第48話 朝焼けとビーチ
翌朝。
目が覚めると、まだ外はうっすら明るい、程度の時間。
「ふぁ……まだ眠ぃ……」
体を起こして時計を見ると、まだ5時半。
そりゃ眠いはずだわ……。
ん?
あれ?
私、いつの間に寝たっけ?
えーっと、ご飯食べて、お風呂入って。
上がってからみんなでお布団敷いて、なゆが髪の毛乾かしてくれて……
…ゔ、もしかして、そのまま寝ちゃった?!
「ん……あら、すばるんおはよう」
「あ、ケイ先輩おは……ふぇ!?」
眠気まなこでモゾモゾと起きてきたケイ先輩と朝のご挨拶。
ラフなTシャツに短パンのパジャマ姿はお泊りした時のパーカーなしバージョン。
ゆるくエアコンをかけてくれてるとは言っても、流石に暑いからね。
って!
それは今は良くて。
携帯の時計を見ながら『ずいぶん早く起きたのねぇ』なんて言ってるのもいい。
合宿期間中の起床時間は8時なので、もう一眠りできる時間だしね。
ただ、大問題なのは、その声が、どうして私の隣のお布団から聞こえるのか!ってことだ。
お隣、と言っても、畳に直接敷いたお布団だから、境界線もあったもんじゃない。
一体全体、寝てる間に何があったの!?
「あ、あの、ケイ先輩……?」
「…………」
あれ?
「すーっ……すーっ……」
返事がないのでよく聞くと、寝息が……。
携帯片手に、枕に突っ伏すようにして(顔はこっち向いてる!)、寝てる……。
周りを見渡しても、流石に早いので誰も起きていない。
ああ、こうして見るとなかなか個性があって面白いな。
薄いタオルケットをかろうじて掛けてはいるものの、だいぶ違う向きを向いているトラ先輩と、対称的にきっちりした姿勢のステラ先輩。
よく見ると、お二人は手を繋いでいる…姿勢は全然違うのに、きっちりと握って…うひゃー、きゃー!
見ているこっちが赤くなってきちゃうよ!
…何故か、壁際のお布団が敷かれていないあたりで寝ているスミカ先輩は、寝ながらあそこまで転がっていったんだろうか…。
畳だからいいけど、フローリングだったら大変だ。
なゆはステラ先輩タイプで、ミイラのように胸の上で手を組んでぴしっとしたまま寝ている。
よく、母親から、ピクリとも動かないから死んでるのかと思って心配したものよ、と言われるくらいに寝相がいい。
マキちゃんたち三人娘は……うわ、何あのハーレム!?
マキちゃんの両腕が、かのちゃんとミクちゃんの枕になってる…。
ミクちゃんに至っては、腕枕通り越して、マキちゃんを抱きまくらと思ってるんじゃ!?ってくらいに抱きついた姿勢だ…!
ドキドキ。
なんだろう、トラ先輩たちと違った妙な背徳感が!!
み、見なかったことにしておこう…。
伊織音先生は……座椅子に座ったまま!?
あれ、絶対背中痛くなるやつだ。
目の前の小さなテーブル(ちゃぶ台??)の上にお酒と思しき空き缶が…。
確かに先生は大人だけど、学生のいる部屋で飲んでいいの…??
うーん、私ももう一眠りしようかなぁ、と思いつつ。
多分、誰よりも早く寝てしまったようで、全然眠くない。
よし、ちょっと散歩にでも行こうかな。
寝ているみんなを起こさないように、そっと部屋を出る。
あ、寝間着のまま来ちゃった。
けど、戻るのもなぁ…。
ケイ先輩のマネしてTシャツに短パンみたいなセット(パイル地でぽんぽんもついてて可愛いお気に入り!)だし、プライベートビーチの方ならいいか。
「おはようございます、お嬢様。
お早いお目覚めですね」
玄関では、瀬田さんがお掃除をしていた。
「わっ、お、おはようございます。
瀬田さんも早いんですね」
誰もいないと思ってたから、ちょっとびっくりしちゃった。
「いやはや。
年を取ると朝が早くてですな、ははは」
「そういえば、うちのおじいちゃんもそんなこと言ってました」
「……うははは、すばる様は面白いですなぁ」
「あ、あれ?
なんか私変なこと言っちゃいました!?」
「いえいえ、大丈夫でございますよ。
して、どちらかへお出かけですか?」
「なんか目が覚めちゃって、お散歩に行こうかな、と」
「なるほど。
でしたら、ビーチの方へ行かれるとよろしいかと。
先ほど日が出たばかりで、朝焼けが綺麗に見えますよ」
「はい、そのつもりで…
あれ?そういえば、もうすぐ6時なのに、まだ朝焼けが見られるんですか?」
「ええ、我々の住まいからはだいぶ西ですからね。
ちょうどこの位の時間なんですよ」
「あ、そっか」
確か、経度的には1時間くらいの時差があってもおかしくない、んだったかな。
中学の頃、社会の先生が言っていた気がする。
「お出かけであれば、こちらを」
うんうん、って一人で納得していると、薄手のパーカーを渡される。
「トラお嬢様が以前着用していたものです。
今はサイズが合わなくなってしまいましたが、すばる様ならばちょうどいいかと。
夏とはいえ、この時間のビーチは少し肌寒いですから」
「ありがとうございます」
いたれりつくせり、とはこういうことを言うんだろうか。
さすが熟練の執事さんは、気遣いのレベルがすごい…!
◇
さくっ
ほんとだ、少し肌ざむい。
砂浜の砂を踏みながら、ゆっくりビーチを歩く。
ポケットから携帯を取り出して見ると…5時45分。
海の向こうを見ると、だいぶ赤くなっている。
出掛けに、瀬田さんが
「今日の日の出は5時48分だそうです」
と言っていたので、もうすぐ日が出る。
ぼーっと立ってるのもアレなので、少し歩きながら見ていると、見たことのあるビーチチェアが。
横を見ると露天風呂。
こうしてみると、ほんとそのままビーチ直行なんだな…。
暗かったとはいえ、裸のままここまで出てきてよかったんだろうか、と今更ながらちょっと恥ずかしくなった。
星空はすごくきれいだったけどね!
ちょうどいいので、そのままビーチチェアに腰掛ける。
歩いているうちに日の出の時間を過ぎていて、かなり赤くなっている。
昨日の星空もそうだったけど、遮るものが何もないのですごくキレイで雄大だ。
折角だし、写真を撮っておこうかな。
握ったままだった携帯を操作し、ぱしゃりと1枚。
うーん、私の腕か携帯の性能か。
この感動を伝えきれるような写真にはさすがにならないな。
明日、誰か誘ってみよう。
そのまま朝焼けを30分ほど眺めて、またゆっくりと歩いて戻る。
日が昇ってしまうと、さすがに暑くなってくる。
とはいえ、じりじりと肌を焼く日差しが怖かったので、パーカーは着たままにしておいた。
「戻りました。
すいません、ちょっと汗で汚れちゃったかも」
「ほっほ、お嬢様方の汗なら汚くなんてありませんぞ?」
「え?」
「冗談でございます。
こちらで洗っておきますのでご心配なさらず」
「ありがとうございます」
トラ先輩も、瀬田さんの冗談は分かりづらい、と言っていたけど、難易度高いなぁ…。
「ただいま~~」
みんなを起こさないよう、そっとふすまを開ける。
「おかえり、おねえ」
「あ、なゆ、おはよう、早かったね」
「うん、おはよう。
いつもこの時間だから、目が覚めちゃった」
部屋に戻ったら、すでになゆが起きていた。
そっか。
学校ある日は6時半には起きてるもんね。
「どこ行ってたの?」
「ん?
お散歩。
朝焼けがすごくキレイだったよ」
「へぇ、そうなんだ。
ちょっと見てみたかったな」
「じゃあ、明日行ってみよ?」
「うん、行ってみる」
いつもと違う空間で、いつもと同じなゆとのおしゃべり。
なんか不思議な感じだけど、落ち着く。
「私も行こうかしら」
「あ、ケイ先輩、おはようございます」
今度はちゃんと?起きたみたいで、お布団から抜けて隣に来る。
「おはようすばるん。
ずいぶん早く起きたのねぇ」
「ええ、なんか、起きちゃいました」
って、あれ?
さっきもこんな会話をしていたような…。
「すばるんがまだ暗いうちから起きている夢を見たんだけど、あれもしかして夢じゃなかったのかしら」
「…えと、一回起きてましたね」
「……そ、そう」
ふふ、完全に寝ぼけてた感じだったし、夢と勘違いしてたんだ。
「なに?すばるん?」
一人でニヤニヤしてたら、先輩に睨まれてしまった。
「いーえー。
ケイ先輩可愛いなー、って思っただけです」
ぺしっ
「あうっ」
「余計なこと言わなくていいの」
「はーい」
他の人を起こさないように、ってことで、ツッコミもいつもより軽い。
横でなゆが何か言いたそうにしている気がするけど、気にしたら負けだ。
「そうだ。
私、全然覚えてないんですけど、昨日お風呂上がってから何がどうなったんですか?」
「おねえ、ドライヤーしている途中からカクンカクンしてたね」
「よっぽど疲れてたみたいで、そのままお布団に倒れ込んじゃったのよね」
…うわぁ、なんとなく想像はしていたけど、改めて聞くと恥ずかしいな。
「何やっても起きないし、そのまま寝かしておいて、おねえ以外でくじ引きした」
「くじ引き?」
どうもこの合宿は、くじ引きが多いなぁ。
トラ先輩が好きなんだろうか。
「うん、どこで寝るかクジ。
といっても、結局みんな思い思いの場所で寝落ちしていったせいで、全然意味なかったけど」
「最後まで起きてたのが私となゆちゃんだったっけ?」
「そうですね。
あ、伊織音先生が起きて…うーん、起きていた、でいいのかな?
酔っ払ってましたね」
「……ああ、うん、教師としてあれはいいのかしら……」
あはは、私と同じこと言ってる!
「で、私が寝ようと思ったときには、すばるんの横かスミカの横しか空いてなかったのよ」
「なるほど…って、それで私の横に!?」
ど、どういうこと!?
「そうよ。
…見ての通り、スミカの横にいたら、轢かれているもの…」
「…あー…」
そ、そうだよね。
びっくりした!
そんな風におしゃべりしていると、みんなが続々と起きてきた。
マキちゃんに抱きついてることに気づいたミクちゃんが顔を真っ赤にしていたり、何ごともなかったかのように繋いだ手をはずしたステラ先輩の眼が若干泳いでいたり、ちょっとしたハプニング?はあったけど。
合宿二日目がスタートしたのだった!
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