第36話 ついていけないんですけど!
コンコン
ガチャッ
「おーっす、ケイ、お邪魔するよ~」
「いらっしゃいスミカ。
もうそんな時間?」
「外はもう真っ暗だよー。
よっす、すばるちゃん、進んでる?」
あれから。
なんとか気持ちを切り替えて、集中していた所に、スミカ先輩がやってきた。
パーカーにスウェット、っていう同じ部屋着スタイルなんだけど、ケイ先輩のゆったりした感じと違って、ぴっちりしているので、だいぶ印象が違う。
スラッと足が長いので、部屋着なのにかっこいい感じに見えるのが不思議だ。
「なんとかですけどー…」
ちょうど、脳みそが悲鳴をあげ始めていたところだったけど。
「え?外真っ暗??」
ばっと、時計を見ると…
「ケイ先輩、やっぱりあの時計壊れて…」
「ません!」
「ですよねー」
うう、もう少し早く帰る予定だったから、お母さんに遅くなるって連絡してないよー。
怒られるだろうなぁ…。
「ケイー、今日もおばさん達遅いんでしょー?
お母さんが肉じゃがもってけ、って言うから持ってきたけどどうする?」
「そうね、休憩ついでにご飯食べましょうか。
すばるんもそれでいい?」
「…へ?」
どうやってお母さんに説明しようかなー、とか考えていたから、急に振られてなんのことかわからなかった。
「だから、ご飯食べるでしょ?って」
「あー、そういえばお腹すきましたねー…って、え??
私も?ここで!?」
「そう言ってるじゃない。
さすがに、すばるんの目の前で、二人だけでご飯、なんてしないわよ?」
「いやいやいやいや、そんな悪いですし!
時間も時間なんで帰りますよ!?」
それこそ、お母さんになんて説明したらいいやらだし!
「そう?
それならいいけど…すばるん、予定通り進んでないわよね?」
横目で私の教科書とノートを見ながら、そう言われると
「…………はい」
小さく答えるしかなかった。
いや、私もね?
頑張ったんだよ?
でも、ケイ先輩と二人っきりだし、なんかいい匂いするし、お部屋が可愛くて今まで知らなかった先輩を見れてドキドキするし、ていうか、ずっとドキドキしっぱなしだし。
意外とスパルタだったおかげで、少しは集中して出来たけど、思ったより難しかったのもあって、半分も進まなかった。
「すばるちゃん、遠慮することないよ、食べていきなよ!」
「スミカ先輩…」
「そうよ。
まぁ、それをスミカが言うのはおかしい気もするけど、今からだと帰ってから食べるにしても遅くなっちゃうでしょ?」
「…母に電話して聞いてみます」
PRRRRPRRRR
「あ、お母さん?」
「『お母さん?』じゃないでしょう!!??
何あんたこんな時間までなんの連絡もよこさずに、今どこにいるの!?」
電話に出た途端、お母さんに怒鳴られてしまった。
うちは、門限がうるさい、という事はないんだけど。
遅くなるならちゃんと連絡をすること、というルールがある。
ここの所、学校で勉強会をやるから遅くなる、ってのは言ってあったんだけど、それでも普段ならもう家に着いている時間だ。
「ごめんなさい。
その、いま先輩のお家で勉強会やってて…」
「先輩の?
学校でやってるんじゃなかったの!?」
「あ、それが、なんかお掃除の業者さんが入る、とかで追い出されちゃって…」
「ふーん?
まぁいいわ。
で?何時ころ帰ってくるの?」
「あ、それがね――」
トントン
お母さんと話している途中、ふいに後ろから肩を叩かれる。
「すばるん、ちょっと代わって」
「え?あ、はい、ちょっと待ってください」
「すばる?どうしたの?」
「あ、先輩が代わって、って言うから代わるね」
いったん区切ってケイ先輩に電話を渡す。
なんだろ?
「すみません、すばるさんのお母さまですね。
私、生徒会の冷水と申します。
時間の確認ができず申し訳ありませんでした
――いえ、そんなことありません、すばるさん、頑張ってまして、私が注意しなければいけなかったのですが――」
ケイ先輩の、営業モードだ!!
えへへ、すばるさん、だって…。
あ、にやけてたら、目で怒られた。
『誰のためにやってると思ってるのかしら?』
って声が聞こえて来るようだ。
「それで、最後の追い込みでもう少し時間がかかりそうでして。
折角の週末ですし、もしよろしければこのまま泊まっていってもらって、と思っておりまして」
…え??
今、泊まりって…!?
「いえ、そんな迷惑なんてこと。
生徒会の人間ももう一人来たところですしーーええ、ええ、はい。
では、すばるさんに戻しますね」
頭が追いつかないまま、電話が戻ってくる。
「えっ、と、お母さん?」
「冷水さん、って言ったかしら。
すごくしっかりとした方なのね。
すばる、ちゃんと勉強してくるのよ?」
「あ、うん、がんばる」
「迷惑かけないようになさいね」
「は、はーい」
プツッ
「あ、あのー、ケイ先輩??」
「さ、そしたら、ご飯の準備しないとねー」
「ぜんっぜん、ついていけないんですけど!」
私の抗議?も虚しく、パタパタと階段を降りて行ってしまった。
「あはは、珍しいもん見たなー」
「え?どういうことですか?」
「ふっふっふっ、なーいしょっ!」
「えー!?なんですかそれー!
教えてくださいよー!」
「だめー!」
そう言うと、スミカ先輩は両腕で☓を作る。
しかも、満面の笑みで!
うーん、これはどうあっても教えてくれなさそうだ。
むむむ。
「あ、すばるちゃん泊まってくならボクも泊まってこーかなー」
もう一息粘ろうとしたら、話を逸らされてしまった。
スミカ先輩もお泊り…うん!
「ぜひ!おねがいします!!」
「あれ?いいの?」
なんで意外そうな顔をしたのかわからないけれど。
スミカ先輩にもいてもらわないと、絶対私の心臓がもたないよ!!
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