第53話 星空とカメラ
ちょっぴり会話の流れなど修正しました。
大筋に変更はありません。
今日の夕飯はオムライス!
ご飯担当のマキちゃんとミクちゃんによる合作だ。
きれいに卵が巻かれて、とってもおいしそう。
しかも、ケチャップで可愛いクマのイラストが描かれている……。
「このイラストって、どっちが描いたの?」
「私よ!」
えっへん、と胸をはるミクちゃん。
意外な才能だ。
「ミクちゃんにフリフリのメイド服着せて、ハート書いてもらえば集客になりそうだな……」
「着ないわよ!?」
「え~~? 似合うと思うよ~~~??」
「かーのーんー?」
「きゃ~~」
すっごい棒読みの悲鳴をあげながらマキちゃん後ろに隠れるかのちゃん。
「はいはいじゃれてないで。
どっちにしろ、喫茶店はやらないって話なんだから」
「ならいいけど……。
さっきのすばるの目、少し本気っぽかったわよ?」
「さーてナンノコトカナー」
実際、喫茶店は楽しそうだしやってはみたいとは思うけどね。
マキちゃんの星空写真講座も楽しみだからいいのだ。
「ごちそうさまでした!」
チキンライスはベチャってしてなくてふっくら、卵も裂け目がなくつるんとしていて。
見た目にも楽しかったけど、お味の方もとっても美味しかった。
「ミクちゃん、すっごく美味しかったよ!
卵も綺麗に巻いてあったし、今度教えて〜」
「あー……そっちはマキに聞いて……」
「ミクはお絵かき担当だったんだよ」
「ちょ、ちょっとマキ!
それじゃ私が何もしていないみたいじゃない!
玉ねぎのみじん切りは私でしょ!」
「ボロッボロ涙流しながらな!」
「だって、すんごいしみるんだもん!!」
よく見ると少し目が赤い。
「うんうん、よくわかるよー。
私も玉ねぎ切るのは苦手だもの……ピーラーみたいに簡単にみじん切りできる道具が欲しい」
「それ! 私もほしい!」
「ねー! ほしいよね!」
ガシッとミクちゃんと固く手を握り合う。
玉ねぎのみじん切り面倒くさい同盟誕生の瞬間である。
こそ、っと、ケイ先輩の「それいいわね」という言葉が聞こえたので、あとで同盟員に勧誘しよう!
「まぁ、オムライスなら今度教えるよ。
言うほど難しくないからね」
熱い握手を華麗にスルーしたマキちゃん。
どうやら同盟員には……って、もうこれはいいか。
「ありがと!
ミクちゃんも、よかったらケチャップで上手に絵を書くやり方教えてね!」
「べ、別に私に気を遣うことないわよ!」
「そんなんじゃないって。
私なんてハート書こうとしても歪んだ三角形になっちゃうくらいだし! すごいよ!」
「そ、それは逆にスゴイわね……」
え? あれ?
なんかすごいかわいそうな子を見るような目で見られてる気がするけど……そんなに!?
「だ、だって、ケチャップ難しいじゃん!?
マキちゃんもそう思うよね!?」
「確かに『簡単』とは言わないし、ミクはすごいなと思うけど。
さすがに私でもハートくらいは……」
「えー……」
今度は同盟が結ばれることはなさそうだった……。
しかし、マキちゃんがこんなに料理上手だったとは。
今回の合宿はみんなの意外な一面がいっぱい見られて楽しい!
ケイ先輩と並んでお皿を洗いながらそんなことを考える。
意外度ナンバーワンはケイ先輩だけど。
『お料理苦手』ってだけじゃなく、こんなにはしゃいで楽しそうにしている姿は、学校のみんなは知らないんだろうなぁ。
生徒会副会長としてみんなの前に出るときは、まさにクールビューティって感じだし。
なんだろう、『みんな』から期待されている姿と、本当のケイ先輩との間にはちょっとした溝があるのかもしれない。
元々は私も『カッコイイ』ケイ先輩に憧れたクチではあるんだけど。
チラっと横目に先輩を見る。
ニコニコしながらお皿を洗っている。
なんなら鼻歌まで出てきそうな雰囲気だ。
「なに? ジロジロ見て」
「い、いえ、なんでもないです!」
この半年弱の間、それだけじゃないって所をいっぱい見てきた。
先輩は『かっこ悪いところ』って言うけど、私からしたら全然そんなことなくて。
それどころか、そこがまた魅力的で……すごく可愛いと思う。
言うと怒られちゃうんだけどね(あれは照れてるのかな? ふふふ)
そして今回『私だけ』に見せてくれたお料理苦手だ、ってこと。
ケイ先輩にとっての『特別』になれているのかな? なんて。
その『想い』が私の『好き』と同じではないんだろうけど、それでもきっと――。
そのくらいは、自惚れてもいいよね?
「今度はどうしたの? すばるん。
急にニヤニヤしちゃって、気持ち悪いわよ?」
「ええ!?
き、気持ち悪いってひどいですよー!」
「いや、お皿洗いながらニヤニヤしてるおねえ……気持ち悪かった……」
「なゆまで!?」
「ふふふ。
でもどうしたの? 何かいいことでもあった?」
「えーっと……内緒です」
「もう、なにそれ」
いくらなんでも、先輩の特別になれましたか? なんて言えるわけがない。
うう、顔に出てたかぁ……気をつけよう。
◇
ご飯の後はマキちゃんの星空撮影教室!
会議室での簡単な講習ののち、みんなでビーチへ移動。
折角なので、ということでケイ先輩、スミカ先輩、なゆも一緒についてきた。
トラ先輩とステラ先輩は、もう少し書類の確認をしたいから、って居残りだ。
ケイ先輩が「私も手伝いますよ」と言ったけど、「天体観測部の部長としてのお仕事もしておいで」と言われてお二人におまかせすることになった。
……なんとなく、二人っきりになりたかったのかな? なんて思ったりもしたけど、さすがに口にはしなかった。
サクッ
ここに来てから、何度も歩いた砂浜。
今朝と同じく東屋までみんなと歩く。
先頭は瀬田さん。
プライベートビーチで建物部分から離れているため、街灯なんてひとつもなく、なのでかなり強力な懐中電灯をつけて周りを照らしてくれている。
ただ、足元が暗いのは変わらないので何度か転びそうになってしまった。
そのせいで(おかげで?)今はケイ先輩に手をつないでもらっている。
ふと、さっきの『ケイ先輩にとっての特別』って言葉が頭に思い出されてしまい、めちゃくちゃ緊張している。
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
周りが暗くてほんとよかった……。
「よし、それじゃー始めるよー!」
「はーい」
マキちゃんの号令で、一旦東屋の一角に集合。
東屋にはいくらか電灯があるので、できるだけ明るい所が選ばれた。
テーブルの上には、マキちゃんのごっついレンズのカメラと私がお父さんから借りてきたカメラ、あと写真の綺麗さが“ウリ”の最新の携帯の3種類が並べられる。
詳しい『仕組み』については出る前に聞いてはいたけど、いざ実践! の前におさらいだ。
絞りとか、F値とか、シャッタースピードとか、ISOとか。
なんとも難しいお話は全然頭に入ってこなかったけど、まずは何も気にせずに撮ってごらん、とのことで撮影タイムスタート。
お父さんのデジカメは夜景モードがあるので、それで撮ればなんとなくそれっぽくなった。
携帯のカメラは夜景撮る用のアプリで撮影。
ごっついマキちゃんカメラは――
「これ、全然撮れないね……」
初めて操作するものってのもあるんだろうけど、結構な重さがあるせいか構え方からわからずにスゴイ難しい。
「そしたら、今から言う設定に変えてみてー」
「はーい」
マキちゃんの言う通りにカメラをいじる。
えーっとISOが……うん、指示通りに変えるだけでも大変だなぁ。
そもそもISOってなんだろう?
……まぁ、いいか。
「これであってる?」
多分言われたとおりにできていると思うけど、いまいち専門用語を理解しきれていないので自信がない。
「どれどれ……うん、大丈夫!」
「よかった!
よーし、撮るぞー!」
「がんば!」
それから1時間ほど。
カメラを取り替えながらバシバシと撮りまくった。
ちょっと設定を変えただけなのに、すごくよく撮れてる(と思う)。
誰が撮ったかわからなくなる、ってことで撮る前には自分の写真を入れてたんだけど(自撮りでも撮ってもらってもOK)、最後の方はだんだん楽しくなってきて、みんなで写るようになり、そのまま星空撮影会は終了した。
時計を見るとすでに22時を過ぎている。
……早く戻ってお風呂に入って寝ないと、明日の朝焼けには絶対起きられそうにない……。
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