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流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第4章 レイニーレイニー
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第27話 ああ、そっか

 あれから半年。

 意外と言うかなんというか、一美はまだすみれ先輩ラブのままだった。

「まさか、こんなに続くなんてね」

「ん? なんか言ったー?」

「いいえ、なんでもないわ」

「そう?

 あ、そんなことより! この間すみれ先輩がね――」


 正直言うと、ちょっと見直した。

 きっと最初は恋をしてみたい! くらいの軽い感じだったんだと思う。

 でも、それだけで半年も思い続けるなんてのはできない。

 きっかけなんて、なんでもいいのかもしれないな。

 まぁ、ちょっと、盲目的すぎて危なっかしい気もするけど。

 そんなことより、問題はどう見てもすみれ先輩にその気がないこと、くらいかな

「でね! 来週クリスマスでしょー!!

 年が開けたら、受験でほとんど3年生は学校に来なくなるし。

 私、すみれ先輩に告白する!!」

「……本気?」

「うん! もう、決めた!

 ……っても、多分ダメだとは思うけどね。

 でもいいんだ。

 このまま何もしないままお別れ、ってのは嫌だし!」

「そっか。

 うん……がんばれ。

 残念会の用意しておくわね?」

「ちょっとー!

 もしかしたら万が一うまくいくかもしれないじゃんー??」

「ふふふ、そうね。

 その時はその時で、お祝いしてあげるわよ」

「えへへ、ありがとっ!」




 そしてクリスマス。

 運命の日を迎える――




 良くも悪くも。

 すみれ先輩は非常に素直だ。

 感情表現はストレートだし、裏表なく思ったことをズバズバという。

 見た目の可愛らしさとかけ離れてすごく男らしかった。

 一美が好きになったのもそういう所だったんだろうけど……それは常にいいことばかりではなく。

 とはいえ、まさかあんな最悪の形でその『悪いところ』が出てしまうとは思ってもいなかったけど……。


 結論から言ってしまうと、一美は振られてしまった。

 一美も覚悟していた通りの結果なので、それ自体はしょうがないことではある。

 なのだけど……


「すみれ先輩!!

 私、すみれ先輩のこと、好きです!!」

「おー、私も一美のコト好きだぞー?

 なんだなんだ、わざわざこんな所に呼び出すから何かと思ったら、そんなことか。

 じゃあ、悪いけどこの後用事あるから、行くね」

「あ、あの!

 そう……じゃなく、て。

 そういう、好き、じゃ、なくて……」

「ん??

 どういうこと??」

「で、ですから。

 その……恋愛感情的な意味で……好き、なんです……。

 よかったら、お付き合いをして下さい!!!!」

「え? なにそれ?

 一美ってばそんな風に見てたの?

 やだよ、気持ち悪い。

 私、そっちの趣味はないし」

「え……?

 ……あ、はい……」

「用ってそれだけ?

 他にないんだったら行くよ。

 ま、これまで通り仲のいい先輩後輩、ってことで今後共ヨロシク!」


 今から告白してくる、っていう一美を教室で待っていた私は、戻ってきた姿を見てかなりびっくりした。

 まぁ、ダメだろうな、とは思っていたから泣き止むまでは付き合うつもりでいたけど、まさかあんなに号泣しているとは想定外だった。

 ある程度落ち着いた後、こんなやり取りがあった、って聞いて信じられない気持ちでいっぱいだった。

 『今まで通り』って……いくらなんでもありえないでしょ……。


 後日、すみれ先輩に聞いてみたところ、

「あー、言った言った。

 いやだってさー、そんなこと言われたって無理でしょー」

と、けらけら笑いながら答えが返ってきて、呆気にとられてしまった。

「先輩は……もう少し……人の気持ちを考えるべきだと……思います……」

「えー? なにそれー?

 やだなぁ、私だってちゃんと考えてるよー?

 だからほら、これまで通りでヨロシク! って言ったんだし」

「……そう、ですか」



「その後は、この間話した通りよ」

 そう言ってケイ先輩は言葉を区切った。

 なんて言ったらいいのかわからない。

 でも、涙が溢れて……止まらなかった。

「ふふ、すばるんは泣き虫ね」

 そう言って、タオルで涙を拭いてくれる。

 よしよし、って頭を撫でてくれる。


「私は。

 半年間、一美を見ていた。

 まだ初恋もしたことがないから、人を好きになるってすごいパワーがあるんだな、って思ってた。

 焦る気持ちはなかったけど、いつかこういう気持ちになる日が自分にも来るんだろうか、って少しワクワクもした。

 まぁ、もう少し冷静に、盲目にならないようにしよう! とは思ったけど。

 だからこそ、その後に一美がすみれ先輩の悪口を言いふらすのを聞いていられなかった。

 あんなに好きだ、って言ってたのに、最後には憎しみさえ抱くようになるなんて思いもしなかった。

 それに、すみれ先輩がケロッとしてるのも、一美をかばおうとしているのも、見ていて辛かった。

 人を想うってなんだろう、って。

 好きになるってなんだろう、って。

 当事者ではないんだけど、逆にずっと見てたからこそ気持ちの整理がつかなくて。

 私にはわからなくなっちゃった」

 一言ずつ、噛みしめるようにゆっくりと言葉を吐き出す先輩。


「その後、すみれ先輩は県外の大学へ合格して、ここから出ていったの。

 だから、そうそう会うこともないと思ってたんだけど……まさかあんな所でばったり、なんてね。

 取り乱しちゃって、ごめんね。

 みっともないトコ見られちゃったわね」

「……そんなこと、ないです」

 タオルをケイ先輩に押し付け立ち上がり、座ったままの先輩の頭を抱えギュッとする。


 きっと、私が見てる所では泣けないんじゃないかな、と。

 我慢してるんじゃないかな、と。

 なんとなくそんな気がして。

 だから、私は先輩の顔、見えないから安心して泣いていいですよ、って気持ちを込めて抱きしめる。

「ちょ、ちょっとすばるん。

 ……どうした、のよ……急に……」

 声に、涙が混じる。

 ケイ先輩の手が私の背中に回る。

 その手に力が入る。

「……ごめん……ありがとう…………」


 そうやって先輩を抱きしめながら、唐突に私は気付いてしまった。


 ああ、そっか。

 私、ケイ先輩のこと、好きなんだ。



 朝から降り続いていた雨はやみ、外にはきれいな夕焼け空が広がっていた。

 長かった梅雨がやっと終わり、暑い夏がやってくる――



次週は一旦登場人物まとめを挟んで、夏休み編へ入っていきます。


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