第93話 試作
てってけてけてけてってってー♪
さぁやってまいりました、すばるのチョコレートクッキングのお時間です~♪
……と、まぁ、うん。
なんか自分でテンション上げないと、妙に緊張してしまう。
料理自体は最近がんばってるはずなんだけど、お菓子作りってハードルが高い。
「なに? すばる。
力入ってるわね」
「お母さん……」
「そんなに緊張しなくても、ただ溶かして固めるだけだから大丈夫よ」
「だってー。
今回はケ……人にあげるものだから失敗できないし」
「ふぅ~ん?」
う、なんかすっごくニヤニヤした目で見られてる気がする……。
「なるほどなるほど。
憧れの君への贈り物ってわけね~?
それは気合が入るってもんだ」
「ち! ……がわなくもなくもないけど、そ、そういうんじゃなくて!!!」
「はいはい。
なんでもいいけど、もっと肩の力を抜きなさい」
「は~い」
今日は日曜日。
朝からお母さんとチョコ作りだ。
なゆにも『一緒にやる?』って聞いたんだけど、普通に買ってくるからいいとのこと。
せっかくだからやればいいのに。
まぁでも、いたらいたでお母さんとなゆの二人にからかわれ続けたのかも、と思うとこれでよかったような気もする。
「はい、じゃあまずはお湯を温めましょう」
「はーい」
たっぷり目にお水を張ったお鍋を火にかける。
「沸騰させちゃダメだからねー。
ちゃんと温度はかってやるのよ」
「大丈夫!」
色々調べてみたところ、チョコを単に溶かして固めるだけ、とは言え温度管理がすごく大事、らしい。
一回50℃くらいで溶かした後、30℃くらいまで冷まして、そこからもう一回温める、ってことをやるらしい。
テンパリング、って言うんだって。
実際、そうしないと不味くなるわけじゃなくて、やった方が美味しくなる、ってことらしくて。
お母さんは『もっと適当でいいのに』なんて言ってたけど、どうせなら美味しい方がいいに決まってる。
ということで、買ってきた温度計を手に……じゃない。
お湯が温まるまでの間にチョコを刻まなきゃ。
ビターの板チョコを開けてまな板に。
手の熱で溶けちゃわないように、できるだけチョコ自体を触らないよう気をつけて包丁を入れる。
思ったよりは固くないけど、そこそこに切りにくい。
大きな塊を買おうとしたら、刻むのが大変だから板チョコにしときなさい、ってお母さんが言った意味がわかった気がする。
こんな薄いのでさえすんなりとはいかないのに、あの塊を相手にできる気がしない。
「刻むのに一生懸命なのはいいけど、お湯も見なさいね」
「あ!」
つい集中しちゃったけど、お湯が沸騰しちゃったらダメだ。
慌てて温度計を入れると60℃。
うん、このくらいでいいはず。
「ねぇ。
ふと思ったけど、それ、先に刻んでからお湯沸かせば良かったんじゃ?」
……あ。
ネットに載っていた手順通り、お湯を沸かしながら刻んだけど、よく考えたらその通りだ。
そういう所、もっと臨機応変にできるようになりたいものだ。
反省は後にして、お湯が冷める前に残りのチョコも刻んでしまおう。
「よし、こんな所かな」
あらかた細かくなったチョコを見る。
「うん、いいんじゃない?」
お母さんのお墨付きももらった。
ボウルの縁に温度計を固定して(クリップ付きなのだ!)、刻んだチョコを入れる。
さぁ、いよいよ湯煎だ!
「ドキドキする……」
「見ててあげるから、ゆっくりやりなさい」
「うん」
ボウルをお湯の上に浮かべて、ちょっと待つ。
「おお……溶けてきた……」
見ていると、底の方のチョコがとろりとしてくる。
ヘラで少しずつ混ぜていくと全体が溶けてきて、濃厚なココアみたいになってきた。
かき混ぜながら、温度計をじっと見つめる。
40℃……45℃……50℃!
パッとお湯から外して……あ! 氷水用意するの忘れ……あれ? ある……?
「すっかり忘れてたみたいだから、準備しといたわよ」
「ありがとうお母さん!!」
溶けたチョコを固まらないようかき混ぜながら冷やして、30℃くらいまで下げて……うん、こんなもんかな。
あとはココアを入れてゆっくりかき混ぜる。
ココアを混ぜるのにもたもたしてたら、温度が下がり過ぎそうになったのですこーしだけお湯に乗せて固まらないようにして。
「うん、いいんじゃない?」
最後のお母さんチェックもクリア!
「おお……うまくいった……」
感動……。
「ほら、ボケっとしてないで型に入れちゃいなさい。
「うん!」
危ない、ここで固まってしまったら意味がない。
「……お母さん?
なんで、ハートの型があるの??」
おかしい、確か星の形の型しか買ってこなかったはずなんだけど……。
「え? だって憧れの君に渡すんでしょ?
すばるが湯煎してる間に探しておいたわよ?」
「……むぅ」
いや、うん、ありがたくないわけじゃないんだけど。
そのニヤニヤ顔で言われると、素直にお礼を言いたくなくなる……。
せっかくだし……じゃなかった、わざわざ探してくれたからしょうがなく使わせてもらうけど。
それぞれの型にチョコを半分くらい流し入れ、ドライフルーツとかナッツとかを乗せていく。
作り方のページには『固まりだしてから』ってあったけど、そこそことろっとしてるのですぐやっちゃってよさそう。
残り半分のチョコで蓋をして――
「できたー!」
「うんうん、上出来ね」
粗熱が取れたら冷蔵庫で固めたら完成だ。
「簡単だったでしょ?」
「……うん、思ったよりは。
他のお菓子も今度やってみようかなぁ……」
「ふふふ、あのすばるがこんなになるなんてねぇ……」
「な、なによー」
「ううん、いいことじゃない」
ほんと、そのニヤニヤ顔さえなければ……。
一生分ニヤニヤされたんじゃないだろうか……。
「で、もう一つ作るんでしょ?」
「あ、うん!
そうそう」
実を言うと、さっきのはケイ先輩だけじゃなくみんなの分も作ってある。
一人だけ手作り、とか、みんなに何を言われるかわからないし。
でも、やっぱりケイ先輩にはトクベツを贈りたい!
ってことで、サイトに載っていた別のものにもチャレンジすることにしたのだ。
といっても、テンパリングしなくていい分、こっちの方が簡単かもしれない。
よし、がんばろう!
※テンパリングの手順は、明治さんのサイトを参考にしました★
https://www.choco-recipe.jp/milk/basic/basic/basic_06.html
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