第95話 天才画家
先輩はそろそろ空の上だろうか。
お昼のあとの眠い中、世界史の授業をぼんやり聞き流しながら空を眺める。
寒いながらもとてもいい天気で良かった。
揺れると怖いもんね、飛行機。
飛行機といえば、夏合宿はほんと楽しかったなぁ。
ファーストクラスなんて、この先の人生で二度と乗ることがないだろうし、すごい経験だった。
ほんと、トラ先輩には感謝しかない。
あ、そうだ。
せっかくチョコ多めに作ったし、トラ先輩とステラ先輩にも渡そう。
3年生は年が明けたら自由登校になるからほとんど来ない、って言ってたけど、連絡すれば来てくれるかな?
お二人とも内部進学で外部受験組ほど大変じゃない、とのことだし、大丈夫かな。
……バレンタインデートはしてそうだけど……。
う、むしろそれを邪魔してしまう方がマズいような……。
「ではこの問題を……そうだな、星空くん、答えたまえ」
「……へ? あ、は、はい!」
って、この問題ってなに!?
全然聞いてなかったよ……。
「すばるすばる」
どうしよう、って目を泳がせていると、斜め前のマキちゃんがそっと助け舟を出してくれた。
ノートに、大きく答えが書かれている。
「あ、えと、『メディチ家』です」
「……よろしい。
ちゃんと授業は聞いているように」
「はい……」
「さて、このメディチ家だが、今の星空くんを助けた彼女のように――」
この後、授業の時間中、私とマキちゃんをネタにして話が進んだのだった……。
マキちゃん、ごめんよ。
はぁ、ほんと。
この間からどうも上の空でだめだー。
もう学年末試験まで1ヶ月もないのに……また勉強会してもらおうかな……。
◇
「や~~、若き天才画家すばるんと~~、ぱとろんのマキか~~。
すごい取り合わせだったね~~~」
「うぅ、それはもう言わないで……」
放課後の生徒会室。
私だけじゃなく、マキちゃんかのちゃんの二人もナユのお手伝いに来てくれていた。
のはいいんだけど、早速さっきの授業の話題に。
「おねえが天才画家……ぷふっ……あ、ごめん」
「……なーゆー?
今のなに!? 思いっきり吹き出してたよね!?」
「そ、ソンナコトナイヨ」
無表情を装いながら、そっぽを向いているけれど、頬がひくひくしているのをお姉ちゃんは見逃さないよ!?
「なゆたがそんなに笑うの、初めて見た気がする」
その様子を見ていたマキちゃんがぼそりと呟く。
「あー、なゆの笑い顔ってレアだよね~」
普段から笑わない、ってわけじゃないんだけどね。
吹き出すように笑うのってすごく珍しい。
まぁ、私のことが原因だってのがアレだけど……。
「マキちゃんが大金持ちで、若い才能を囲ってる、ってのもすごいギャップだけどね」
と、話題をマキちゃんの方に向けようとしたんだけど、
「いや、おねえの『天才画家』の前には大したことない」
って。
流石にひどくない!?
……いや、うん、昔から絵は下手っぴぃだし、美術の成績も1とか2だったけどさー。
「なになに?
すばるってそんなにアレな絵描くの?」
「そ、そんなこと……ない、はず……」
「ぷっ、最初の勢いはどこいったんだよ」
「だってー」
マキちゃんにまで笑われてしまった。
「もう……だめ……」
それよりなにより、後ろで肩を震わせながらお腹抱えてうずくまるなゆが気になるんだけど……。
え、そんなになるほど!?
「待って?
なゆ、私の絵って、そんなに!?」
「の、のーこめんとで……」
絞り出すような声で答えるなゆ。
これはしばらく使い物になりそうにないな。
必死で笑いをこらえるなゆ、という珍しいものが見れたのはいいけど、とてもとても腑に落ちない。
「そこまでひどくないよ!」
たぶん……。
「じゃあさ、お題に沿ってイラストを描く、ってのやってみようよ」
「お~~、いいね~~~~」
「ん、いいよ」
「う……いい、けど……」
そして唐突に始まるイラスト勝負。
勝負と言っても、ルールはざっくりとしていて。
自分の以外のどれが一番いいと思ったか、を指差して勝ちを決める、ってくらいのゆるいものだ。
お題は、簡単なりんごから始まり、猫や車といったちょっと難しいものまで5題あった。
3問目から途中参加したミクちゃんが、めちゃくちゃ上手で、途中参加ながらに優勝をかっさらっていった。
私はといえば……。
うん、なんかね。
みんなの目がすごく優しくなっていたのだけは覚えてる……。
うわああーん!!
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