第64話 行列
しかし、あの撮影はすごい経験だった。
私はもう言われるがまま後ろで立っているだけだったけど、メインの2人は篠崎さんの指示に従って色々な動きをしていた。
写真って、撮る方も撮られる方も大変なんだなぁ……。
後日、出来上がった写真を見たときには言葉もでなかった。
プロってすごい。
そのままホームページの方にもアップされて……どうやら一気に応募者数が跳ね上がったらしい。
「これは、歴代の記録を抜きそうね」
ってステラ先輩も言っていたけど、日に日になゆの目から生気が抜けていっているのを見てもそれは間違いなさそうだ。
なゆ、大丈夫かな……。
ちなみに。
急にモデルをやることになったお礼? お詫び? に、なんとケイ先輩とのツーショットを撮ってもらえたのだ。
「急遽モデルを頼んじゃってごめんね。
おかげで良いものが撮れたよ」
なんて言っていたけど、いやいやこちらこそありがとうございますだったよ!
もちろん、頂いた写真はキレイな写真立てに入れて部屋に飾ってある。
そのせいで、ついついニヤけてしまう日々だ。
なゆからは「おねぇ……さすがにちょっとキモい」と言われてショックだったけど……。
だってしょうがないじゃん!
ケイ先輩ホント綺麗なんだもん!!
そうこうしているうちにあっという間に日は流れ。
文化祭当日を迎える。
◇
うちの文化祭は、金・土・日の合計で3日間もある。
初日はネットのフリーエントリー組は入れないことになっているので、だいぶのんびりとした雰囲気だ。
学校見学したい人たちがのんびり見ることができるように、とのこと。
私達としても、いきなり本番どーん! よりはリハーサル的な感じでありがたい。
たこ焼き屋さんをやるって言ってた卓球部の子も同じような事を言っていた。
家のホットプレートで焼くのと、しっかりガスのしかも大きな鉄板で焼くのとでは全く勝手が違うからだ。
「マキちゃーん、じゃあお任せしちゃうねー?」
「おー、任せといて―。
みくもかのんもいるしな。
そっちこそ大変そうだけど、無理すんなよー」
「ありがとーー!
じゃ、行ってくるねー。
お昼には一旦戻ってこれると思うから」
「おっけー」
朝イチに最終確認を終えて、天体観測部の展示室を出る。
いよいよこの日が来た。
ほんっと、大変だったなぁ……。
細々とトラブルはあったけど、なんとかここまでこぎつけたし……って、まるでもう終わったみたいな気分だけど、むしろこれからが本番だ。
気を引き締めないとな。
まぁ今日は初日だし、少しのんびりさせてもらおう。
ケイ先輩と回れたらいいなぁ。
――なんて。
思っていたときが私にもありました。
「あ、あのー、ケイ先輩?
私の記憶が確かならば、初日はそこまで混まない、って話ではなかったでしょうか?」
「ええ……去年のことを思い返してみても、やはり初日はそこまで混んでいなかったはずよ?」
「じゃあ、この大行列はなんなんでしょうか……?」
「……なんなのかしらね……?」
そうなのだ。
受付のお仕事をするために校門前のテントに着いた私が見たのは、長蛇の列と慌ただしく列を整理する警備のおじさんの姿だった。
「壁際に寄って二列になってくださーい!
あ、そこ、最後尾ではないです。
最後尾は道路を渡った向こうですー!」
「危ないから車道にはみ出ないように!
小さなお子さんをお連れの方は、しっかり手を握っていてください!!」
……警備のおじさん一人じゃとても対応しきれないみたいで、先生たちも何人か出動している。
「おう、星空に冷水。
なんだか大変なんことになってるな」
「伊織音先生、おはようございます。
これ、どういうことなんですか?」
「んー、詳しくはわからんが、どうやらネットで『早く行かないとパンフレットがなくなる』という噂が流れているみたいなんだよ」
「うわぁ……すごいですね、表紙効果……」
後ろを向くと、積み上がるダンボールの山。
「あれ?
でもこれ、チケットの枚数分は刷ったはずですよね?」
「ええ。
一人1冊配ってちょうどくらいには作ってあるわよ。
ご家族連れで一人1冊もいらない場合はあるだろうけど、予備含めて少し多めにね」
「ですよねぇ……」
「まぁ、噂なんつーもんは得てしていい加減なものだ」
「ですねぇ……」
あとでHPに『パンフレットは潤沢にご用意してあります』って入れておいてもらわないとだ。
「よし、じゃあ私も列整理手伝ってくるわ」
「はーい、気をつけてー」
「おー、ま、適当にやってくるよ」
ひらひらと手を振りながら伊織音先生が列に向かっていった。
骨は拾いますね!
って、縁起でもないこと言おうとして、今回ばかりはさすがにシャレにならないので思いとどまった。
『ただいまより。
第33回 流星祭を開始いたします』
スピーカーからのアナウンスが響き渡り、いよいよ文化祭が始まった。
さぁ、あの行列が向かってくるぞ……!
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