表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れ星を手のひらに  作者: ただみかえで
第4章 レイニーレイニー
26/134

第25話 私は…先輩にとっての

 早く放課後にならないかな、と一日思っていたのに、いざ放課後になるとどうにも落ち着かない。

 うう、私の意気地なし……。


 翌日、朝からの雨で早速おニューの傘がデビューを飾った。

 本当ならケイ先輩に見せたかったんだけど、残念ながら会えず。

 いや、心の準備ができているようなできていないような、だから会えなくてもよかったのかもしれないけど……。


 そのまま一日は過ぎ……

「おねえ、大丈夫?」

「うん……ありがとう、なゆ」

 放課後の教室で、なゆに手を握られて座っていた。

 昨日も一昨日も、なゆには何も話していない。

 正直な所、どう話したものか全くわからないというのもある。


 それなのに、何かおかしいってのはわかったみたいで、そばにいて心配してくれている。

 そうだよね、何も知らなくてもそばにいることはできるし、そうしていてくれるだけでこんなにも心が暖かくなる。

 私も、ケイ先輩にとってのそんな存在になれるかな……。



 なゆと一緒に生徒会室までやってきた。

 心臓がバクバク言っている。

 私は、上手に笑えるだろうか……。


コンコン


ガラガラ


「こ、こんにちはー!」

「おーぅ、すばるちゃーん。

 どしたー??」

「あら、珍しいわね。

 今日も何かお手伝いを頼んでいたのかしら?」

 勢い込んで来たものの、中にはまだトラ先輩とステラ先輩しかいなかった。

 私のドキドキを返して!!

 って、心の中で八つ当たりをしつつ(先輩方ごめんなさい!)、よく考えてみたら当たり前なのにこの状況を想定していなかった自分のお馬鹿さ加減にちょっと呆れてしまった。


 でも、いいや。

 ただケイ先輩に会いたくて来た、それでいい!

「えっと、ケイ先輩ってまだ来て……ないですよね、はい」

「見ての通りだな。

 ま、もーすぐくるんじゃね?」

「そうね、特に休むといった話も聞いてはいないわね」

「あの、待ってても……いいですか?」

「もちろん、すばるちゃんなら大歓迎だよ!」

「ありがとうございます!

 あ! お茶! 淹れますね!!」

「ふふ、ありがとう。

 お願いしようかしら」

「はい!!」


 なんとなく、動いていないと落ち着かない。

 ……ん、だけど。

 いつもお茶を淹れてもらっていたから全く気づかなかったけど、なんか家にあるポットとなんか違う。

 茶こしっぽいの入ってないし、え? これどうするの??

 このまま葉っぱ入れたら、お茶と一緒に葉っぱがどばって出ちゃうよね??

「おねえ、手伝うよ」

「う、ありがとうなゆ。

 まさかお茶を淹れるだけでこんなに戸惑うとは思わなかった」

「だろうな、って思って」

「お見通しね、ふふ」

 さすが双子の妹。

 よくわかっておられる。

「……やっと笑った」

「え? 私笑ってなかった?」

「ぜんっぜん。

 ガッチガチのこっちこち。

 釘が打てるんじゃないか、ってくらい固まってたよ」

「ちょっと、なにそれー」

 自分では、笑ってるつもりだったのになぁ……。

「うぅ、そっかぁ……」

「うん。

 おねえは、そのほうがいい。

 なんかずっと悩んでるみたいだったけど、頭で考えるより動く方が得意でしょ?」

「なゆー?

 なんか、その言い方だとおバカの子みたいじゃないー」

「ん~、そうとも言う?」

「ひっどー!」


 ふふふ。

 もう、なゆったらひどいんだから。

 ほんと、いい妹を持ったものだ。


「何も聞かずに紅茶にしちゃいましたけど、よかったですか?」

「おっけおっけ。

 ちょうどこないだウチのおとんが仕事でもらった、っていう美味しそうな葉っぱもってきてたから、新しいのあったしょ?」

「あ、はい。

 開けていいのかな? ってちょっとドキドキしちゃいました」

 パッケージだけでなく、全部英語で書いてあって何事かと思ったけど、そういうことだったのね。

 なゆが『よくあること』って言ってたので開けちゃったけど、私1人だったら葉っぱそのものが見つからない所だった。

「なんかさー、イギリス王室御用達? とかって、すごいやつらしいぜ。

 一缶で1万円くらいするとかって言ってたかなぁ」

 いち……まん……えん!?

「えええええええ!?

 そ、そんな、私の一ヶ月のお小遣いより高いじゃないですか!!」

「ぷっ、なんでそんなカミングアウトしてんのさ!

 ま、もらいもんだって言うからじゃんじゃん飲んでよ」

 じゃんじゃん、って言われても……。

 紅茶飲むのにこんなに緊張するなんて……!

「……うわ……すっごい美味しい……」

 これがいちまんえんのお味!?

 ……って、まぁ、お値段相当かどうかなんて全くわからないけど、雑味がなくスッと飲めるすごく美味しい紅茶だった。

 前に淹れてもらった紅茶も美味しかったけど、それと比べても格段に上だった。


コンコン

ガラガラ


「失礼しま……あ、すばるん、来てたの」

 そんな油断しまくって顔のゆるんでいた時に、ケイ先輩が来た。

 何事もなかったかのように入ってきて、いつもどおりの優しい笑顔なんだけど。

 目の下のクマを、なにより、私を見て一瞬すごく辛そうな顔をしたのを見てしまった。


 違う!

 そんな顔が見たいんじゃない!!

 気がついたときには、私はケイ先輩に抱きついていた。

「ちょ! ちょっと!?

 すばるん!?」

 背の高さで言えば、ちょうど同じくらいかちょっと高いくらいのケイ先輩。

 勢いよく抱きついてしまったせいで少しふらついてしまっていたけど、驚きながらも受け止めてくれた。

 肩に顔を埋めて、ギューっと抱きしめる。

「先輩……ケイ先輩……」

「ど、どうしたの? すばるん?」

「私……ケイ先輩のこと、何も知らないです。

 何があって、どうして辛いのかもわかりません。

 教えて欲しいとも、思いません。

 や……ちょっとだけ思いますけど、気にしないように、します。

 でも、その顔は、見たくないです……。

 辛そうなのは、すごく嫌です。

 私は……先輩にとっての『なゆ』に、なれないですか……?」

「…………」

 しばらくの沈黙。

 この場にいる、誰も、何も言わない。


 ……うーん。

 こんなこと言うつもりなかったんだけどなー。

 こんな風にするつもりもなかったんだけどなー。

 けど、あの一瞬見せた辛そうな顔を、それを見せないようにいつも通り『に見える』繕った顔も、見たくなくて。


 なゆに言われた通りだな。

 頭で考えるより、先に体が動いちゃった。

「……もう……バカね」

 ケイ先輩が私の頭を撫でながら、優しい声で言うのが聞こえる。

「すばるんが泣くことじゃないわよ」

「うぅ、泣いでまぜん……」

 肩に顔をぎゅっと押し付ける。

「はいはい、わかったから。

 ちょっとだけ離れてくれる?」

「イヤです!」


ぺしっ


「あうっ」

「別にどうもこうもしないから。

 大丈夫だから。

 ……この体勢、腰に響くのよ?」

「あ! ごめんなさい!」

 勢い良く行き過ぎた……。

 そっと体を離すと、ケイ先輩がハンカチで私の目の辺りを拭いてくれる。

 違うもん! 泣いてないもん!

「よしよし。

 ほんと……バカね。

 あの後ずっとそんなこと考えてたの?」

「う……」

 じ、っと目を見つめられて言葉に詰まる。

 茶化すように言ったけれど、すごく真剣な目。

「……はい」

 ケイ先輩の目を見つめ返しながら、答える。

「……そっか。

 ありがとうね」

 ふわっとした優しい笑顔。

 私の好きなケイ先輩の笑顔。

「えっと、そろそろ口を出してもいいかしら?」

「あ、ごめんなさい!!」

 頃合いと見てか、ステラ先輩が口を開く。

 そうだった。

 ここは生徒会室だし、他にみんなもいるんだった。

「よくわからないけれど、週末に何かがあったの?」

「……はい。

 すばるんと買い物にいったんですけど、そこで――


 すみれ先輩に、会いました」


気に入っていただけたら、下の方の評価とかブックマークとかお願いします★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ