番外編1 バレンタイン狂騒曲
たまたま水曜日がバレンタイン当日に当たるなんて!ということで、せっかくなので番外編追加です♪
これは、トラとステラがまだ1年生の頃のお話。
その日、トラは数多く積まれたチョコレートと、にこやかな笑顔を向けるステラを前にして、人生最大のピンチに陥っていた。
――2月14日。
そう、バレンタインデーである。
いや、ただのバレンタインデーではない。
トラとステラが『両思い』を確かめたあの日以来、『初めて』のバレンタインデー、である。
トラがバレンタインデーにチョコを大量にもらうことは、毎年のことだった。
見た目に派手で男前であり、こと女子校においては格好の標的であった。
いや、女子校以前、中学の頃からその傾向はあった。
そのため、トラがチョコをもらうことについて、ステラは(多少の嫉妬はあるものの)仕方がないことであると割り切ってはいた。
だが……
「あ、あのさ、ステラ。
その、なんでそんな、怒ってるんだ?」
「あら? 私は怒ってないわよ?
それともなに?
怒られるような心当たりでもあるの?」
「いや、その……」
怒っていない、とは言うが、明らかにステラの目は笑っていない。
むしろ、『目』以外は笑顔そのものなので、かえって怒りの度合いが高い様に思われる。
しかし、なぜそのような目を向けられているのか、トラには皆目見当がつかなかった。
「いや、だからさ。
心当たり、って言われてもよ?
こう、チョコをもらうのは毎年のことだろ?
くれる子達も、別にキャッキャしたいだけなんだし、特別な意味なんてないわけだろ?
無下に断るのも……ほら、な? カドが立つだろ?」
「ええ、そうね。
それについては別に何も思ってないわよ?
美味しそうなチョコなので、ちょっと私にも分けて欲しい、ってくらいかな」
(今、『それについては』って言った……やっぱり怒ってる……)
ひとまず言質は取れたものの、だからといって『正解』は一向にわからない。
「あーもー!
降参!! わからん!
わからんが、ステラがそうやって嫌な気持ちになっているのは、嫌だ。
俺はほら、そういうのほんっと疎いからさ、言ってくれなきゃわかんねーよ。
俺にとっての一番はステラなんだから、そのステラが嫌だって言うことはしたくないし、こうして欲しいってことはなんでもしてやりたいんだよ」
手放しの降参。
まさにお手上げ、といった風情で思いをぶつける。
それを聞いて、さすがにステラも態度を軟化させる。
「はぁ……そうよね、そういう細やかさをトラに求める私がバカだったわ」
「そーだよ、バカだよ、だから教えてくれよ」
「……トラ、なんか私に渡すもの、ない?」
「渡すもの……??
チョコなら、さっきやったじゃんか」
「あのね……さっき、って。
その! もろうた中から! 適当に一個くれただけやろ!?
そげん、もらったかて嬉しくもなんともなか!!」
「あー……そういうことか」
激昂し、思わず博多弁の飛び出るステラに対し、やっと理由のわかったトラは思わず吹き出してしまう。
「なんが面白かとか!?」
「いやいや、ステラはほんと、可愛いなぁ」
「そげんことでは騙されんばい!?」
「あのな、さっきも言った通り、俺にとっての一番はステラなんだよ。
だからな、その『一番』のステラに渡すものが、もらったものから適当に、なんてわけないだろ?」
「ばってん……」
「や、紛らわしい渡し方をしたのは謝る、すまん!
思った以上にもらってしまったせいで、ステラ用のチョコをいれたバッグの上から放り込んでたんだよ。
その前に避けておけばよかったんだけど、忘れててそのまま底に沈んだままでな?
だから、もらった中から渡したんじゃなく、もらったものが入ったバッグの底からステラのためのチョコを取り出した、ってわけ」
「え? うそ?」
「嘘なわけあるか。
一応手作りなんだぜ?
っても、ただ溶かして固めただけだけどよ」
「……ほんとだ、包装が歪んでる」
「う、それは、見なかったことにしてくれ……」
「えー? やだ、このまま開けずに取っておきたい」
「いやいや、頼むから食べてくれ」
「うん……
……勘違いして、ごめんなさい」
「いや、俺も紛らわしいことして悪かった」
「ううん、トラは悪くない」
「じゃあ、ステラも悪くない。
ってことで、この話はおしまい、でいいか?」
「うん……」
2月14日。
この日は非常に寒く、芯から冷えるほどであったが、不思議とこの部屋の中だけはチョコが溶けそうなほどに暑かった。
Happy Valentine’s Day!
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