第68話 スピカ(前編)
前後編でお届けします。
全ての窓には暗幕が貼られ、外からの光が遮断されている。
さっきまでザワザワしていたのが嘘のように静けさが広がっていく。
ゆっくりと幕が開き、照明が付くと同時に華やかな音楽が流れ、舞台上では総勢20名での優雅なダンスが始まる。
色とりどりのドレスを来た演劇部員たちは、今だけは城の舞踏会に招かれた淑女たちだ。
相手をする男装の部員たちは、これはこれで綺羅びやかで、どこかの貴族なのだろうと思う。
さほど狭くはない舞台ではあるけれど、10組の男女がダンスをするにはさすがに足りない。
それなのに、お互いにぶつかり合うことなく、時には相手を変え時には壁際に下がり、見事な動きを見せていた。
お話としては、王子の誕生日パーティの場面。
そこへ、一人の男装の麗人――スミカ先輩が現れることで、物語が始まる。
◇
「やぁみんな、今日は僕のためにありがとう」
王子の登場に合わせ、音楽が変わる。
とりどりに踊っていた男女が離れ、王子に向かって礼をする。
「おめでとうございます、スピカ王子」
「この度は大変良い日に恵まれましたな」
「お招きいただきありがとうございますわ」
などなど。
口々にお祝いの言葉や感謝の言葉などを述べていく。
そんな中、一人のふんわりとした雰囲気の女性が王子へ近づいていく。
「スピカ王子……」
背の低い彼女は、スッと両手を握ったかと思うと、少し上目遣いで見上げるようにしながら距離を詰める。
「王子がお生まれになった奇跡を祝う今日この日。
直接お祝いを申し上げることができ、大変嬉しく思いますわ」
「キララ姫……」
見上げる瞳を見つめ返す王子。
少しずつ距離は近づいていき――
「王子!
わたくしからもお祝いを!」
「いいえ、先に私が!」
「何をおっしゃいますの、あなたは後でよくってよ!」
いい雰囲気になるかと思いきや、次から次へ群がってくる女性陣。
相手をしていた男たちは既に眼中から外されてしまったようで、それぞれがお互いに顔を見合わせては肩をすくめていた。
「はっはっは。
お嬢様がた、そう慌てなくても僕は減ったりしませんよ」
姫に握られていた手をさり気なく離し、皆に振り返る王子。
けれど、悪い気はしていないようでその顔は満面の笑顔だ。
大きく手を広げ、みんなおいで、とでもいい出しそうな雰囲気だ。
これに怒りの声をあげたのは、あと少しで良い雰囲気になりかけていた姫。
「なんなんですの!
今わたくしがスピカ王子へお祝いを申し上げていたんですのよ!!」
「キララ姫、抜け駆けは許されないですわよ!」
「そうですわそうですわ!」
やいのやいのと騒ぎ立てる彼女たちの喧騒に、スピカ王子はにこやかな表情を崩さずに相手をしていく。
一人一人手を握り、よろけたフリをして抱きつき(その都度他の子たちに引き離され)、笑顔を交わし、舞台からはけていった。
――暗転
再び明かりが戻ると、そこはこれまでいた城内ではなく、背景の雰囲気からして庭か何かのようだった。
「ふぅ、やれやれ。
お嬢様方には困ったものだ」
少し後ろを振り返るようにしながら、スピカ王子が現れる。
どうやら先程の『お姫様がた』から逃げおおせたようだ。
「それはあなたが誰彼構わず愛想を振りまくからではなくて?」
すると、今度は舞台の逆側から一人の女性が出てくる。
キッと釣り上がった目に強気そうな表情。
先程までの子たちと比べると、いささかシンプルな、けれどきっちりとポイントを押さえた装飾がきらめき、身につけたアクセサリーが非常に上品な雰囲気を出している。
ふわっとウェーブのかかった髪を勢いよくかきあげ、その手は腰に当てられる。
見た目のお淑やかさとは真逆の動きだ。
「いつも言っているけれど、その軽薄な態度を改めないといつか痛い目を見ますわよ?」
キツイ口調で睨みつけるような表情。
けれど、なんとなく王子を心配していることが伝わってくる。
「デネボラ、そう怖い顔をしないでおくれよ。
美しい顔が台無しだ」
お構いなし、といった感じでデネボラの手を取ろうとする王子。
さっきまでの『よそ行き』の雰囲気はない。
気心を許した相手、といったところか。
「スピカ……?
わたくしは怒っているんですのよ?」
手を取られたことで、怒った顔が少し緩んだけれど、それを取り繕ったまま続けるデネボラ。
「わかっているさデネボラ。
ボクを心配してくれているんだろう?」
握った手をくいっと引き寄せ、そのままキスをするんじゃないか!? ってくらいに顔を近づけて王子がささやく。
「だ、誰があなたの心配なんか!」
けれど、彼女はその手を勢いよく振り払い、
「いっそ誰かに刺されてしまえばいいのですわ!!」
と言って、もと来た方へ走り去っていってしまった。
「はは、まいったねこれは」
少し寂しそうに見送る王子の後ろに、メイドさんのような格好をした人が近づいてくる。
「自業自得ですね」
「カリナか……厳しいな」
一歩下がった所で止まるカリナ。
「いまさらお坊ちゃまに気をつかっても」
「……お前くらいだよ、そう言ってくれるのは」
そのままお互い顔を合わせることなく、デネボラが去っていった方を見ながら話を続ける。
「これでもお坊ちゃまは、この国の次期国王ですからね」
「そうだな……こんなでも、な。
なぁ、どうしたらいいんだろうな」
「それは、王位継承についてですか?
それとも」
「んー、両方、かな」
「そうですね。
王位についてはわかりませんが……。
一つだけ言えることは――」
だが、何かを言い終える前に横槍が入る。
「お話中申し訳ありません、カリナメイド長!
急ぎ対応をしていただきたいことがありまして、来ていただけませんか!?」
「お話はまたいずれ」
「ああ、頼む」
「……今行きます!
何事ですかいったい?」
結局、最初から最後まで顔を見合わせることのないままカリナは戻っていった。
「……わかっている。
このままじゃ、ダメだよな……」
◇
ちょうどこの間稽古で見せてもらったのがこのシーンだったなぁ。
けど、衣装や背景(セット?)があるだけでも全然違って見えてくる。
それに、二人共格段に上手になっている。
スミカ先輩も自然に見えるし、なによりやっぱり部長さんがすごい。
ちょっとした仕草、声のトーン、目線、そんな何気ない動作の組み合わせでデネボラというキャラがどんなことを考えているかがなんとなくわかってくる。
王子の方も、女の子たちに囲まれている時と、デネボラを相手にしている時で見せる表情が違っていて、不覚にもちょっぴりキュンとしてしまった。
左隣の子も(右にはケイ先輩)、はぅ……ってため息漏らしてたし、ファンの子はたまらないだろうな。
舞台の上では、ちょうど2回めのデネボラの出番が来ていた。
時間は夜。
お城のテラスかな? 柵にもたれかかりながら、星を背景に(多分、小さなプラネタリウム投射機を使っているんじゃないかな?)静かにスピカ王子が語りだす。
「なぁ、デネボラ?
僕の話を聞いてくれないかい?」
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