第33話 名監督の条件?
「おお、おおお!!
すごい!すごいよなゆたさん!!
私、こんなに数学と仲良くできそうって思ったの初めて!!
将来、絶対先生向いてるよ!!」
「ん?どしたのミクちゃん?
そんなにはしゃいで」
休憩後の勉強会第二部が始まってすぐ。
ミクちゃんから歓喜の声、が聞こえてきた。
「すばる!すばる!
なゆたさんすごいね!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。
なゆは確かにすごいけど、いきなりどうしたの?」
「あ、ご、ごめん…。
えっとね、数学の問題が全然わからなくて、ちょうど手が空いたって言うからなゆたさんに聞いたんだけど。
びっくりするくらいわかりやすかったの!!
かのんに聞いても、全く何もわからなかったのに!!」
「え~~、ミクってばひどい~~~。
こんなに丁寧に教えてあげてるのに~~~」
「あのねー!
あんたのは教えてるって言わないの!!
もっと分かる言葉で説明してよ!!」
「え~~?わかるように言ってるってば~」
「まぁまぁ、ケンカしないで」
どうにも興奮気味のミクちゃんをなだめなる。
「あー、これな。
ミクの言うことが正しいんだわ。
かのんの説明、私でもちんぷんかんぷん」
「マキちゃんまで…」
逆に、興味が出てきた。
ちょうどわからない問題あったから、聞いてみよう。
「ねーねー、かのちゃん。
この問題教えてー」
数学の文章題。
方程式を作って、グラフを書くってやつなんだけど、方程式を作る所から難しくて詰まってしまう。
「お~~、ま~かせて~~。
えっとね~、まず~、この文章からこういう式が出来るでしょ~?」
…ん?
あれ、なんかいきなり謎の方程式が出てきたぞ?
「え?なんで?」
「お?なんで、って、そういう風に文章が書いてあるじゃ~ん?」
……そうなんだろうか。
えーっと、えーーーっと…??
「…ごめん、なんでこの式になるのかさっぱり…」
「むむ~~、なんて説明したらいいんだろ~~~。
こうとしかならないんだよにゃ~~」
なるほど…これは中々きびしい…。
「と、とりあえず、この式が出てくるまではいいとして、この後はどうするの?」
「んっと~、そしたら~~、この式がこうなるでしょ~~?」
「…なる、の??」
なんか、いきなり式の見た目が変わったぞ?
「え~?だって、文章にもそう書いてあるじゃん~?」
……どこ、に?
「ごめん、かのちゃん。
残念ながら、ミクちゃんとマキちゃんが正しい…」
「がーん…」
ごめんね!
でも、ほんとにわからないの!!
「ふふふ、名選手が名監督になるとは限らない、ってやつね。
かのんちゃんの中では、見た瞬間感覚的にわかっちゃうんでしょうね~。
紐解いてみれば、きっと正しい手順を踏んでるんでしょうけど、まさに天才タイプね」
ケイ先輩の言う通り、かのちゃんにはきっと私たちとは違う物が見えているんだと思う。
天才タイプ、かー。
すごいなぁ…ははは。
「で、どの問題?」
「あ、えっとですね、これなん…で……すけ…ど………」
「どれどれ…」
ケイ先輩、近い近い!!
ああ、ふわっといい香りがする。
ど、どうしよう、今日の最後体育の授業だったから、私汗臭くないかな!?
一応制汗スプレーは使ってるけど…うう、どうしよう!?
「すばるん??
おーい、すーばるーん?
聞いてるー???」
「……は、はい!!
聞いてます!!
あ、いえ、すいません、聞いてませんでした…」
「もぅ、ボーッとしてないでちゃんと聞いてなさい?
いい、この問題はね?」
そうして丁寧に教えてくれるケイ先輩の声を聞きながら、どうしても色んなことが気になって集中できず。
なんとな~くわかった気がしつつ……うーん、でも、きっと自力では辿り着けそうにないなぁ…。
あとで、もう一回なゆに聞いてみよう。
ごめんなさい、ケイ先輩!
…って、私今日、心の中で謝ってばっかりだなぁ。
「さ、もういい時間だし、今日はお開きにしましょう。
また明日、同じ時間くらいから初めましょう」
時計を見ると18時過ぎ。
7月に入ったとはいえ、もう少ししたら暗くなってしまう。
そもそも、うちの学校は18時半には完全下校、ってルールがあるから、帰る準備をしないと怒られちゃう。
あれ?テスト期間はもうちょっと早かった気が…?
「あら、あなた達、まだいたの?
テスト前は18時完全下校よ?
早く帰りなさい?」
と、思ってたら、見回りに来た伊織音先生に怒られてしまった。
うん、やっぱりそうだよね。
「あー、すんません。
ちょっと勉強会をしてたもんで。
すぐに帰りますー」
「ん、早くね。
あ、そだ、勉強会ってことは明日もやるの?」
「一応そのつもりですねー。
俺らも生徒会の活動なくて暇ですし」
「暇だから勉強会、ってのも、あなた達らしいわね。
まぁいいわ。
今日は私だからいいけど、明日は三年生の学年主任が見回り担当だから、時間気をつけておきなさいね。
試験前だからって、こってり絞られるわよ」
「学年主任って…もしかして、ザビ先っすか?」
「…ぷっ、そのあだ名、まだ残ってるの??
私が在学中からあるわよ」
「俺も先輩から聞いて、なので。
たぶん、受け継がれてるっぽいです」
「それ、絶対本人に言っちゃダメよ?」
「わかってますって」
ふふふ、と時代劇の悪い人みたいに笑い合う伊織音先生とトラ先輩。
ザビ先??そんな人いたっけか。
気になる。
…っていうか、
「え?伊織音先生、OGだったんですか!?」
「そーよ?
あれ、最初に言わなかったかしら?」
「聞いてないですよー。
ね、マキちゃん?」
「私も初耳だなー」
「あら、そうだったかしら」
相変わらず軽いなー。
「で、ザビ先、って誰なんですかー?」
「世界史の出島先生のことだよ。
1年生って、世界史は違う先生?」
「うちは浦賀先生ですねー」
世界史、に限らず、各教科で先生は4~5人いるんだけど、1年生の世界史担当は違う先生だった。
「見たことはある?」
出島先生…んーーーー、全然顔が出てこないなぁ。
「もしかして!ザビ、って、ザビエルのザビ!?」
「ミクちゃん正解!
よくわかったねぇ」
「一回だけ、出島先生がお休みの時の代理で来たことがあったので…」
なにかに気付いたミクちゃんが叫んだけど。
ザビエル、って、あの『フランシスコ・ザビエル』??
あ、出島だから?
いや、違う、時代的にもっと前か。
あれ?あってるっけ??えっと…うん、とりあえず今回の試験範囲じゃなかくてよかった…。
「…確かに、これは本人には言えないですね…」
「そんなにまずいの?」
「うん。
だって、ザビエルなのは、その…髪型、だから……」
髪型??……あ!?
ザビエルの髪型を思い出した途端、ある1人の先生の顔が浮かび上がる。
「あー!
あの先生が出島先生だったのか!
というか…そのあだ名ひどいですね、あはは」
「ひどい、っていいながら、それだけでわかってしまう辺り、すばるちゃんも同罪だよ?」
「だってー」
これ以上ないくらいのあだ名だけど、それだけにヒドイ。
「わかってるとは思うけど、絶対に本人には言わないこと。
私が在学中に、うっかり口に出して大変な目にあった子がいたから…詳しくは、言えないけど…」
大変な目…しかも詳しく言えない、って…。
こわっ!!!
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