第29話 リスタート
「それで?
おねえはどうしたいの?」
「どう、って??」
「だからさ。
ケイ先輩とどうしたいの?ってこと」
「どうしたい、って言われても…」
んー、私はどうしたいんだろう。
「そうだなー、どっか映画とか見に行きたい!かも。
あと、美味しいもの食べに行ったり、お買い物行ったり…。
ってこれ、この間のリベンジしたいってことだね!」
うんうん、すみれ先輩のことがあって、なんだかモヤモヤっとした感じになっちゃったしなー。
この間は傘だったけど、今行くとしたら何かな。
もう夏だし、プールとか海とかも行きたいから、水着?
う、でも、最近お腹まわりにお肉がついてきた気が…
「ねぇなゆ?やっぱりダイエットした方がいいかな!?」
「おねえ…なにがどうしてそうなったのかわからないけど、とりあえずストップ」
「う、ごめん」
怒られてしまった。
今日のなゆはちょっぴりおこりんぼ?
「あのね、そういうことじゃなくて。
うーん、私の言い方が悪かったか。
おねえとしては、この先、ケイ先輩とどうなりたいの?
お付き合いしたいのか、憧れの先輩のままでいいのか、ってこと」
ぐいっと顔を寄せてそう言われ……瞬間的に頭が沸騰したのがわかった。
マンガ的に言うと、ぼふっ!って言いながら頭から煙が出てることだろう。
「お、お、お、おつき、あい!?!?」
考えても見なかった。
いや、浮かれすぎてて頭がそこまで回ってなかったんだと思う。
そうか、そうだよね。
私の好きは、ただ憧れている、ってだけの好きでは、ない……はず。
「ねえなゆ?
私、どうしたいんだと思う?」
「そんなの私がわかるわけないでしょ?」
「だーよーねー」
お付き合い、かー。
ふと、トラ先輩とステラ先輩のことを思い出す。
すごくいいな、と思った。
私は、ああなりたいんだろうか。
なりたくない、といえば嘘になるけど、じゃあなりたいか?時変えると、即答できる感じでもない。
考えるほどにわからなくなる。
それに…
「きっとね。
今のケイ先輩は、まだそういうこと考えられないんじゃないかな、って思う。
もう、あんなツライ顔を見たくないしね」
あの生徒会室で泣いていたケイ先輩。
人を好きになるってなんだろう、って言っていた、少し潤んだ瞳。
そんな先輩に、今、私が気持ちを伝えても、負担になってしまうだろう。
じゃあ、どうしたいのかな。
そう考えて、突然思い出した。
そうだ。
「私は、先輩にとってのなゆになりたいんだ」
横にいて、大丈夫、私がいるよ、って言っていたい。
何もきかず、何も言わず、ただいるだけで安心してもらいたい。
そう思ったんだ。
「私に??」
「うん」
「そういえば、あの時もおねえそんなこと言ってたけど、それってどういう意味なの?
私になる、って、そのままの意味じゃないよね?」
「あー…」
言ってしまってから気づいた。
これ、なゆに言うのめちゃくちゃ恥ずかしい!!
「ひーみーつー!」
「えー、なにそれー?」
「ふふふ、だってはずかしいんだもーん」
「もーん、て、小学生みたいなこと言ってないで、教えてよ」
「やーだーよー」
「もう。
変な意味じゃないならいいけど」
「ふふふ、それだけは大丈夫!」
なゆのこと大好き、ってだけだからね!
その日の夜。
なんだか寝付けなくなってしまって、天井を見ながらぼーっとしていると、下からなゆの声が聞こえてきた。
「おねえ…?」
「んー?どうしたー?なゆー?」
「ねむれないの?」
「そうだねー、なんか色々考えちゃって…」
すっごく眠そうな声。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、だいじょうぶ…
おねえこそ、へいき?」
「うん、ありがと。
心配かけてごめんね」
「ううん、げんきになってよかった…。
ここのところはちょっとうざかったけど」
「うざ!?
もう、ひどいなー」
「うそ。
おもってない」
「うん、知ってる」
「はやくねないと、あしたおきれないよ……」
「そうだね、がんばる」
「じゃあ、おやすみ…」
「うん、おやすみ。
もし起きれなかったら、起こしてね?」
「かんがえ…とく……」
そのまま訪れる静寂。
ふと時計を見ると、2時を過ぎている。
この時間って、こんなに静かなんだな。
「ねえ、なゆ?」
「…………」
返事はなく、すーすー、という寝息が聞こえてくる。
「いつも、ありがとう。
私、なゆがいてくれるから、いつも安心できるんだよ。
最高の妹がいて、最高に幸せなお姉ちゃんだよ」
だから、ケイ先輩にとって、そう思ってもらえるような、そんな風になりたい、って思ったんだ。
「これからもよろしくね、大好きだよ、なゆ」
あと。
面と向かって言えないヘタレでごめんね。
「私も、おねえのこと、好きだよ……
いつも一緒にいてくれて、ありがとう」
夢現で、なゆの声が聞こえた気がした……
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