黒い夜の終わり
続けて読んでいただいてありがとうございます。
「遅かったねー」
扉を開けると、武器を身に着けたベルナとアリアがベッドに腰かけていた。
リカルドとディックは雨のせいで全身びしょ濡れだが、それを気にしている場合ではない。
「これってアップだよな?」
「うん、たぶんアップだろうねー」
「アップだと思う」
「アップって何だよ?」
ディックは首を傾げる。
「あぁ、通じないか、悪い。アップってのはモンスターの暴走ってことだ」
「なるほど、それじゃあ早くモンスターをどうにかしないと!」
「そうだな。このままじゃ相当やばそうだ」
リカルドは窓の外を見下ろしながらそう言う。
宿屋の前の道には水が溜まっていた。
まだ足首くらいの高さだが、雨の勢いからしてすぐにもっと高くなるだろう。
「でも、水ならそのうち流れていくか……」
「流れないよ」
「え?」
「アリアの言うとおりだ。ここに来るとき、丘を越えてきただろ。ここはそんな丘に囲まれていて、水が溜まりやすいんだ」
「じゃあ、本当に急がないとやばいんじゃ……」
「だから、そう言ってるだろ。俺は水を移動させてみるから、モンスターの方は頼めるか? あと、俺とディックはこの水に濡れても何ともないから、毒の心配はしなくてよさそうだ。」
「分かった」
「うん、ベルナに任せて! さっさと片付けちゃうよー」
「お、俺もできる限りのことはする!」
リカルドの言葉に頷いた三人。
アリアとベルナはサッと座っていたベッドから立ち上がり、部屋の外へと向かう。
ディックも二人に続いて部屋を出る。
服の上から、ポケットに入れたナイフを握りしめていた。
緊張しているのだろう。
それも無理のない話だ。
これだけの水を降らせているのだから、相当強いモンスターが原因だと予想できる。
そのモンスターを今から倒しに行くのだから、怖くないはずがない。
それでも、なんとか表情には出さないようにキリっと眉を上げ勇ましい顔を作っていた。
しかし、宿の屋根の下で、ベルナが少し心配そうにディックを見上げてきた。
「ディック君、珍しい顔してるね。もしかて怖い?」
「は、はぁ?」
ディックは動揺して、言葉を詰まらせた。
すると、そのやり取りを聞いていたアリアが、話に入ってくる。
「いいよ、ここに残ってても」
「はぁ? よくねーよ! 俺がモンスター見つけて片付けてやるよ!」
そう言ってディックは屋根の下から出て辺りをぐるりと見回す。
何もない。
次は、振ってくる水に逆らって少し上を見てみる。
すると、大きな水の塊が宙に浮いているのに気が付いた。
「あれ、なんだ……」
「うっわー、あんなの見たことない! あそこにいるのかもしれないね!」
「行ってみよう」
いつの間にかディックの隣に来ていたベルナとアリア。
アリアが駆け出すと、ベルナとディックも水の塊が浮いている方へと走り出した。
水の塊の真下辺りに来た三人は、周囲を見渡すが、モンスターらしき影はない。
「……何もいなくねぇか?」
「そうね」
そうしてモンスターを探していると、今まで溜まっていくだけだった足元の水がディックたちが走って来た方へと流れ始めた。
「うわっ! 水が動いた!」
「慌てないで。これはリカルドがやってること」
「えっ、そうなのか? 俺はてっきりモンスターかと……」
「ねぇねぇ、本物のモンスターも来たみたいだよー!」
そう言うベルナの指さす方を見るディックとアリア。
ベルナが指すのは屋根の上。
そこにいたのは、人間の頭ほどの大きさの生き物だった。
「水猫か……」
「二十匹くらいはいそうだよね。早く下りてきてくれないかなー」
「おい、なんであんなに多いんだよ。普通多くても三匹くらいだろ?」
冷たい汗がディックの頬を流れる。
「暴走したモンスターと戦うのは初めて?」
濡れた髪を払いながら、アリアは尋ねる。
「初めてだけど……」
「そう。モンスターは暴走すると集団で人間を襲うようになるの。あなたの村でもそうだったでしょ?」
「俺の村もアップのせいであんなことに?」
「そう」
「そうだったのか……。あんなことになる前に止めないと……」
「え、ちょっと、ディック君何する気?」
ディックは水で流されてきた木の枝を掴んで振りかぶる。
そして、それを屋根の上にいる水猫たちに向かって投げつけた。
その木の枝は当たりはしなかったものの、混乱させることには成功したらしい。
水猫たちは屋根の上で走り回っている。
「お、それいいかも!」
アリアとベルナも同じように、流されてきた物を投げつけた。
すると、水猫の一匹がディックたちめがけて飛んできた。
それをベルナがとっさに剣を抜いて叩き斬る。
斬られたそれは水しぶきを上げて一度沈んだ後に、周りの水を赤く染めながら流れて行った。
「やっと下りてきてくれたねー。もっと来ていいんだよ」
そんなベルナの声に応えるように、水猫たちは一斉に飛びかかってくる。
それと共に、落ちてくる水の勢いも増した。
水に足を取られ、視界を奪われる三人。
しかし、三人は自分の近くに来た敵を着実に倒していく。
そうしていると、だんだんと振ってくる水の威力が弱まってきた。
足元の水も、もうほとんどない。
そして、すべての水猫を倒し終えたときには、足元の水も、空の水も消えていた。
太陽が顔を出し始め、新しい一日が始まろうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は12月2日に更新予定です。
また読んでいただけると嬉しいです。




