第62話 撮影
忙しくしていたら、あっという間にパンフレット撮影の日がやってきた。
学校でやるのかと思っていたら、撮影用の機材を持ってくるのが大変だ、ということでちょっと離れたスタジオへ出向くことになっていた。
本格的だとは聞いていたけど、本当に雑誌の表紙の撮影にも使っている場所なんだとか。
「なんか緊張してきました」
放課後、下駄箱でケイ先輩と待ち合わせて校門へ向かう。
「なんですばるんが緊張してるのよ。
撮られるのはスミカと柚子先輩よ?」
「それはわかってるんですけどー。
今まで生きてきて撮影スタジオに行くことなんてなかったですし。
知らない世界、って緊張しません?」
「ああ、なるほど。
私はスミカの撮影で何度か行ってるから、慣れちゃっただけかもね」
「入学案内のパンフレットにも載ってましたね」
「そうそう。
他にもね、いくつか撮影したのよ」
「へー」
校門に着くと、まだ誰もいなかった。
一緒に行くのは、モデルのスミカ先輩と柚子先輩(どうせなら相手役も、ということで柚子先輩も呼んだのだ)
なんか合ったときに手直しができるように衣装担当の先輩が二人。
さらに顧問代理の伊織音先生とケイ先輩と私、なのでなかなかの大所帯だ。
車で20分くらい、って言ってたけどバスとかタクシーとかでいくのかな?
「おまたせー」
「お待たせいたしましたわ」
「あ、スミカ先輩! 柚子先輩!
うわぁ、すごい荷物ですね」
校舎から歩いてくる先輩たちは、大きなトランクを2つ転がしていた。
「二人分の衣装が入ってるからねー。
装飾品も多いし」
「柚子先輩の方はドレスですしね」
「そうなんだよー」
プップー
そんな話をしていると、ずんぐりとしたちっちゃなバスがやってきた。
あれ? なんか見覚えが……?
「お待ちしておりました、お嬢様方」
なんと、中からトラ先輩のおうちの執事こと瀬田さんが降りてきたのだった。
「わー! 瀬田さん!!
お久しぶりですー!!
え!? どうしたんですか!?」
「トラお嬢様から車を出すよう仰せつかりまして」
「あれ? すばるんに言わなかったっけ?」
「聞いてないですよー!」
ケイ先輩がうっかりするなんて、珍しいこともあるものだ。
忙しすぎてバタバタしてたから言い忘れたんだろうけど。
「どうやって行こうか悩んでいたら、トラ先輩が手配してくれたのよ」
「そうだったんですねー。
瀬田さん、よろしくお願いします!」
「ほっほ、おまかせくださいませ。
さ、そちらの荷物を積み込んでしまいましょう」
◇
到着した場所は、駅を挟んで学校の逆の方にあった。
閑静な住宅街のど真ん中に大きな倉庫みたいなものが建っていて、その中がスタジオになっているらしい。
バスから降りると、一人の男の人が出迎えてくれた。
「おー、冷水ちゃん久しぶり」
「篠崎さん、今日もよろしくお願いします」
あごひげを生やし、よれよれのTシャツにジーンズという格好で……もうちょっとキレイにしたらモテるんじゃないかなぁ? って感じの、でもその格好のせいでやたら胡散臭いおじさんだ。
大丈夫なのかな?
「すばるん、こちら本日撮影して頂くカメラマンの篠崎さん」
「え!?
あ、星空すばるです!
えと、文化祭実行委員で、ケイ先輩のお手伝いしてます!」
急に紹介されて焦ったー。
胡散臭い、とか思ってたのバレてないよね??
「よろしくね、星空ちゃん。
見た目胡散臭いけど、写真の腕は自信あるから大丈夫だよ!」
と言ってウィンク。
う……バレてる……。
「篠崎さん、こう見えてほんと腕はいいから大丈夫よ」
「ちょっと冷水ちゃん、『こう見えて』は余計でしょー?」
「じゃあ……適当そうに見えて、にしておきます?」
「……『こう見えて』でいいです」
「あはは」
「じゃあ、早速着替えてくるね」
スミカ先輩たちが着替えに行っている間、少しスタジオを見学させてもらうことになった。
ぐるっと歩いて回ると、色んなものが置いてあった。
ここが撮影するところかな?
撮影ブースっぽい所は後ろが真っ白な壁になっていて、周りに証明がいっぱい置いてある。
横のテーブルの上には、イラストが描かれた紙が何枚かあった。
「これ、なんだろう……?」
「それは、今回の撮影イメージ画だね」
周りで準備をしていたスタッフのお姉さんが教えてくれた。
「イメージ画ですか?」
「そう。
撮影の依頼を受けてから篠崎が描いたのよ。
どういった構図にしよう、とか、今回は二人いるからその関係性をどう捉えるかとか。
1枚の写真に篭めるストーリーを考えるのよ。
ほらこれ見てみて」
受け取った1枚の紙にはイラストではなく文字がびっしり書かれていた。
・姫と王子
・関係は? お互い好き合っている? それとも憎しみあっている?
・親同士は? 友好国? 敵国?
・場面は舞踏会のイメージ、とのこと。ダンスのシーン? それとも出会いのシーン?
などなどなどなど。
○がついていたり、矢印が書いてあったり。
最終的には3パターンくらいに絞った感じで、四角で囲って数字が振ってある。
「すごいですね……」
「ふふ、でしょ?
あの人、ああ見えてすごいのよ?」
「ああ見えて、ですね」
「そそ」
お姉さんにお礼を言ってその場を離れる。
イメージ画、すごかった。
本当に信用できる人なんだなぁ……。
もっと見た目もちゃんとしたらいいのに。
それで結構損しちゃってるとこあるんじゃないだろうか。
実力の世界だから大丈夫なのかな?
……って、なんの心配してるんだろう私。
もうしばらくウロウロしていたら、頑丈そうなドアに大きな取手がついた部屋に辿り着いた。
お、衣装室だって。
「んー、ここも入って大丈夫なのかな?
鍵はかかってないみたいだけど……」
軽く手をかけただけで、スッとドアが開いた。
「お邪魔しまーす」
「お? 星空ちゃん?」
「わぁああ!」
恐る恐る中に入ろうとしてた瞬間。
いきなり声をかけられてすごい声が出てしまった。
「悪い悪い、そんなに驚くとは」
「い、いえ、すみません……」
振り返ると、篠崎さんの手にはなんかすごいレンズを装着したカメラがあった。
高そう……。
「何してたの?」
「え、っと。
衣装室、って書いてあったのでちょっと見てみたいなー、と思って……見てもいいですか?」
「いいよいいよ、好きなだけ……む、衣装か?」
「はい?
あ、やっぱまずいですか?」
「ああいや、大丈夫。
ちょっと思いついたことがあって。
ゆっくり見てっていいからね」
「はーい、ありがとうございますー」
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