第39話 おわったー!
…あれ、私、どうしたんだっけ?
お風呂からあがって、ちょっと色々あって、スミカ先輩が戻ってきて。
さあ気合入れて勉強再開だー!って…あ、その前に、ケイ先輩がスミカ先輩のスキンケアをぐりぐりとやって。
ちょっと不機嫌そうにしながらも、言われるがままに化粧水を染み込ませてるスミカ先輩の姿は、ちょっとレアだったな。
もう面倒くさいからこんなもんでいい?なんて言って、その度にケイ先輩に怒られてたっけ。
仔猫ちゃんたちのためでしょう?って。
そういえば、スミカ先輩っていつも『仔猫ちゃん』たちに愛を振りまいているけど、本命さんっていないのかな?
みんな愛してるよ、なんて言うけど、見た感じは、アイドルとファン、って感じだしなぁ。
そういう役を演じている、っていうか、なんかそんな風に見える。
生徒会室でダラダラしてるとこなんか見てると、全然アイドルオーラないし。
だからって、王子さま役に酔っているわけでもなさそうだし。
って、なんでこんなこと考えてるんだろ。
ああそうだ、今の私の状況がよくわかんなかったんだっけ。
えっと、勉強会再開!ってなってから、ちょっとドキドキは残っていたけど、なんとか集中してがんばって。
…がんばって、いた、よね?
それが、気がついたらふわふわした感じで、どこにいるのかもわかんなくて。
ケイ先輩たちもいなくて…あ、なんか遠くで声が聞こえる気がする。
んー…ま、いっか。
ここはここで気持ちいいし、私がんばったし。
ちょっと、このまま休んじゃおう――。
◇
「すばるちゃん、寝ちゃった?」
「そうみたいね。
まぁ、さっきまでがんばってたし、このまま寝かせちゃいましょう」
「んだな。
あとで布団に運ぶの手伝うよ」
「お願い」
ケイの横で、すばるが机につっぷしていた。
ちくたく…と、時計の音と、すばるの寝息だけが響く、静かな室内。
ゆっくりとした時間が流れていく。
「…………なぁ、ケイ?」
「ん?なに?」
「すばるちゃんって、いい子だよな」
「急にどうしたの?」
「だから、いい子、だよな?」
「そうね…。
いい子よ」
優しい目ですばるを見て、静かに答える。
柔らかな髪に手を添え、撫でながら。
「だよな。
まっすぐで、元気で、いつも周りに気を遣ってて」
「ちょっとおっちょこちょいな時も多いけどね?」
「はは、そうだね」
「…スミカ?」
急に何を言い出すのだろうか、ケイには検討がつかず、訝しげにスミカを見る。
しばしの沈黙。
「なぁ、ケイ。
気付いているんだろ?」
「ん??
何の話???」
「すばるちゃんの気持ち、さ」
「っ!!」
すばるを撫でる手が止まる。
はい、とも、いいえ、とも答えない。
だが、それこそが答えそのものだった。
「すばるちゃんは、いい子だよ。
スミレ先輩のようには、ならないさ」
「……はぁ…」
ゆっくりと息を吐く。
そのままゆっくりと深呼吸。
「……わかってる。
でも…まだ……」
すばるを撫でる手を再び動かしながら、今度はどこを見るともなく、また、スミカに返すようでもなく、漏れ出すように答える。
「…や、すまん。
ちょっとだけ、気になっちゃって」
「ううん、大丈夫。
…いつもありがとうね」
「ぷっ、ケイから『ありがとう』なんて珍しいこともあるもんだ」
シリアスな空気に耐えられなくなったか、敢えて茶化すように笑う。
「もう!
ちょっと褒めたらすぐこれだ」
「ははは、ごめんごめん。
でも、そうか、少しは前に進めそうでよかった」
「たぶん、ね…自分がどうしたいのか、まだ全然わかんないけど」
「そんなもんだろ」
「そんなもんかしら」
「うん」
「そっか」
『それが、ボクでなかったのは、ちょっと残念だけどね』
その言葉をグッと飲み込み、優しくスバルを撫でるケイを眩しそうに見つめ、そっと目を逸らした。
「さて、ボクたちも、そろそろ寝ようか」
時計はすでに3時を指している。
「寝ないでやっても、効率悪いしね。
そうしましょうか」
◇
――それから、一週間。
放課後。
さっきもらったばっかりのテスト結果を持って生徒会室へ!
本当は、ダッシュで来たかったんだけど、廊下を走ると先生に怒られてしまうので、できるだけの早歩きで到着っ!
ガラガラッ
「せんぱーい!!」
ドアを開けると、正面にはケイ先輩。
仁王立ちで待ち構えて、ってわけではないけど、すぐに目が合ったところを見ると、待っててくれたのかも?
椅子にも座ってなかったしね。
「おつかれさま、すばるん。
結果、どうだった?」
「えへへ」
ちょっとだけ心配そうな顔で聞かれたので、心配ご無用!ってな感じに笑顔でVサイン!
「お!すばるちゃん、やった!?」
横で見ていたスミカ先輩にも見えるように、結果の紙を二人に見せる。
うちの学校は、個別の答案とは別に、A4の用紙1枚の『結果表』というのが渡される。
それぞれの教科の点数と、主要5科目合計とその他の科目(家庭科とか、選択科目とか)を加えた総合での順位がそれぞれ載っている。
5科目合計381点 98位/278人中
「初の二桁順位です!!」
ぎりぎりだけど!
「おー!やったじゃん!」
「ふふふ、頑張ったわね」
ケイ先輩が優しく頭を撫でてくれる。
「がんばりましたー!」
ガラガラッ
「こんにちわー」
そうこうしていると、マキちゃん、かのちゃん、ミクちゃんの3人娘もやってきた。
「もー、すばるってば1人でさっさと行っちゃうんだもん、待っててよねー」
「あはは、ごめんねマキちゃん。
一刻も早く報告したくって」
「それで、3人娘はどうだったのかしら?」
すっと私から離れて、ケイ先輩が3人に近づく。
ちょっと残念。
「私はいつもどおりでした、ちょうど真ん中くらい」
「私は~、1問間違っちゃって~~3位でした~。
なんか~、今回は満点が二人いたみたいなんですよ~~~」
満点!?
え!?結構今回の難しかった気がしたんだけど…どこの世界の話だろう…。
「ミクちゃんは?」
「あ、あのっ!!
赤点0ですっ!!!!
ありがとうございました!!!」
深々と頭を下げるミクちゃん。
「よかったわね」
「はいっ!!!」
すっごい、嬉しそう。
勉強会、やってよかったなー。
ガラガラッ
「あれ、みんないる」
「お、なゆー。
どうだったー??」
「ん、今回は12位」
「え!?」
かのちゃんに負けない!って言ってたのに。
「…もしかして、私の勉強見てたから!?」
「ううん、おねえのせいじゃないよ。
強いていうなら…あのタイミングで超絶音響上映をやった映画が悪い」
「あー……」
そういえば、日曜日にもう一回行ってたなぁ。
帰ってきてからも、ずっとその話してたし。
「でも、うん、いい上映会だった。
悔いはない」
「そっか」
生まれてからずっと一緒にいるけど、たまになゆがわからない…。
「でもでも、みんな無事終わってよかったね!
次は合宿の準備とかしないとね!」
さぁ、夏休みがやってくるぞ!
気に入ってもらったら、下の方の評価やブックマークをポチッとお願いします★




