第92話 チョコ
「うーん、チョコかー。
特に意識したことなかったわね」
「ですよねー。
私もチョコの種類、って言われてもよくわかんなくて」
この間買ってきた本には、結構大変そうなものばっかりが載っていた。
ザッハトルテとかフォンダンショコラとか……。
もっと初心者向けのものを買ってくるんだった。
でもそうすると、溶かして固めるのばっかりに――
「おーい、すばるん?」
「あ! すみません!」
ダメだ、どうも考え込んじゃうな。
「お互いよくわかんないし、なんか美味しそうなやつで!」
「そ、それが一番困るんですよーーー」
「ふふふ。
でも、ほんと、なんでもいいのよ?」
「が、がんばります……」
せっかく聞いてのに、結局解決しなかったよ……。
それはそれとして。
「あの……修学旅行ってどこに行くんですか?」
5泊7日、ってもしかして外国なのかな?
「もぅ、そこから聞いてなかったのね。
というか、入学案内に書いてあるんじゃなかったかしら?」
「そんなの、全然覚えてないですよー」
思い出そうとしても、表紙にスミカ先輩がいた、ってことくらいしか出てこない。
入学の決め手になったのは、近いことと制服が可愛い、ってことだけだし。
「ほんとに知らないのね……」
一生懸命記憶をたどっていると、なんだか呆れた目で見られてしまった。
だってー。
「ハワイよ、ハワイ」
「ほえー、ハワイですかー……ハワイ!?
え!? ハワイってあのハワイですか!?」
「他にどんなハワイがあるか知らないけど、そのハワイよ。
アメリカの50番目の州で、太平洋の真ん中に浮かんでいる南の島。
お正月なんかには、芸能人がよく行っているあそこよ」
「すごーい!
宇宙関連、ってことで、種子島とか行くのかと思ってましたよー」
「そこで、NASAの宇宙センターが出てこないあたり、さすがすばるんね」
「それ、褒めてませんよね?」
「うふふ」
その優しい視線が、かえってつらい!
「でも、ハワイだなんて、うちの学校もなんだかんだで私立ですねー。
リゾートって感じですもんねー」
「なーに言ってるの。
もちろん自由時間はあるけど、メインはすばるんと同じ名前の望遠鏡よ?」
「私の名前?
……あ!! すばる望遠鏡!!!
え、すごい、アレみられるんですか!?」
すばる望遠鏡。
確か、富士山より高い山の上にあるすっっごく大きな望遠鏡だ。
ああいうのって、普通には見られないのかと思ってたよ。
「普通に、見学ツアーってのがあるらしくてそれで行くんだって。
あと、山頂での星空観測してそのまま日の出を見るんだって」
「おお、なんかすごいですねぇ……」
「そうなんだけどね……」
なぜか遠くを見つめる先輩。
「何か、問題があるんですか?」
「……星空観測からの日の出、ってことはね。
ホテルを夜中に出て見に行って、そのまま朝までなのよ……」
「あー……」
「ただでさえ時差ボケ大丈夫かな、なんて心配してるのに……」
「時間の感覚がおかしくなっちゃいそうですね」
「ええ……」
◇
じゃあ悪いけど来週よろしくね、と言って先輩は帰っていった。
旅行の準備やらなんやらで色々大変みたいだ。
……ハワイかぁ。
聞いた感じ、結構過密なスケジュールっぽいけど、それでも楽しそうだな。
さて。
チョコだ。
来週先輩がいない、当日には渡せないってことで、ちょっとだけ猶予ができた気がするけれど。
それでも試作はしたいし、やっぱり週末までには決めないといけない。
ポチポチとスマホを操作して調べてみる。
『手作りチョコ』『かんたん』で検索すると、やっぱり溶かして固める、ってのがいっぱい出てくるなぁ。
いつもはスルーしてたけど、藁にもすがる思いで見てみる。
あ、これちょっと面白い。
たまたま開いたレシピページに書かれていたのは、中に何かを入れるタイプのチョコだった。
☆★☆★
まずは溶かしたチョコを器に1/3入れて固める。
半分くらい固まったら、好きな具(ナッツやレーズンなど)を入れて残り半分を上から入れて冷やす。
しばらく冷やしたら完成!
☆★☆★
これ、簡単だけど、上に乗せるのと違って何が入ってるかわからないから楽しい。
『応用編』も載ってるし、うまくいきそうならそっちもチャレンジしてみようかな。
もっと早くに見ておくんだったー!
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