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青い剣と暗い空

続けて読んでいただいてありがとうございます。

「おはよう! 起きて起きて! みんな起きて! 早く出発しよーよ!」


 そんなベルナの大きな声でディックは目を覚ました。

 あとの二人も同じだったようで、不機嫌そうな顔でベルナを睨んでいる。

 そんな視線にも負けずに、ベルナは更に騒ぎ続けた。


「ねー、ベルナお風呂に入りたーい! だからみんな急いでよ!」

「うるせぇよ! もう少し寝かせろ」

「やだやだやだー! お風呂お風呂お風呂―!」


 嫌がるリカルドの肩をポカポカと殴るベルナ。

 それが鬱陶しくなったのか、討論が面倒になったのか、リカルドはため息をついた後、ディックとアリアの方を見て、出発するぞ、と指示を出した。

 アリア、ベルナ、リカルドが支度をする間、何も持ち物がないディックは地べたに座ってそれをぼーっと眺めていた。

 アリアは武器である大きな斧をリュックから取り出したあとに、リュックを背負う。

 一方、ベルナは腰に鞘をつけているところだ。

 双剣を使っていたベルナの鞘が一つしかないところを見ると、一つの鞘に二本の剣をしまうタイプらしい。

 早く行こうと言い出した割に、誰よりもゆっくりと支度をするベルナ。


「さっさとしろよ、お前が早く行くって言いだしたんだろ」

「もー、うるさいな! ちょっと静かにしててよ!」

「お前がのろのろ準備するからだろ」

「……」


 だいぶ前に支度を終えたリカルドは、ベルナを急かしていたが、ベルナが無視を始めたため、木に寄りかかって腰に付けたホルスターから銃を取り出し、クルクルと回して遊びだした。

 ディックはそんなリカルドに声をかけることにしたようだ。

 立ち上がって、リカルドの方へと歩いていく。


「あの、リカルド、その銃がお前の武器なんだよな?」

「おぉ、そうだぜ」


 リカルドは銃を回す手を止めた。


「じゃあ、お前はアビリティでは戦わないのか?」

「まぁ、そうだな」

「使えないアビリティなのか?」

「あっ、俺のアビリティ言ってなかったか。俺は火と水の混合ミックスだ」

混合ミックス?」


 ディックは首を傾げる。

 すると、リカルドは少し意外そうな顔をして説明を始めた。


「知らないのか。混合ミックスは父親と母親の両方のスキルを受け継いだ結果、珍しい力が使えるようになることだ」

「え、それって強いんじゃないのか? なんで使わないんだ?」

「俺は火と水の混合ミックスで、使えるのは蒸気だ。自由に蒸気を出して操れる。けど、今のとこ使い道が分からなくてな」

「蒸気銃とかは?」

「あぁ、それは考えたんだが、結局火薬の方が威力出るし、蒸気銃はアビリティ使って疲れるだけなんだ」


 リカルドは肩をすくめる。


「でも、水も火も使えるんだろ?」

「まぁ、初歩的なことはできる。できるのは火や水を操ることくらいで、発生や消滅はさせられない。これなら、どっちかに特化してた方がまだましだったと思うぜ」

混合ミックスだからって強いとは限らないのか……」

「そういうこと」

「ねーねー、その話まだ終わんないのー? 早く行こうよ!」


 支度を終えたベルナが騒ぎ始める。

 リカルドはそれにため息をつきながらベルナに近づく。

 そして、ベルナの頭を軽く叩いた。


「誰を待ってたと思ってんだよ。時間かかりすぎだろ」

「いったーい! 女の子は準備に時間がかかるものなの!」

「アリアはとっくの昔に終わってたみたいだけど」


 リカルドがアリアの方に目を向ける。

 アリアはリュックを背負って立っていた。

 やることがないのか、自分の斧をじっと眺めている。


「ア、アリアちゃんは特別なの! とにかく、早く出発しようよ!」

「はいはい、分かったよ。おい、アリア行くぞ」


 リカルドがそう言うと、アリアは表情を変えずにスタスタと早歩きで三人に近寄る。


「地図確認する?」

「あぁ、一応」

「ここが現在地。ここが目的地、ラリマーっていう町」


 アリアは地図をリカルドに見せながら、指をさす。


「じゃあ、とりあえず、北に行けばいいな」

「そんなんで大丈夫なのか?」


 ディックが不安そうにリカルドを見る。

 すると、隣にいたベルナがディックの腕に絡みついてきた。


「いつもあんな感じだから大丈夫大丈夫! 何かあってもベルナが守ってあげるよー」


 意図的なのかそうじゃないのか、ベルナの胸がディックの腕に押し付けられる。

 混乱して硬直するディック。

 それを見かねたリカルドがベルナを引き剥がす。

 そんなお決まりになりつつあるやり取りの後、四人はラリマーの町に向けて出発した。




 立ちふさがるモンスターを倒しながら森を抜け、小さな丘を越えると、小さな、けれどディックの村よりは大きな町、ラリマーが見えた。

 周囲の土地よりも少し低い位置にあるその町は、周りを木の柵に囲まれている。

 その柵が途切れて門がある場所には、門番が立っていた。

 リカルドが門番に話を通し、四人は町に入る。

 その頃にはもう夕日が沈もうとしていた。

 町の入り口にある木でできた古そうな宿をとって、自由行動になると、ディックはすぐにベッドに横になった。

 隣のアリアとベルナの部屋からは、お風呂にどっちが先に入るかで揉める声が聞えてくる。

 聞こえているのはベルナの声だけだが。

 同室のリカルドは、町を見てくる、と言って出て行った。

 どうやら、森の中のモンスターとの戦闘でクタクタなのはディックだけのようだ。

 正確には戦闘で疲れたわけではない。

 モンスターを倒した後に川に移動する三人に不思議そうな顔でついていったディックは、そこで見てしまった。

 モンスターの皮の下から現れる、ピンク色の肉、それをそぎ落として出てくる白い骨。

 モンスターは皮を剥いだり、肉を削いだりしないと売り物にならないが、ディックはそれをしたことがなかった。

 ディックは最近までモンスターを狩るだけで、狩ったあとは両親に丸投げしていたのだ。

 だから、ダメージを受けるのも無理はない。


「あぁ、思い出すだけで気持ち悪い……。もうこのまま寝ようかな。飯食える気しないし」


 ディックは枕に顔を埋める。

 しかし、その直後、キィっと部屋の扉が開く音がして、ディックは渋々顔を上げた。

 そこに立っていたのはリカルドだった。


「よう、もう寝るのか?」

「そのつもりだったけど、何か用か?」

「あぁ、武器屋見つけたからお前を迎えに来たんだ」

「そういえば武器買うんだったな」

「忘れてたのか? まあいい。ほら、行くぞ」


 そう言ってリカルドはディックの返事も聞かずに、扉の外に歩いて行ってしまう。

 断ることができなくなったディックは、ため息をついた後にベッドから下りてリカルドを追いかけた。




 ディックの村と比べれば、ラリマーは賑やかだ。

 商売が盛んなようで、道の両脇には露店がずらりと並び、客を呼び込む声が至る所から聞こえてくる。

 自分の村とは違う雰囲気に興味が湧いたのか、ディックは疲れていることも忘れて、チョロチョロと動いて露店を覗いて回っていた。

 小さな体で動き回るディックを見失わないように、リカルドは必至で追いかける。


「おい、ディックそっちじゃない!」

「でもこっちから楽しそうな声が……」

「それは後で見に行っていいから、先に武器買うぞ」


 やっとディックに追いついたリカルドは、ディックの首根っこを掴んでそのまま移動を始めた。

 そして、一つの建物の前で立ち止まる。

 さっきまでの露店とは違って、建物の中で物を売っているようだ。

 リカルドが扉を開くとカランカランと音が鳴る。

 扉の向こうには腰の曲がった白髪の男性が一人。

 椅子に座って剣の手入れをしていたその男性は、建物に入ってきたディックとリカルドの方を見る。

 おそらくこの店の店主だろう。


「いらっしゃい」


 店主はニコリともせずにそう言うと作業に戻る。


「武器がほしいんだが」


 リカルドがそう言うと、店主は黙って壁の方を指さす。

 壁には、様々な武器が掛けられていた。


「勝手にしろってさ」


 リカルドは苦笑しながら壁に近づく。

 ディックもそれに続いた。

 背の高いリカルドでも見上げるくらいの高さまで並べられた、たくさんの武器。

 剣、槍、斧、槌、鎌、銃、弓など種類も豊富だ。


「どれにする?」

「って言われても俺よく分かんねぇし……」


 そう言いながら、ディックは壁にかかった武器を眺める。


「うーん、筋力あんまなさそうだし、軽い方がよさそうだな。持ってみてもいいか?」


 リカルドが尋ねると、店主は手元から目を離さずに頷いた。

 それを確認して、リカルドは近くにあった剣を手に取って軽く振る。


「ちょっと重いか……」


 リカルドは剣を壁に掛ける。

 そして、次の武器を手に取ろうとした。

 そのとき、ディックが何かを見つけたように目を見開き、リカルドを止める。


「ちょっと待って。その右の奴、そう、それ。それ取ってくれ」


 驚いた顔をしながらも、リカルドはその剣を取ってディックに手渡した。

 ディックには届かないくらい高いところにあったその剣は、波打つような形状の刃と、青い柄が特徴的な短剣だった。


「……似てる」

「ディック? どうした?」

「父さんの持ってた剣に似てるんだ。俺、これにするよ」

「……そうか。よし、じゃあそれ買おう!」


 リカルドは会計を済ませるために店主のもとに向かう。


「これが欲しいんだが」


 店主は作業を続けたまま答える。


「その剣なら、百万プロスだ」

「は? 高すぎだろ」

「じゃあ、買わなくていい」

「なんとかするから、取り置いてくれないか?」


 その言葉に、店主は作業の手を止め、リカルドを値踏みするようにじっと見る。

 そして小さく頷いた。


「明後日までだ」

「あぁ、ありがとう」


 店主と約束を取り置きの約束を交わして店を出る。

 すると、外は真っ暗だった。

 それは夜だからというだけではない。

 雨が降っていたからだ。

 

「走るぞ」

「おう」


 宿に向かって走り出す二人を大粒の雨が叩いた。

 雨はどんどん強くなっていく。

 宿に着いた時には滝のような雨が降り注ぎ、道にも水が溢れていた。


「これはもしかして……」


 リカルドはそう呟くと、アリアとベルナの部屋に走っていった。

 状況が掴めていない様子のディックも慌ててリカルドについていった。


読んでいただいてありがとうございました。

次は11月25日に更新の予定ですが、小説家になろうグループの休業関連で投稿できなければ、

27日に更新します。

サイトに不慣れで休業がどういうことか理解できていなくて、すみません。

次も読んでいただけると嬉しいです。

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