっほっほ」
車を走らせること10分とちょっとで、『篠崎撮影スタジオ』に到着した。
写真家『篠崎 信』の事務所兼撮影スタジオである。
駅を挟んで流女(流星大付属女子校の略称)と反対側にあり、閑静な住宅街の真ん中に突然現れる大きな倉庫のような建物は、アンマッチなようで妙に溶け込んでいて面白い。
若い女の子が入れ替わり立ち代わり訪れているため、一時期妙な噂にもなったようだが、家族の記念撮影なども手がけるようになって以降、住民からも受け入れられているとのこと。
スタジオに入ると、あごひげによれよれの格好をした胡散臭い男が準備をしていた。
篠崎本人である(あらぬ噂がたっていた原因の大半はこの風貌のせいではないかと言われている……)。
「お、来たね。
今日はよろしくねー」
「あ、篠崎さん。
こちらこそよろしくお願いします」
「おねがいしゃーす!」
「うーん、打ち合わせの時も思ったけど、ホント二人美人だよねぇ……」
マジマジと二人と見つめて言う。
「ステラはともかく、俺はぜんぜんですよ。
なぁ、ステラ?」
「ト、トラ!?
なん言いよっとね!?」
「いやいや、エレクトラちゃんも十分美人だって。
ま、色々準備してあるからさ、あっちで着替えておいで」
「ほーい」
「ちょ、ちょっとトラー!」
顔を赤くするステラをよそに笑いながら歩いていくエレクトラ。
後ろから追いついたステラに背中をぽこぽこ叩かれているが、どこか楽しそうだ。
「ふむ。
美人の二人が仲良さそうに歩いているシチュか……うん、いいね。
おーい、三咲くん。
イメージボード持ってきてくれるー?」
◇
「うー、篠崎さんさー。
どうしてもこの格好じゃなきゃダメ??」
「えー? いいじゃない。
素敵よ、トラ」
「う、ステラにそう言われると……って、ニヤニヤしないでください」
「あっはっは、そりゃ無理な相談だ」
着替えて戻ってくるなり、エレクトラが篠崎に文句を言う。
原因は衣装そのもの。
ボーダーのシャツにゆったり目のアウター、膝丈のボックススカートが合わされている。
全体的にモノトーンの色味が落ち着いた印象を与え、エレクトラの中性的な顔立ちによく似合っている。
ステラに褒められるのは悪い気はしないが、普段から制服以外でスカートを履くことがないため妙に落ち着かないのだ。
「この格好なら、スカートじゃなくてもいいと思うんですけどー」
「いやいや、そこにパンツを合わせると、ボーイッシュになりすぎちゃうんだよ。
男役をやってほしいわけじゃないからね、だからスカートだけはハズせない」
「むぅ……」
ちらりと横目にステラを見る。
こっちはこっちで、主張しすぎないフリルのあしらわれたブラウスに薄いピンク色のカーディガン、ロングスカートは歩くたびにふわふわと揺れてとても女の子らしい仕上がりだ。
「二人並ぶと、最高の組み合わせになるように考えてるあるから、ね!」
「ふふふ、諦めなさい、トラ」
「……はぁ、わかったよ」
「じゃあ、始めるよ。
とりあえず……んー、自由に動いてみて」
場所を外に移して撮影が開始される。
「自由に、ったってなー」
「そうねぇ、どうしたらいいかしら?」
撮影慣れしていない二人としては、何が求められているかもわからず困惑してしまう。
周りを見渡しても何もない。
「とりあえず歩いてみっか」
そう言うと、ステラの手を引いて歩き出すエレクトラ。
場所はスタジオの裏手にある空き地だ。
どこか目的地があるわけでもなく、だからといってただボーッと立っていても埒が明かないので、ひとまず動いてみようとそれだけのことだった。
しかし、さっさと一歩を踏み出したエレクトラに対し、どう動こうか悩んでいたステラは動き出しのタイミングが合わず、慣れないヒールと整備していない空き地のWパンチによって一歩目から躓いてしまったのだ。
「ひゃあっ!」
「っと!」
つないだ手からステラの危機を察知し、危うく転びそうになった所を抱きとめる。
「わ、わりぃ……」
「もう、いつもトラはそうなんだから」
自然と向き合う形で見つめ合う。
さっきまでの困惑もどこかへ吹き飛び、いい雰囲気だ。
カシャッカシャッ!
「うん、いいね」
その瞬間を逃さず、シャッターを連射する篠崎。
「あ……」
一瞬撮影を忘れていたステラが、その音に気づき顔を赤くして離れる。
「あれ?
今のよかったのに、もっとくっついて!
なんならギュッとしてもいいよ!」
シャッターを押す手を止めないまま、篠崎が声をだす。
「そ、そげん恥ずかしか事やらんよ!!」
「そう言わず!」
「せん、っちゃ!」
「ぷっ、あはは。
ステラ、いつもの出てるぞ」
思わず博多弁になるステラを見て笑うエレクトラ。
「あっ……!」
ただでさえ赤い顔を更に赤くしてうつむくステラ。
「……ふふ、もうなんねこれ」
けれど、それが少し緊張の残っていた顔から力が抜けることに役立ったようで、表情がゆるむ。
カシャッ!!
その瞬間が切り取られ、パンフレットの表紙を飾ることとなった。
慈しむように笑う金髪の乙女と、少し恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を浮かべる銀髪の乙女。
この画像がHPにアップされるや否や、一部で大きな話題となり、フリーエントリーの応募が爆発的に増えたのだった。
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