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黒の中に差す光

続けて読んでいただき、ありがとうございます。

 ディックが村の外に出ると、アリア、ベルナ、リカルドの三人は円になって座り、話し合いをしているようだった。

 ディックに気付いたアリアがベルナの方に寄ってスペースを空けてくれた。

 その動きで、後の二人もディックに気付いて話すのをやめる。

そして、リカルドが手招きをすると、ディックはリカルドとアリアの間に胡坐をかいて座った。

 アリアとリカルドに挟まれる形になって、ディックの背の低さが強調されている。

 両隣の二人は、なんと声をかけようか考えているようだ。

 正面のベルナは、ニコニコしながらディックの顔を眺めている。

 そんな中、ディックは小さな深呼吸を一つして、口を開いた。


「あの、手伝ってくれてありがとう。で、昨日言ってた、えっと、あの、仲間になるって話なんだけど……。本当にいいのか?」


 数秒の沈黙。

 ディックはただ返事を待つ。


「あぁ、来い」


 リカルドは目をそらしながらそう言った。

 その声には優しさが感じられる。

 アリアとベルナもそれに続いて話し出す。


「リカルドがいいって言うなら」

「私も私も! というか可愛い男の子が頼んでるのに断るなんてできないよねー! これからよろしくね!」


 あっさり受け入れられたことにポカンとしていたディックっだったが、すぐに我に返って、よろしくお願いします、とまた頭を下げた。


「おいおい、そんなに固くならなくていいぞ」


 リカルドが苦笑する。

 ベルナからは、可愛いー、という声が上がる。


「名前は?」


 頭を上げたディックを見つめながら、アリアが尋ねた。


「あ、まだ名乗ってなかったか。俺はディックっていうんだ」

「そう」

「えっと、お前の名前は?」

「アリア」

「おぉ、そうか。よろしく、アリア」


 ディックは、手を差し出すアリアに握手で応えた。

 すると、それを見ていたベルナがアリアを横から押しのけて、ディックの手を引き寄せた。


「ちょっと、アリアちゃんばっかりズルい! 私の名前も気になるよね? 気にならない訳ないよね。だって、こんなに可愛いんだもん。そう思うよね、ね?」


 握られた手に当たる大きな胸に混乱するディックをよそにベルナの自己紹介が始まる。


「私はベルナ。チャームポイントは、この大きな目と、サラサラの髪と、というか全部! こんなに可愛い私と旅できるなんてディック君は幸せだねー。あとあと、好きなものはね……」

「おいベルナ、その辺にしとけ」


 リカルドがベルナの肩を軽く押して、ディックから引き剥がす。

 そして、むくれるベルナを無視してディックに手を差し出した。


「ベルナが暴走して悪かったな。こういうやつなんだ。頑張って慣れてくれ。それと、俺はリカルド。一応、この集団のリーダーみたいなものだ。よろしくな」

「あ、あぁ、よろしく」


 リカルドとも握手を交わしながら、ディックは気になっていたことを尋ねてみる。


「そういえば、三人は異能力者ソーサラーなのか?」

「あぁ、それも言っとかないといけなかったな。俺はそうだが、アリアは違う。ベルナは微妙だな」

「微妙って何だよ?」

「あいつは予知の能力があるらしい」

「予知?」

「そう、予知」

「そんなの聞いたことないぞ」

「俺もベルナ以外は知らないから、アビリティなのか何なのか分からないんだ。なぜか、不吉なことが起きる場所が分かるらしい。この村で何か起きるってベルナが言うから来てみれば火兎ファイラビットのせいで大火事になったし、よく当たるんだ」


 リカルドが自分の話をしているのを聞きつけて、それまで少し離れた所でふてくされていたベルナがディックの前にやってきて、座っているディックに目線を合わせてしゃがむ。


「私たちがここに来たのは私の予知のおかげ。そしてディック君が生きてるのは、炎に突っ込んでいこうとしたのを、私たちが止めたから。つまり、ディック君がここにいるのは私のおかげなの。このベルナちゃんにもっと感謝していーよ!」


 得意げにドンと自分の胸を叩くベルナ。

 大きな胸が揺れる。

 ディックはそれから目をそらしながら、ありがとう、と小声でお礼を言った。

 お礼を言われて満足したのか、ベルナは、どういたしまして、と言いながら立ち上がった。

 そして一つ伸びをする。


「あー、じっとしてるのってしんどい! 私が薪でも拾ってきてあげる。どうせ今日は野営でしょ?」

「おい、もう暗くなるから一人で行くんじゃねぇ」


 森の方へ歩き出すベルナをリカルドが追いかける。

 残されたのは、ディックとアリアの二人。

 アリアはリュックをガサガサと漁り、飲み水や食料などを取り出していた。

 ディックはアリアのリュックが気になるのか、リュックをじっと見つめている。


「何?」


 アリアが怪訝そうに首を傾げる。


「え、あ、いや、そのリュック何でも入ってるなって思って……」

「必要なものはだいたい持ってる」

「なにか特別なリュックなのか?」

「違う」

「でも、アリアって無能力者ラックなんだろ? 最初はアビリティだと思ってたんだけど、違うとなると……」


 腕を組んで考え込むディック。

 その様子を見て、アリアはあっさり答えをくれた。


「特別な収納方法があるの。私の一族に受け継がれてる」

「収納方法が違うだけでそんなに入るのか、すごいな。というか、一族ってなにか特別な血筋なのか?」

「特別ではない。ただ、一ヶ所に留まらずに移動しながら生活しているってだけ」

「へぇ、そういう人たちもいるんだな」

「いる」


 話が一段落して沈黙が訪れる。

 何か話題を探そうとソワソワするディック。

 一方、アリアは黙々と野営の準備を進めていた。

 アリアは沈黙が苦にならないタイプなのだろう。

 結局、ベルナとリカルドが薪を抱えて戻ってくるまで、二人に会話はなかった。




 ベルナとリカルドが持ってきた薪に、アリアがリュックから取り出した火打石で火をつけた。

 その時には、すでに辺りは暗くなっており、火が四人の周りを明るく照らす。

 火をつけた瞬間こそ少し硬直していたディックだったが、すぐに首を横に振って火の側に腰を下ろした。

 四人で火を囲んで座り、アリアが持っていたパンを食べる。

 ディックは昨日の出来事のせいで食欲はなさそうだが、なんとか口にパンを運んでいた。

 が、限界に達したのか半分ほど残ったパンをいったん膝の上に置いた。

 そして、隣でバクバクパンを食べているリカルドに話しかける。


「あの、明日からどうするんだ? 行く場所とか決まってるのか?」


 ディックに声をかけられたリカルドは、食べる手を止めた。


「とりあえず、ベルナの予知があるまでは適当にその辺の町でモンスター退治の依頼をこなすつもりだ」

「私の予知は不定期だから、それまではお金稼ぎだよー。ディック君も頑張ってね!」

「あ、そうだ、お前の武器を買う必要があるな」

「え?」

「ナイフじゃ心もとないだろ? 結構上級のモンスターを相手にすることもあるからな」

「でも俺、金持ってねぇし……」

「心配すんなよ。仲間の武器なんだから、こっちで払う」

「いや、悪いって!」

「いいっていいって! リカルドさんが言ってるんだから甘えちゃいなよ!」

「でも……」

「死なれると迷惑」

「……そうだな。悪いけど頼む」


 遠慮していたディックの承諾も得られたため、次の目的は決まった。


「おい、アリア、地図出してくれないか?」

「分かった」


 アリアは国全体が載っている地図を広げる。

 そして、その地図の右端を指さす。

 そこが現在地なのだろう。


「じゃあ、一番近い町はこの森を抜けてしばらく行った所か」

「そう」

「次はそこに行くの? そこなら一日歩けば着くかな? ベルナ早くお風呂入りたーい。ってあれ?」


 行き先も決まったところで、ディックがコクリコクリと船をこぐ。

 それを見て、リカルドは火に手をかざす。

 しかし、何も起こらない。


「あれ、おかしいな」

「リカルドさん疲れてるからじゃないの?」


 そう言いながら、ベルナが薪をいくつか抜いて、火を小さくした。


「今日はもう寝るか」

「そうだね、ディック君半分寝てるし」

「おい、ディック寝るぞ」


 リカルドがそう言ってディックに毛布を渡すと、ディックはすぐにそれを被ってその場に横になった。

 それを見て、他の三人も同様に横になる。

 四人の真ん中では小さな小さな火が朝まで燃えていた。


読んでいただいてありがとうございました。

次は11月19日に更新予定です。

次も見ていただけたら嬉しいです。

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