第97話 いま何時?
「……なに、これ?」
なゆのお手伝い(あとトラ先輩ステラ先輩へチョコをお渡しするため)に生徒会室までやってきたら、そこには謎の大行列ができていたのだった……。
「すいませーん、通りまーす」
行列の横から生徒会室へ入る。
そこで私の目に入ってきたのは……
先に来ていたなゆと、机の上の大きなダンボールと、その前に置かれたスマホ。
……中に入ればなにかわかるかと思ったけど、余計にわからなくなった……。
「あ、おねえ」
「なゆ~、何が起こってるのー?」
「お、すばるちゃんじゃん」
……ん?
あれ、なんかスミカ先輩の声が聞こえた気がしたけど……?
幻聴かな……?
どうせ聞くなら、ケイ先輩の声がよかったなぁ……。
「あれ、ちょっとー?
おーい、すばるちゃーん?
聞こえてないのー??」
「どうしようなゆ、スミカ先輩の幻聴が聞こえる……」
「おねぇ……そこ」
あまりにもはっきり聞こえる幻聴にちょっと怖くなってた私に、なゆが指差したのは……スマホ?
「…………え!?」
「やっほー」
そこには、スミカ先輩の顔が映っていたのだった。
「テレビ電話……?」
「そそ」
「えっと、今ってそっちは何時なんですか?」
「21時前の自由時間だよー」
「あ、そうなんですねー」
…………。
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
普段の感じで話してしまった。
「なんでテレビ電話なんてつないでるのか、ってことが聞きたかったのですよ」
「ああ、なるほど。
それはね――」
簡単にまとめると、こうだ。
HRが終わって、なゆが生徒会室に来るとすでに人だかりができていて、どうしたのか聞くと、スミカ先輩へのチョコを持ってきた、とのこと。
修学旅行でいないことを告げると、それは知っている、逆に面と向かって渡すのは恥ずかしいから置いていきたい、と。
さすがに本人いないので預かれない、と言ったが聞かず、困って電話をした。
ということらしい。
「この時間なら、ちょうど自由時間かな、と思って」
「ばっちりだったよ、なゆたちゃん。
じゃあ、悪いけどお願いできる?」
「はい」
スミカ先輩としても、さすがに誰かわからないまま受け取るのは嫌だし、名乗られずとも少なくともちゃんとお礼は言いたい、とのことで、一人ずつ受け取る(代理でなゆが)ことになったんだって。
どこかの芸能人のイベントみたいだなぁ。
……ちょっとまって。
ってことは、今、ケイ先輩にかけたら、繋がる……!?!?
ど、どうしよう。
かけてもいいのかな。
時計を見ると……トラ先輩とステラ先輩が来るって言ってた時間まではまだ少しある。
なゆはスミカ先輩のお手伝いでお仕事ができないし、なゆが動けないとお手伝いの私もやることがないし……。
どうしよう、すっごくドキドキしてきた。
手に持ったスマホの画面には、ケイ先輩の名前が。
あとは、この受話器のマークを押すだけで電話がかかる……。
耳の横に心臓が移動してきたんじゃないか、ってくらいにどくんどくんと音がする。
ケイ先輩に電話をかけることだってないわけじゃないし、メッセージ送ることなんかは普通にできるのに。
1週間会えない、声も聞けない、って思っていたからかな。
想定外のことに脳も心臓も追いついていないみたいだ。
どきどき……
そういえば。
明日はいよいよ『すばる望遠鏡』を見に行くのですごく早く寝る、って言ってたから今みたいな時間には電話できないし。
その後は、帰国の準備やらでやっぱり無理っぽいし……ああ、もっと早くわかってたらなぁ。
いや、もしそうだったとしても、毎日電話するわけにもいかないし、じゃあいつならいいのか? って言われてもわかんなくて、結局今日までずるずるしそうだし。
逆に、今日しかない、ってタイミングがベストだったんだと思うし。
……って、もうこれ、かける以外の選択肢がなくなってるじゃん、私。
だって、しょうがないじゃん!
もう数日我慢しないと! って思ってたんだから。
よし。
意を決して受話器ボタンを押そうとした、その時。
♪~~♫~~~
おもむろにスマホから着信音が鳴る。
けど画面はなぜか変わらず、ケイ先輩の名前のまま。
違う! これ、え!? え!?!?
「も、もしもし!!!」
「ぷっ、なにその声」
「い、いえ、その、すみません!」
あまりにも予想外のことが起こったせいで、声が裏返ってしまった。
そうなのだ、なんと、ケイ先輩の方から電話をかけてきてくれたのだ!!
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